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#533 「青森三菱ふそう自動車販売事件」青森地裁八戸支部(再掲)

2021年3月17日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第533号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【青森三菱ふそう自動車販売(以下、A社)事件・青森地裁八戸支部判決】(2018年2月14日)

▽ <主な争点>
長時間労働下での叱責に過敏反応して図った自殺と使用者責任など

1.事件の概要は?

本件は、Yらの子であるX(平成28年5月9日死亡)が勤務先であったA社八戸営業所における違法な長時間労働が原因でうつ病に罹患し、首つり自殺をしたことについて、Xに対する業務上の指揮監督権限を有する上司(所長、課長代理)に違法な長時間労働を軽減する措置をとらなかった過失または安全配慮義務違反があったなどとして、Xの損害賠償請求権を相続したYらがA社に対し、(1)使用者責任、(2)同社自身の不法行為責任または(3)雇用契約上の債務不履行責任に基づき、固有の損害を含め、Yにつき4437万3990円、Zにつき4340万7234円の各損害賠償および遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<A社、X、YおよびZについて>

★ A社は、自動車の仕入販売および修理等を目的とする会社であり、青森県内に八戸営業所を有している。

★ Xは、平成27年4月、A社に雇用され、八戸営業所において自動車整備作業等に従事していた者である。

★ Yは、亡きXの父、Zは、Xの母である。

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<Xの死亡等について>

▼ Xは平成28年4月16日午後0時30分頃、八戸営業所内に設置された天井クレーンの先につながれていた金属製のワイヤーに首を吊った状態で発見された。Xは心肺停止状態で病院に救急搬送され、心肺蘇生後入院したが、同年5月9日、低酸素脳症を原因として死亡した。

★ XのGoogleアカウントには、同日午後0時22分に「首吊り自殺」についての検索履歴が残されていた。

▼ 八戸営業所ではXが発見された直後に警察による検証および聴取が行われた。その後、従業員の中にXからワイヤーを用いてストレッチをしているとの話を聞いた者がいたことから、数日後にB所長の指示により、C課長代理が警察に事故の可能性があることを報告した。

▼ Yは同年4月中旬頃、B所長およびC課長代理と面談し、同所長らからXの首吊りは事故によると思われる旨の説明を受けた。その後、Yは再度、B所長らと面談したが、その際に自殺の原因は全く心当たりがない旨述べた。なお、Xの自室等から遺書や自殺をうかがわせるメモ等は発見されなかった。

▼ Yは同年5月頃、Xの死亡に係る生命保険金の請求手続を行った。その際、事故原因につき、クレーンを使用したストレッチ中にあごにかけたワイヤーが意図せず絞られ、首が締まった旨記載されたA社作成の事故報告書を保険会社に提出した。

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