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#145 「モルガン・スタンレー・ジャパン事件」東京地裁

2006年7月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第145号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【モルガン・スタンレー・ジャパン(以下、M社)事件・東京地裁判決】(2005年10月19日)

▽ <主な争点>
高額基本給が支給されている場合の時間外労働の対価/割増賃金

1.事件の概要は?

本件は、M社の従業員であったXが平成14年11月から16年4月までの間、平日(通常勤務日)の午前7時20分から9時までの間、合計535時間の所定外労働をしたにもかかわらず、その所定外労働に対する割増賃金の支払いがなかったとして、M社に対し、合計約800万円の支払いを求めたもの。

Xの本件請求につき、M社は「Xは労働基準法(以下「労基法」という)第41条2号の管理監督者に当たる」、「Xは1年間に基本給として2200万余円および裁量業績賞与として約5000万円の報酬を受けており、この基本給の中にはXの請求する超過勤務手当が含まれている」などと主張した。

2.前提事実および事件の経過は?

<M社およびXについて>

★ M社は、国際的な総合金融サービスグループの日本における拠点として幅広い金融サービスを提供している、いわゆる外資系インベストメントバンクである。

★ M社の社員は秘書業務や事務業務など、他の社員の補助的な業務につく「一般社員」と、業務の専門家として、自己の判断に基づいて業務を進めることが予定されている「プロフェッショナル社員」で構成されている。

★ Xは平成10年4月、M社東京支店に入社し、エグゼクティブ・ディレクターの資格を有するプロフェッショナル社員として、同社の外国為替本部において、外国為替関連取引の営業に従事していた。

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<M社における労働時間管理および賃金・手当等について>

★ M社では、プロフェッショナル社員は労働時間管理を一切受けておらず、それぞれの業務の専門家として、各自がその責任において、自己の職務を全うすることが期待されており、いつ、どのように仕事を進めるか、すべて自己の判断に基づいて行動することが求められ、労働時間についても自由裁量を有している。

★ 賃金・手当については、プロフェッショナル社員には年間基本給の他に会社、部署および個人の業績に基づく裁量業績賞与が支給されるのみで、超過勤務手当の支払いについての規定はなく、支払いがされたこともない。

★ M社のような業界では、所定時間外労働に対する対価も含んだものとして高額の報酬が支払われており、超過勤務手当名目での賃金の支払いがないのが一般的であり、Xもこのことを認識していた。

★ プロフェッショナル社員のボーナスを含めた年収は一般社員と比べると極めて高額であり、Xの平成15年の年次総額報酬は62万5000米ドル(うち年間基本給2200万円)であり、16年の1月から4月までの間、年間基本給として月額約184万円の支給を受けた。

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<M社の勤務時間等について>

★ M社の就業規則によると、社員の通常の勤務時間は平日の午前9時より午後5時30分(1時間の休憩時間を除く)とされている。

★ M社東京支店の外国為替本部では、平日午前7時30分頃から本部長の下、アシスタントを除く社員全員が集まり、ミーティングを開いていたが、Xも14年11月から16年4月の間、このミーティングに参加していた。

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