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#349 「K化粧品販売事件」大分地裁

2013年11月27日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第349号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【K化粧品販売(以下、K社)事件・大分地裁判決】(2013年2月20日)

▽ <主な争点>
研修会におけるコスチュームの着用と不法行為など

1.事件の概要は?

Xは平成21年10月27日当時、K社の業務に従事していたところ、同社が実施した同年7月、8月度の販売コンクールにおいて、Xの特定商品の販売数が割り当てられた販売目標数に達しなかった(「未達」と呼称されていた)。K社は美容部員を対象に原則として月1回、新商品の勉強会や販売を達成するための勉強会を目的とする研修会を実施していた。

本件は、(1)K社で行われた従業員の研修会(本件研修会)に際して、同社のA(販売部ストア課課長)、B(同課美容係長・ビューティートレーナー)、C(同課販売第1係主任・エリアマネージャー)がXに対し、その意に反して特定のコスチューム(頭部にウサギの耳の形をしたカチューシャをつける等した易者のコスチューム)を着用して研修会に参加するように強要するなど(その後、コスチュームを着用したXの姿を含む本件研修会のスライド投影がされた)したこと、また、(2)K社のD(業務部課長)がXの診療情報を医療機関から詐取しようとした(DはXが通院していたクリニックに対し、産業医を介してXの診療情報提供を依頼した)ことについて、これらの行為がいずれも不法行為に該当するとして、XがA、B、CおよびDに対して損害賠償を請求し、K社に対してはAら4名の上記行為に対して使用者責任を負うとして、損害賠償請求をしたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K社、XおよびAらについて>

★ K社は、化粧品販売等を目的とする会社である。

★ Xは、平成21年10月当時、K化粧品に有期契約社員として在籍しており、同社から出向したK社にて、美容部員(ビューティーカウンセラー)として勤務していた者である。

★ A、B、CおよびDは、同月当時、Xと同様にK化粧品に在籍し、同社からK社に出向し、勤務していた者である。なお、同月27日当時、AはK社大分支社販売部ストア課課長、同じくBは同課美容係長・ビューティートレーナー、Cは同課販売第一係主任・エリアマネージャーであり、Xの上司であった。また、Dは同社業務部課長であった。

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<本件研修会、本件コスチューム等について>

▼ K社が実施した21年7月の「7月度ホワイトラスター拡販コンクール」および同年8月の「8月度ホワイトラスター拡販リベンジコンクール」において、Xの特定商品(ホワイトラスター)の販売数はXに割り当てられた販売目標数に達しなかった。なお、K社ではその月の重点販売商品に定められた特定の商品の月間販売目標数に販売数が達しなかったことを「未達」と呼称していた。

▼ K社は21年10月27日、研修会(以下「本件研修会」という)を開催したところ、美容部員の会社業務の一環として本件研修会への出席が義務づけられていたXも参加した。なお、A、BおよびCは本件研修会に参加し、手続を主催した。

★ K社は美容部員を対象に原則として月に1回、新商品の勉強会や販売を達成するための勉強会を目的とする研修会を実施していた。

▼ Bは本件研修会を始めるに際して、21年7月および8月に「未達」であった美容部員である4名(Xを含む)を前に呼び出し、それぞれあらかじめ用意されていた特定のコスチュームを選ばせ、着用するように指示した。これらの特定のコスチュームは4種類あり、Bから早く着用するように促され、Xは他の研修員と同様に美容部員の制服を着用していたところ、易者のコスチューム(以下「本件コスチューム」という)を着用した。

★ 本件コスチュームは、頭部には光沢のあるピンク色を基調として黒で縁取りされたウサギの耳の形をしたカチューシャをつけ、上半身には白い襦袢を着用し、その上には紫の長袖の小袖、さらに光沢のある青色を基礎とし襟から正面にかけての光沢のある黄色の太い縁取りがなされている肩衣を着用し、下半身には同じく光沢のある黄色の袴を着用するものであった。

▼ 同年11月半ば、K社で実施された研修会において、本件コスチュームを着用したXの姿を含む本件研修会の様子がスライドで投影された。

▼ Xは同月30日、精神保健クリニックの医師から、病名を「身体表現性障害」として、同日から同年12月31日まで休養加療を必要とする旨の診断を受けた。

▼ Xは同年12月1日以降、K社の業務を休業し、年次有給休暇、有給病気休暇の取得を終了した22年3月11日以降は同社の業務について欠勤し、同年6月にK化粧品との契約が更新された後、23年5月末日付でK化粧品の雇用期間が満了した。

▼ 22年4月、Xは大分県労働委員会に対して、K社との間において、あっせんを申請した。その際、Xは申立書にあっせん事項として「(1)パワハラ行為について会社として責任を取ること、(2)今後働きやすい職場環境を保障すること(今後絶対行わないことを保障)、(3)今回パワハラ・セクハラ行為をした方々への処分をすること、(4)会社が実施の休業の強要をしないこと」と、申請に至るまでの経過として「21年10月に販売不振の罰ゲームとしてコスチュームの格好に一日中させられた。そのことが原因で精神状態が追い込まれ、身体表現性障害と診断される」と記載した。

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