見出し画像

夫の発達障害【日常の困りごと③破壊王】

まだ会話のあった時期、私は夫のことを、デストロイヤーと呼んでいた。
「破壊王」である。

夫は、とにかく物をよく壊す。
お気に入りの食器を割られたことは数知れず、夫自身の革靴はどんなに質のいいものを買っても1か月でボロボロになるし、
切り花用のハサミも馬鹿力で壊すし、彼のシャツやスーツのボトムには変なところに穴が開いている。

これは、夫が体の使い方が上手くないことと関係している。
当事者の方とのやりとりでもよく聞くけれど、指先に込める力の加減ができない、とか腕や足が動く範囲をイメージできない、とかそういう特性があることで、道具の扱いがとても難しいらしい。

ドライヤーをかけるのですら、腕の高さや頭部との距離を感覚としてつかめない彼にとってはけっこうしんどい作業らしい。
部屋を移動するときにはしょっちゅうドアにぶつかるし、
何度も同じところに頭をぶつける。
四十を過ぎたおじさんなのに、生傷が絶えない。

傘をさすときにも、水溜りを避けることと自分の頭の上に傘を維持することが難しいらしく、
足もとか上半身のどちらかは濡れる。
だからいっそ、傘を使わないことが多い。

こう書いていると何だかかわいそうな生き物にも思えてくるが、本人はそれで「困ってない」というのだから、それならもう別にこちらが気遣う必要もないのだろう。

はじめこそ驚き心配したものの、今となっては私も娘の安全さえ確保してくれるなら何でもいい。
しかし自分の身体を守れない彼がそんなことできるはずもなく、
信じられない頻度で娘に青あざをつくらせていた。
ほんの少しの時間預けただけで、その数分で、彼は娘にけがをさせる。
だから2歳半のここまで無事にこれたことは奇跡だと思っている。
(大人がもう1人いるのに、私は1人でトイレに行くことも許されないのだろうか)

そして、彼は壊したものは壊したまま。
報告も、当然「ごめん」もない。
結婚前から大事にしていたアンティークの鍋敷きも、見当たらないなと思って聞いたら、
「真っ黒になったから捨てた」と言われた。

人の物を勝手に使って、真っ黒にして、その上無断で捨てるってどういう神経だろう。

と、通常なら傷つくと思う。
たぶん通常なら、
「ごめん、こんなことにしちゃって。代わりに新しいの何か探してみるよ」くらい言ってほしいと思う。
少なくとも、私はそうだった。

だけど私には、こんなときでも彼を責めることは許されない。
責めたりすれば逆切れして、「見える所に置いてあるものだから使うだろ普通」と言われる。実際そう言われた。

そういうことじゃない。使ってもいいし、壊れたり汚したりするのも百歩譲って仕方がない。でもあなたは使う前にひと言もないし、それで壊して後のフォローもない。ねえ、私の気持ちは?

彼と一緒になってから、私はそんな想いをいつも抱えていた。
「私の気持ちは?」
何度、彼にそう投げかけてきただろう。

それから、実際問題として、たくさん壊すので経済的な負担も大きくなる。
新しい代わりの物を揃えるとして、それをするのは私だし、時間も労力も使う。
だけど彼は「困ってない」の一点張り。

これがしんどくない人っているんだろうか。
せめて、「また手間かけてごめんな」と言ってもらえたら。
何度そう思ったか知れない。

「壊しちゃった、ごめん」
そんな謝罪の代わりに彼の口から出てくる言葉は、
「これ不良品だわ」
「俺と相性が悪い」
そんなろくでもない言い訳ばかり。

これでこの人のことを「見下さない」って、だいぶ難しいように思う。
彼への敬意を、どこで保てばいいのか。

私の頭には、常にその疑問が居座るようになっていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?