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#14 「日新火災海上保険事件」東京地裁

2003年11月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第14号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【日新火災海上保険(以下、N社)事件・東京地裁判決】(1999年1月22日)

▽ <主な争点>
中途採用者の考課基準・格付、求人広告の記載が雇用契約の内容となるか

1.事件の概要は?

本件は、N社に中途採用されたXが新卒同年次定期採用者(Xと大学卒業年次が同じで、卒業と同時にN社に採用された者をいう)の平均給与を支給することが雇用契約の内容になっていたにもかかわらず、N社は平均的格付を下回る格付による基本給によって賃金を算定したため、未払賃金を生じたことに加え、同社が社員給与規程通りの住宅手当の一部を支給していないとして、未払賃金および慰謝料等を請求したもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xについて>

★ Xは、昭和56年3月に大学を卒業し、自動車会社の工場にて勤務していたが、平成3年7月、転職情報誌に掲載されたN社の中途採用者募集広告を見て、同社の募集に応募した者である。

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<N社の求人広告の記載内容、賃金体系、中途採用者の考課基準について>

★ 上記求人広告には「◆たとえば、キャリアを活かした転職、業界経験、職種経験をフルに発揮して、もっと満足できる環境の中で能力を磨きたい。そんな方には、きっと納得していただけるような待遇をお待ちしています。◆あるいは、第二新卒としてやり直してみたい方。89年(注:平成元年)、90年既卒者を対象として、もう一度新卒と同様に就職の機会を持っていただく制度があります。もちろんハンデはなし。たとえば89年卒の方なら、89年に当社に入社した社員の現時点での給与と同等の額をお約束いたします」という記載があった。

▼ Xは採用試験の結果、3年9月にN社から内定通知を受領し、11月に会社説明会に出席した。それまでの面接の段階では雇用条件等についての説明はなされていなかったが、同社はこの説明会において「本給・手当項目」と題する書面を交付し、雇用条件、就業規則等について説明した。しかし、この時点で既存の社員に適用されていた本給テーブルは示されなかった。

★ N社の賃金体系は、職種ごとに年齢と類・考課によって各人の本給額が決定する総額本給テーブルによっており、各人の月額基本給は原則として各人の年齢と考課評定に基づく各人の類・考課によって毎年決定される。

★ Xは事務給者に属しており、同職種の本給テーブルはI類からIV類まであって、各類はEからAまでに分かれている。

★ N社が労働組合と合意している、満30歳以上の中途入社者の採用条件についての運用基準によれば、満30歳以上の中途入社者の初任給については「当該年齢の適用考課の下限を勘案し、個別に決定する」と定められており、昇級・昇格については既存の従業員と同様である旨定められている。

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<Xの格付、入社後の経歴等について>

★ Xの格付については、入社した年度の期首におけるXと同年齢の事務給職員の適用考課はII類Dが下限であったので(平均はII類C)、上記運用基準に従い、同年12月にII類Dと決定した。そのため、それ以前にXに発送された採用内定通知には本給の記載はなかった。

▼ 4年1月、XはN社と期限の定めのない雇用契約(以下「本件雇用契約」という)を締結し、安全サービス部に配属され、顧客サービス支援業務に従事するようになった。

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