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つんでるシネマログ#6 兄弟映画 バスケットケース

原題:Basket Case1982/アメリカ
上映時間91分
監督:フランク・ヘネンロッター
出演者: ケヴィン・ヴァン・ヘンテンリック テリー・スーザン・スミス

 B級映画、カルト映画、バカ映画この映画を見た人はそんなふうに言わずにいられないと思います。この映画の監督はフランク・へネンロッターはB級映画で有名な監督です。B級映画という言葉には色々と含みが色々あるのであまり使いたくありませんが、今回はそう呼ばせてください。まさにそこにこの映画の凄みがあるからです。

 へネンロッターはこの『バスケットケース』の他の様々なあっと驚く(くだらない)映画を数本手がけていますが、けどなんと言っても代表作はこの『バスケットケース』と言えるでしょう。正直へネンロッター監督がどこまで、何を考えて、この映画を作ったのかはわかりませんが、この映画は単にダメな映画、馬鹿な映画と切り捨てれない魅力があります。

 事実『バスケットケース』は公開当時ミッドナイトムービー(70年代以降のアメリカの映画館で深夜上映され映画群。後にカルト的な人気が出た作品が多くある)として大ヒットを記録したというので、人を惹きつける何かがあるのは確実です。

愛憎!兄弟の絆!フリークスの悲哀!悲劇!

大都会ニューヨークに人目をひく大きなバスケットケースを抱えた青年。ケースの中身は不明だが、何か観光とは違う目的を持って青年はやってきたらしい、その中身は…

 この映画、わざわざ隠して話を進める必要はありませんので、ご説明しますと、このバスケットケースの中身は青年の兄が入っています。兄と言っても、およそ人とは思えない姿形をしたそれは、青年と結合双生児として生まれた、奇形児です。青年ドゥエインの兄ベリアルは生まれつきドゥエインの脇腹にくっいて生まれた存在でした。そんな二人の父親はベリアルを気味悪がって医者をよびつけ、乱暴に手術を行い、ベリアルを切り離し、生ごみのように捨ててしまいました。けどベリアルは死ぬことはなく、そのことから父親や医者たちへの復讐を誓い、ドゥエインの協力を得てベリアルはニューヨークへとやってきたのでした。そして医者達を見つけては、一人また一人と復讐を遂行していくのです。

 この唯一無二な設定の復讐劇がお話の骨子となっています。この荒唐無稽さもこの映画の大きな魅力の一つだと思います。

 それともう一つの大きな魅力は、ドゥエインとベリアル、この二人の愛憎溢れる関係性です。ドゥエインとベリアルは基本的には仲のいい兄弟の様なのですが、ベリアルはその醜い容姿や、一人で生きれないという事、異性や他者と繋がれないという葛藤にまみれています。

 ドゥエインも兄ベリアルの存在に縛られているというストレスを抱えています。これはどんな兄弟関係でも、ままありうる感情と言えます。兄弟に対する劣等感だったり、束縛感。親からの愛情を巡る憎しみ、こういう関係性を「カインコンプレックス」なんて言ったりしますが、この二人はまさにそんな関係です。
血の繋がりである兄弟であり、復讐を達成するための関係であり、また同時に憎しみ合う二人でもあるという二人の復讐劇なのですね。

 さらに、この二人は身体こそ手術でバラバラになっていますが、テレパシーのようなもので繋がってしまっているのです。ベリアルの怒りはドゥエインに流れ込みますし、またドゥエインがニューヨークで出会った女の子と良い関係になり、キスをするなどすると、その快楽がベリアルにも伝わってしまいます。そしてベリアルはまたしても、自身のままならなさに劣等感と性欲を刺激されてしまう。
こんなゲテモノ的な話でありながらも、その中心にはとても太い柱として二人の悲劇的な関係性があるのです。

↓以下映画の終盤の展開に触れています↓

 ベリアルとドゥエインは医者達への復讐を果たしますが、ドゥエインはその最中に出会った医者の受付の女性と関係をもってしまいます。それにベリアルは激怒。そして性欲と劣等感を募らせていたベリアルはその女性を襲い、殺害してしまいます。ドゥエインもそこで今まで兄ベリアルに抑圧されてきた為に激昂、ベリアルと掴み合いのケンカとなってしまい、二人はニュヨークのホテルの窓から落下、ベリアルは何とかドゥエインを掴みますが、二人は共に落下して息絶えてしまいます。

 悲劇的な関係の二人が、その通りの悲劇的な最後を遂げるのがこの映画です。一応モンスターホラー映画的な内容なので、殺人鬼の死、怪物の死ということで決着を見るのですが、上記した通り二人は同時にこの映画の復讐劇の主人公であり、そこには悲しさがあります。何をバカなと思うかもですが、ギリシャ悲劇やシェイクスピアみたいな悲劇なのです。

 このラストシーンが非常に感動的です。ビルから落下する一連のシーンには二人の愛憎関係が反映されているようであり、今までの映画の時間がこの終盤にスパークします。

 ベリアルは落下しそうになった時、ホテルの看板に掴まり、ドゥエインが落ちない様にと手を伸ばします、同時にこのシーンはベリアルがまだなおドゥエインを首を絞めて殺そうとしている様にも見えるのです。二人の愛と憎しみ、二人の運命共同体である事が同時に映るワンシーン。そして二人は落下。ベリアルとドゥエインは折り重なるように息絶えます。それはかつて二人の体が繋がっていた時の様にも見えるのです。

 こうして2人が一心同体の運命共同体である事を強く示してこの映画は終わります。奇妙な2人の復讐の日々の終わりです。ラストは死体を囲む野次馬に囲まれて終わっていくのですが、このへんはユニバーサルの『フランケンシュタイン』的な趣もあります。(フランケンシュタイン的な映画『フランケンフッカー』を後に撮ってますが)終盤までのドタバタはどこへやら、まさに悲劇的な終わり方です。

双子とフリークスたちへ


 シャム双生児を描いた映画はいくつかあります。それこそ『フリークス』という実際の奇形者や障がい者のショーマン達が出演した名作にもシャム双生児が登場しますし、有名どころでは『悪魔のシスター』や、身体的な結合はしていないけど精神的に繋がった兄弟の映画『戦慄の絆』などもあります、『バスケットケース』はそんな内の一本と見ることもできるでしょう。

 双子というものは映画においては不気味なものとしてとらわれがちです、例えば有名なのは『シャイニング』に登場する双子達だったり。現実においても双子は凶兆とされるなど、普通とは違ったものや、神秘的なものと捉えられる場合が多いです。『悪魔のシスター』にせよ、『戦慄の絆』にせよ、恐ろしいもの、不気味なもの、というような描き方がなされていると思います。もちろん『バスケットケース』も同じくですが、この映画はそれ意外の悲喜交交が全部乗せにされた娯楽作品であり、見せ物として見事に突き抜けているということです。

 ベリアルも不気味で恐ろしくもあります。ジャンル的にはホラー映画の棚に分類されていると思います。ですが、これは映画を見てもらえればわかりますが、シリアスなだけでなく、この映画は非常にコミカルに描かれています。恋もすれば、セックスもしたい、そして兄弟愛も有り、けど我々が家族を憎く思うように彼にも愛憎がある。まさに全部乗せと言えるでしょう。そこには美化も何もありません。この映画はホラーでありコメディであり、ロマンスのドラマなのです。そこには障害者だから、フリークスだから、哀れだからとか、メッセージを込めるというようなこともありません。同時にバカバカしく描く事にも容赦がありません。そういう意味でとても一貫した視点でこの映画は描かれていると言えるでしょう。

 カオスをカオスのまま描くというのはへネンロッターの美点と言えると思います。そしてそれが胸を打つのです。


『バスケット・ケース』から連想した映画達

悪魔のシスター
ブラインアン・デ・パルマ監督の結合双生児を題材にしたサイコスリラー
ヒッチコックの『裏窓』的サスペンス描写が最高!

戦慄の絆
デヴィッド・クローネンバーグの監督の双子の精神的な結合を描くサイコスリラー
公開は1989年で、82年の公開のバスケット・ケースのだいぶ後だけど、精神的な結合など共通点が多い。アマゾンプライムでドラマ版も制作された。

ジェームズ・ワン監督のある映画
ネタバレに関わっちゃうの多くは語りませんが


メモ

監督 脚本:フランク・ヘネンロッター
アメリカ合衆国の映画監督。独特でジャンクな雰囲気の世界観をもったエログロの作品ばかりを撮る。『フランケンフッカー』『ブレインダメージ』は特に根強い人気。

ハーシェル・ゴードン・ルイス
バスケット・ケース』は彼に捧ぐと映画の最後に表示される。
スプラッター映画の始祖として有名。代表作は『血の祝祭日』『2000人の狂人』。ヘネンロッターは後に彼のドキュメンタリー映画『ゴットファーザー・オブ・ゴア』を撮影している。

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