#558 「朝日建物管理事件」福岡地裁小倉支部
2022年3月16日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第558号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【朝日建物管理(以下、A社)事件・福岡地裁小倉支部判決】(2017年4月27日)
▽ <主な争点>
配転命令に正当な理由なく従わず、出勤しなかったことによる解雇など
1.事件の概要は?
本件は、A社に雇用され、門司市民会館において受付として稼働していたXが他の市民会館への配転命令を受けた上、同社から2014年6月9日付で解雇されたこと(本件解雇)について、上記配転命令が違法無効であって、本件解雇も無効なものであるとして、A社に対し、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、本件解雇の日から判決確定の日まで毎月20日かぎり月額14万1000円の割合による賃金および遅延損害金の支払を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<A社およびXについて>
★ A社は、建築物の総合的な管理に関する業務等を目的とする会社である。
★ Xは、2010年4月1日、A社との間で契約期間を同日から2011年3月31日までとする有期労働契約(以下「本件労働契約」という)を締結し、同社が指定管理者として管理業務を行う門司市民会館で勤務していた者である。
★ 本件労働契約には、「契約期間の満了時の業務量、従事している業務の進捗状況、Xの能力、業務成績および勤務態度ならびにA社の経営状況により判断して契約を更新する場合はある」旨の定めがあった。その後、同契約は同様の内容で4回更新され、最後の更新において、契約期間は2014年4月1日から2015年3月31日までとされた。
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<本件配転命令、本件解雇に至った経緯等について>
★ A社は、甲社および乙社と「共同企業体A2K」という名称の組合を組織して、北九州市から指定管理者としての指定を受け、門司市民会館、若松市民会館および八幡市民会館の管理業務を行っている。
★ A2Kでは、上記各市民会館の管理業務を各社に割り振って、各々の従業員を配置していた。また、本件当時、各市民会館の業務の統括を行う者としてBが北九州市との折衝を行い、各館の館長と甲社および乙社の各責任者ならびにA社九州支店の支店長CとでA2Kグループ運営会議が開催されていた。
▼ 2014年1月、Xは他のスタッフとともに福岡労働局の北九州東労働相談コーナーに赴き、年次有給休暇の不適切な取扱い、D館長(当時)によるパワーハラスメントについて相談をした。また、Xらは北九州市役所にも同様の相談を行った。
▼ A社においては、Xの雇止めが検討されたが、その時点で雇止めを行えば、Xらが上記のような相談を行ったことに対する報復人事だと受け止められる可能性があることを危惧して、同年3月、本件労働契約を更新した。
▼ A社は同年5月8日、Xに対し、口頭により6月1日付で若松市民会館の受付係へ移動するよう告知した(以下「本件配転命令」という)。
▼ XはA社に対し、本件配転命令は労働条件通知書の内容に反した不当な人事異動であり、パワハラの被害者である自分が加害者であるB統括が常駐する勤務場所に異動するのは承服しかねるとメールで抗議をした。
▼ これを受けて、A社は書面にて、(1)本件配転命令の理由は門司市民会館の体制の強化および人間関係問題の解決であること、(2)本件配転命令は労働条件通知書の勤務場所欄の但書の場合に当たること、(3)XとB統括との間でパワハラがあったとは同社は認識していないこと、を回答した。
▼ A社は改めて本件配転命令の辞令書をXに交付し、「6月1日以降、若松市民会館に出勤しなければ欠勤扱いとなり、そうした事態が一定期間続くと懲戒処分の対象となる」と書面で告知し、6月1日、Xが若松市民会館にも門司市民会館にも出勤しなかったため、電話で「これから1週間出勤しなければ解雇する」と伝えた。
▼ A社は6月6日、Xの代理人に対し、就業規則48条1項1号および3号を理由として、同月9日付でXを解雇し、解雇予告手当を支払う旨を通知した(以下「本件解雇」という)。
▼ A社作成の同月16日付解雇理由証明書には、Xが6月1日付で発令した若松市民会館受付係に異動する業務命令に正当な理由なく従わずに6月1日に同市民会館に出勤せず、その際、「今後1週間出勤しなければ解雇する」と警告されたにもかかわらず、その後も何の連絡もなく出勤しなかったことが就業規則48条1項1号および3号に該当すると記載されている。
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<A社の就業規則の定めについて>
★ A社においては、九州支店の門司市民会館社員および若松市民会館社員の服務規律、労働条件、賃金、その他就業に関する基本事項を定めたものとして、就業規則が定められ、以下のように規定されている。
・異動(42条)
A社は、業務の都合により会館社員の職種を変え、あるいは職場を異動させることがある。会館社員は、正当な理由がなければこれを拒むことができない。
・解雇(48条)
会館社員は、次の各号の一に該当することとなった場合には、解雇とする(1項)。
(1)業務の能力が著しく劣り、出勤が常でないなど業務運営の障害になるとA社が判断したとき。
(2)事業の縮小、廃止その他A社の都合により余剰人員を生じたとき。
(3)その他前各号に準じるやむを得ない事由がある場合。
3.契約社員Xの主な言い分は?
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