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#9 喫茶店に寄り道

学校からの帰り道には、雑居ビルの2階に佇む喫茶店がある。その雑居ビルには、スナックやバーと言った夜のお店が多くて、薄暗くて、ちょっと高校生には入りづらい雰囲気だ。それでもさらっと、入っていければかっこいいけれど、私は何度か(何度も!!)食べログで口コミを調べ、前を通り断念し、というのを繰り返していた。

そんな私が今日ついに意を決して階段を上るんだ!扉の向こうには、ログハウスっぽいインテリアの中で、温かい雰囲気が漂っているように見える。重いドアを押すと、いらっしゃいませーと、老夫婦の声。

店内には、さらさらな黒髪がきれいな若い女性が1人と、ケーキを食べながら向かい合って談笑しているカップルが一組。席について、メニューを見る。と言っても、もう頼むものは決まっているのだけれど。

ナポリタンのコーヒーセットを注文し、文庫本を開く。古い洋楽が流れていた。しばらくすると、常連さんらしき男性がやってきて、久しぶり、と、老夫婦と男性が穏やかに話している。そこに、また常連らしき人がたくさんネギを持ってきて、お土産です、とか言っている。常連さん同士、知り合いなんだろうか。その人も会話に加わって、あの人最近こないけど元気なのかな、などと流れていく会話に私は耳を傾ける。

1人でこんな喫茶店に入ったのは初めてだったけど、私はこんな喫茶店が好きだ、と思った。巷で純喫茶ブームなのがなんだかちょっと悔しい。

空気感や明かりの感じ、常連さんの会話、流れている音楽、そこを気にいるかどうかの要素って、実際にそこで時間を過ごしてみないとわからない。今まであれほど下調べしてたのにその時間がすごく無駄に思えた。

そんなふうに考えつつ、本をぱらぱらとめくっているうちに、だんだんとケチャップの香りがしてきた。運ばれてきたのは、ほわほわの湯気がたっている山盛りのナポリタン。まずは粉チーズもタバスコもかけずに一口。優しくてほっとする味。にこにこしちゃうような味。お腹が空いてたから、次から次へと口に運ぶ。その間も常連さんたちの会話を聞きながら…

常連さんが帰るときは毎度ありがとうございます、なのがなんかいいなあ。

コーヒーを飲みながら読書。時間がここだけゆっくり流れている感じがする。常連さんになりたいなあ、と思った。常連というものにあこがれる。学校帰り、また文庫本を持って来よう。いつか、毎度ありがとうございます。次はサンドイッチを食べたいな。

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