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#29 「上州屋事件」東京地裁

2004年3月10日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第29号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【上州屋(以下、J社)事件・東京地裁判決】(1999年10月29日)

▽ <主な争点>
不適格性を理由とする降格

1.事件の概要は?

本件は、支店長としての不適格性を理由として、J社がXに対してなした降格異動の効力等が争われたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xについて>

★ Xは、昭和58年4月、J社に入社し、G支店に配属され販売員として勤務していた者である。

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<XのJ社における勤務状況等について>

▼ XはN店長との関係が悪く、59年3月、同店長に鼻の骨を折るという傷害を負わせ、J社から懲戒処分として10日間の出勤停止命令を受けた。

▼ その後、異動したB支店において、(1)顧客とよく口論する、(2)顧客を怒らせることがある、(3)女子店員に卑わいな発言や他人の気にすることを平気で言う等の理由から同店のK店長は本社に対し、Xを「問題児」として指摘していた。

▼ 63年6月、J社はXの接客態度や人間関係に不安を感じてはいたが、急激な店舗数の増加で店長の人材不足が深刻な状況になっていたことから、XをH支店の店長代理とした。

▼ 平成9年7月、Xは新規に開店したT支店の店長となったが、好ましくない接客態度によって顧客からクレームを受けるようなことがしばしばあった。

★ Xはレジに一定額以上の過不足が生じた際、義務付けられていた本社への報告を怠り、レジにマイナスが生じたときにキープ銭(注:レジにプラスが生じた際や顧客が釣銭の受領を忘れた際に保管しておいたお金。J社では禁止されていた)で補充するような処理を行っていた。

★ T支店のあるT市では、原子力発電所の周辺地域において、電力会社から電気の供給を受けている家庭や企業に対し、国から「原子力立地給付金」が交付されていた。XはJ社がT市内に借り上げた社宅に居住していたところ、J社宛に交付された原子力立地給付金1万1376円を実際の居住者であるXに交付されたものと考えて、J社の許可なくして取得した。

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<Xの自宅待機、降格に至った経緯等について>

▼ 10年2月、A課長らがT支店に赴いたところ、Xが金庫にキープ銭をしていたこと、原子力立地給付金を取得していたことが判明したため、Xを本社に呼び出し、事情聴取を行うことになった。

▼ 事情聴取後、XはJ社から反省文を書くように指示され、これを作成した。その反省文は、原子力立地給付金を取得したこと、レジの誤差報告を怠ったことを認め、それについて謝罪するとともに退職を希望するような内容のものであった。

▼ 事情聴取の翌日、J社はXの処遇を検討するため、Xに対し、期間を定めず、自宅待機を命じたが、なかなか結論が出ず、結局自宅待機の期間は2ヵ月に及んだ。J社はXには直接告げずにこれを休職扱いとした。

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