凄いAIにへたくそな絵を描かせるテク~画家の名前を機能させる~
MidjourneyというAIお絵描きツールは頻繁に仕様変更がされて毎週のように状態が変わります。先週使えたプロンプトが今週は使えない。昨日描けた絵が今日は描けないということが頻繁に起こるので、人々のメンタルは削られそのたびに消耗します。でもアプデの度にAIは絵が上手くなっているし前のように崩れた画像は作られにくくなってきていて、良い方向に向かっているに違いない。違いないけれど、「やっと良い絵が描けるようになった!」と思っているのにその仕打ちは何とも辛い。
特に画家やイラストレーターの名前などが利用できなくなっています。それは著作権保護のためにはすべての人にとって絶対にいいことなのだけれども、そのせいでプロンプトに関する考え方そのものが大きく変わってきています。画家の名前が使えないと単調な絵になってしまいます。「画風」をうまくコントロールする方法を身につけなければ。
このnoteで公開したプロンプトも使えないものになってしまったものがいくつもあります。仕様変更でダメプロンプトになってしまったものは諦める以外仕方がありません。前を向いていかなければ絵は描けぬ。新しいAIの法則を見つけるために研究を進めましょう。
今回の仕様変更による大きな変化を何かに例えるならば「調味料や材料の組み合わせと呼び方が以前より明確になった」ということ。
例えば以前ならシチューの絵を描きたいとき、以前ならば「シチュー。じゃがいも、人参、鶏肉、たまねぎ、牛乳、小麦粉、バター、塩。おいしそう、あたたかい。欧風スタイル。」というような書き方をしていました。
これは「何を書くか、具体的に描写するものの名前、雰囲気、ジャンル」という順番で記述していたということです。これがスタンダードな文字の並べ方だったんです。
それが今現在はこの書き方ではうまくいきません。
下手すると「シチュー」と書くだけでいろんなシチューの絵が作られてくるほど有能になっているのに、以前のように細かく指示を出そうとするとAIはこちらのいうことを聞かなくなるのです。
この言い方では伝わらないかな。さらにさらに例えるならば。
酢、醤油、砂糖を1:1:1 の割合で混ぜると三杯酢ができますよね。以前なら三杯酢を描かせたいときは「酢、醤油、砂糖」と記述していたけど今はもう「三杯酢」だけでいい。これに酢、醤油、砂糖などと書くと違う調味料が出来上がってしまう。でも「三杯酢」は「和食の調味料」で、それを書かないと絵にならないなんてことが起きているんです。そして三杯酢に似つかわしい野菜などの材料名を入れなければちゃんとした絵にはならぬ。今のMidjourneyには単語ごとの「相性」がとても強く影響していて、どの単語を別のどの単語と組み合わせるかによって大きく絵柄が変化します。
AIで絵を描くには、絵として描かれるものは「主題」「主題以外に描かれたもの」「背景」ですが、絵に含まれる「雰囲気」「画材」「画風」「影響を受けた画家の名前」なども記載する必要があります。もっと詳しく言うなら「塗りの方法」「線の質」「質感」「紙の質」などもあります。
ただすべてを細かく指定しているとAIの頭はパンクしてしまうので、これらをわかりやすい言葉で言い換えてやる必要があるんですね。
「酢、醤油、砂糖」を「三杯酢」と言い換えたように絵の要素を端的に言い換える必要がある。
その言い換えが「画風」や「画家の名前」になっているようです。ですから「画家の名前」は「その画家の絵」を示すものではなく「色、塗り方、線の質」などを端的に表すものとなっている。
それを引き出すのは、主語だったり他の雰囲気を現わす言葉だったり。だからこそ「組み合わせ」次第でどうとでもなってしまうものなんです。
今後また仕様変更があって今回学んだことがまた使えなくなるということもあると思いますがそれはそれ、とりあえず今どのようになっているのかを勉強してみましょう。
今回は、犬の絵を使ってプロンプトの仕組みと画風と画家の組み合わせについて考えてみましょう。
絵の下にプロンプトを記載します。
まずは「犬」とだけ記述します。これによってできる絵はこちら。カラーです。
これをスケッチという単語を足してみます。白黒になりました。
これに線画という単語を足しました。
この状態でシンプルという単語を足しました。
順調に変化していますね。でも単調すぎるのでこれに「叙情的な抽象化」という単語を加えます。
「犬、叙情的な抽象化」ならこちら。明らかに雰囲気が変わりました。
これにスケッチという単語を加えます。
線画を加えます。
さらにシンプルと入れてみましょう。
徐々に絵柄が入れた言葉の通り変化しているのがわかりますが、私が思う「シンプルさ」には程遠いです。
今回は「絵をシンプルな線画にする」と「へたくそな絵を描く」ということを目標に工夫を重ねてみたいと思います。
ではここに実際の画家の名前を加えていきます。画風が「Lyrical abstraction」としているのでそのジャンルの画家の名前です。
あまり差を感じません。画家の名前を入れてもその画風はほとんど反映していないように見えます。そこそこ上手いし、ほとんど同じですよね。ちょっと違うかもと思うのはありますが、ガッツリと「その人の画風そのもの」にはなっていません。感じるとしたら「色の選択」と「線の質」と「デッサン力」の差ですがそれも誰にでもわかるほどはっきりと描写されません。
調味料で言うなら、塩(犬)と砂糖(画風のジャンル)と醤油(画材)と酒(画家の名前)を入れたけど、酒は飛んでしまって味がわからなかったという感じでしょうか。
女の子に主語を替えてみましょう。犬は残します。ここで動詞を使います。今までの絵には名詞は入っても動詞が入っていませんでした。
動詞は使わず犬と女性を並べて描いた場合はこうです。
線の質を現わす単語を加えるとまた変化しました。
こちらは犬が骨を食べるという言葉を加えて動詞を犬に持ってきました。違いを感じますね。
「犬、フクロウ、猫、女性」とした場合はこうです。
でも絵にあまり興味のない人なら「どれもほとんど同じ」と答えるのではないでしょうか。
ではここでRonnie Landfieldさんという巨匠の名前を使ってAIで画像を生成してみましょう。
全然Ronnie Landfield風ではないです。完全にAIによってはじかれています。
ではこれにLyrical abstractionと加えてみると…
ちょっと変わりました。でもRonnie Landfield風ではありません。ご存じない方は画像検索してみてください。全然違います。
これをさらに線の質を現わす単語を加えます。
色味を現わす単語と明るさを現わす単語を足してみます。
また少し変わりました。
そこであえて画家の名前を消してみましょう。やはり色味が変化して、女性の顔が変わりました。
この画家の名前には、
・色味が奇抜
・線がガタガタ
・形をとらえるのが苦手
・塗りが雑
・いろいろかすれる
・絵が平面的
という要素が含まれています。この画家の絵とはほとんど関係がないですがとりあえず今のところはそういうことになっているようです。
私は今回へたくそな線画を描きたいのだから、必要なのは「線画ガタガタ」の部分。これを引き出したいのです。
2つ前の絵とこの絵はLyrical abstraction.という単語が入っているかどうかの違いしかありませんがほとんど変わりません。ということは、Lyrical abstraction.とRonnie Landfieldの意味合いに大差はないのだと思います。
ではここで巨匠の名前を変更してみましょう。
このように「画家の名前を入れることは何らかの変化を及ぼす」ということは事実ですが「大きな変化」かというとそうでもありません。
大切なのは「画家の名前が持つ要素」と関連のある単語を他に足してやることです。足さないでいるとそれは機能しません。「ちょっと変わった程度」で終わってしまいます。これでは「雑な絵ができた」というだけ。
試しに変化のわかりやすいフィギュラティヴ・アートを使ってテストしてみましょう。
これではっきりとしました。
画家の名前を機能させるには表現方法のジャンル名は必須。
そして「色の指定」「線や塗りの指定」を加えるともともと持っていた画家の要素が引き立ちます。
Philip Gustonにとって特徴があるのはピンクっぽい赤色と黒ですよね。
ほら、こうしてしまうと明らかにMidjourneyのデフォルト絵です。全く画家の名前が持つ要素が機能しません。
では「カラフル」という文字を入れてみましょう。
全然カラフルじゃない。色に対する偏りが強すぎるのです。
仕方がないので個別に色指定します。
これは合う色を探すのに時間をかけないといけないかもしれないですね。
ならば巨匠の名前をさらに変更してみます。
私の大好きな Jean-Philippe Arthur Dubuffet様です。
とにかく色が暗い。今度こそカラフルに!前の方にカラフルという文字を持ってきて優先順位をあげてやりました。
青が強い。そこでネガティブプロンプトを使います。
青を禁止してやったのにむしろ増えた感じ。Midjourneyでは変化がありません。これは悪名高いnijiに頼る以外ない。
しかし…。
カラフルにはなったものの、女の子が犬の絵を持っている画像が生成されてしまいました。これは2Dと3Dが混合しているということ。個別指定します。すると1枚だけ2Dで出ました。
そこで画家の名前を後ろにもってきてみました。ちょっとその画家っぽさが失われてしましました。そして2Dで出てくる確率は1/4と低いです。
ちょっと変更をかけてみましょう。背景の塗り方とかすれ除去をネガティブプロンプトに入れました。打率は上がりました。3/4です。
何か足りない言葉があるのでしょう。そして余っている単語もある。組み合わせの悪さがこうさせているんですよね。
足りない言葉???
そう、Jean-Philippe Arthur Dubuffetと言えばInformalismですよ。でもこの画家の場合はこれを入れても変化はなく、別の言葉を入れると次のように変化しました。
この絵に入れた単語は、Lyrical abstractionです。
あれ?最初ので良かったの???
このプロンプトを改変してさらにへたくそな感じを出していきます。不要な単語を消していき、足りないものを足していきます。これは本当に料理の味付けと一緒。
すると…。
思惑通りのへたくそな絵が描けました。
順調にへたくそな絵が描けました。
でもどうせならここから少し工夫を重ねてみましょう。このプロンプトの「線」と「塗り」と「色」と「模様」の指定を工夫するとこのような絵になります。
決してへたくそなだけの絵ではなく、カワイイイラストに。
へたくそな絵をAIに描かせることができるなら、ほとんどすべての絵のコントロールが可能になります。
その絵が持つ要素を深く理解し、言葉の組み合わせを楽しめるならどんな絵でも描ける。
それがAIアートです。
こういうことをしなければ、犬という単語を入れただけではただの犬の画像しか出てきません。誰が出しても同じ犬。ほかの人が描く犬の絵とは少し違った絵を描きたければ、このように細かい調整が必要です。
この絵がRonnie Landfieldの名前なくしては描けないということを知る人は少ないと思いますが、そのベースに来ているのはへたくそな線画を作るというプロンプト。
面白いね。
AIアートのプロンプトは「この言葉を入力したら必ずこういう絵が出る」というように決まっていません。ほかの単語との組み合わせで決まります。
そしてその組み合わせは無限にあるので、試してみるしかない。トライアンドエラーを繰り返して答えを出すしかないのですが、その時「固定概念」を捨てて「ありえない組み合わせをダメもとで試してみる」と予想を裏切る素敵な絵を描いてくれることが稀にあります。ほとんどはゴミ画像を作るヤバイAIでもありますが、奇跡が起きるのを楽しみに複雑なプロンプトを組みます。
「構文はあくまでもシンプルに、しかしその内容は複雑に」
これがAIをうまくコントロールするための秘訣で、マヨ×ポン酢焼のタレを作るような感じなのかな??
文法自体はどんなにAIの仕様改変があっても変わってはいませんでした。変わったのは画家の名前が持つ要素とその引き出し方。
引き出し方は…。
調味料の組み合わせと同じです。
混ぜて味見をして好みのものを見つけるしかない…。
ちょっとずつ絵の要素に関する単語を入れ替えれば、こんなふうに自由自在です。思うように描けた時、AIお絵描きは本当に楽しい。
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