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ヴァン湖鉄道連絡船乗船記

鉄道連絡船

青函連絡船や宇高連絡船など、日本では国鉄の解体とほぼ時期を同じくして姿を消した輸送手段である。しかし視線を海外に向けてみるとイタリア・メッシーナ海峡や中国・琼州海峡などを始めとしてまだまだ現役である。(本記事では鉄道車両をそのまま航送する船を鉄道連絡船として扱っている。なお列車の到着と合わせて発着する連絡船であれば南海フェリーなどが日本でも現役である)

筆者はそのような現役の鉄道連絡船のひとつである、トルコ・ヴァン湖を横断する連絡船を2022年3月25日に訪問した。

この航路はトルコとイランを結ぶ路線上に位置し、それぞれの首都であるアンカラとテヘランを結ぶ国際列車をはじめ、イランと欧州方面を結ぶ貨物列車が走る鉄路の大動脈を形成している。

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航路はビトリス県タトワン(Tatvan)とヴァン県ヴァン(Van)間90㎞を約5時間かけて結んでいる。

それでは実際の訪問の様子を写真をまじえて紹介していこう。

筆者が訪れた時期はアンカラとテヘランを結ぶ国際列車は運休中であったため、トルコ南東部最大都市のディヤルバクル市からバスで5時間かけてタトワンに到着した。(なおアンカラとタトワンを結ぶ急行列車は週2便運行されているが、筆者はそのチケットを取ることができなかった)

連絡船とはいえタトワンの桟橋はトルコ国鉄(TCDD)タトワン駅からおよそ3㎞離れた位置にある。国際列車は桟橋近くのホームまで乗り入れるようだが、筆者は市内中心部から歩いて訪問した。

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旅客列車に接続しないフェリーの時刻は不定であり、貨物列車の入れ替えが終了次第出発する。

朝、ホテルで聞いた時には、昼くらいには出航するのではないかということであったので11時前に桟橋に到着した。しかし港にいた作業員の方に聞くと午後2時か3時くらい?と言われ、さらに船員の方に聞くと4時と言われた。結局出航したのは4時半頃であった。

このように出航時間はかなりいい加減であるので、訪問される方は注意されたい。


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桟橋付近には旅客ターミナルはおろか待合室やチケット売り場すらなく、ただ乗船口を示した看板が立っているだけである。

仕方がないので線路を歩いて船に近づく。

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線路に挟まれたココが乗船口である。(線路立ち入りに神経質な日本とは大違いで)線路に立ち入らないとそもそも乗船すらできない(笑)

船は停泊しているし、航送するであろう貨車も止まっているが、入れ替え作業をしている様子も見えないのであたりをうろうろしていると、作業小屋から出てきたおじ様がまあこちらに来いよという感じで手招きしてくれるので、そのまま乗船して船員室らしきところにお邪魔する。

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俺はこの船のFirst Captainさと言いながら、飯でも食えよと勧められたのでありがたく頂戴する。

「日本人というのはホントにカメラが好きだな、みんなでかいカメラ抱えてる(笑)」「以前来た日本人もお前と同じように写真ばっかり撮っていたよ」「このクソ寒い時期にお前はこんなところまで一体何しに来たんだ、もっと他に行くべきところはあるだろう」などなど笑われながら食事をいただいた。

そのまま茶でも飲まないかと誘われ、操舵室にもお邪魔する。

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キャプテンは暇だったのか、操舵席に座らせていただいて写真を撮っていただいたり、色々説明していただく。

筆者は不勉強なので操船システムについてはさっぱりであるし、ついでにあまり英語も堪能ではないので何を言っておられるかよく分からないがとりあえずニコニコしながら頷いていたのだが...。

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そうこうしているうちに下では作業が始まったので、適当なところで操舵室を辞して作業の見学に行く。

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まずは昨夜からの雪を除雪しないと作業が始まらない

作業員の方が集まってきてショベル片手に甲板上を除雪しながら入れ替え作業が始まる。

入れ替え用のディーゼル機関車には空の貨車を何両か繋いでおくことで、傾斜している桟橋上に機関車が止まらないようにしているのだろう。

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たまに雪合戦をしていたりと、かなりいい加減な感じで作業している

作業員の方が見守る中で入れ替え作業が進んでいく。

貨車にはペルシャ文字が見られるのでイランに向かう貨車なのだろう。

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陸側から作業を見る

船に積み込まれた貨車は頑丈な金具でしっかりと固定される。

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また反対側では車止めで貨車が動かないようになっている。

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「俺たちも撮ってくれよ」と。

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作業が一段落したので客室エリアを散策する。

ソファーが並べられくつろげるようになっている。売店スペースもあったが営業はしていないようだ。

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イスラム圏なので当然プレイルームもある。

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客室から甲板に出るとタトワンの市街地が綺麗に見える。トルコに雪が降るイメージはあまりないが、内陸部は3月後半でも氷点下まで冷え込み、雪国の様相を示す。

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市街地の反対側には一世代前の連絡船が係留されている。新型船の竣工とともにお役御免になったようだ。しかしこの内陸湖で連絡船以外にこの大きさの船の需要はないので、転用もされずこのまま朽ちゆくのだろう。

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桟橋に着いてから5時間半待ってようやく出航である。
もやい綱を解くと、あっけなく船は桟橋を離れ動き出した。線路の接続などはかなり精密な位置調整が必要なはずだがどのような原理になっているのだろうか。

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港を出ると連絡船は進路を真東にとり、順調にヴァンに向かっていく。
日没までの一時間半ほどの間、快晴のもと雪景色を楽しんだ。

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チケットは船内で買うことができた。たったの15リラ(約120円)である。
チケットにはTCDDの文字があり、国鉄直営の鉄道連絡船であることを主張している。この運賃も鉄道と同じ距離基準の料金なのだろう。

客は筆者のほかにもう一組、気のいいお兄さんたちだけであった。これでは売店の営業など望むべくもないだろう。(何なら暗くなったあとには船室の照明すらつかなかった..ほぼ貨物船である)

6時半を過ぎると日も落ち、あっという間に景色は見えなくなった。こうなると何もすることがない。
暗闇の中を進むことさらに2時間。ようやくヴァンの街明かりが見えてきた。ただ甲板上の体感温度は氷点下二桁くらいなのでとてもではないが街明かりを楽しむ余裕などない。

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出航のときよりも慎重に位置を調整しながら桟橋に近づいていく。

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舫い綱を投げると入港作業はおおよそ終了である。
このとき時間は午後9時15分、4時間45分の船旅であった。

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桟橋側から船を眺める。このあと入れ替え作業を行って、イラン方面行の貨物列車を仕立てるのであろう。しかし時間が時間なので筆者はこのまま見学せずに上陸する。桟橋からヴァンの中心部まで約7㎞、1時間半ほど歩かなければならないのだ。

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翌日訪れたヴァン駅。
時刻表検索に引っかからなかったので、旅客列車が運行しているかどうかは正直怪しい。

操舵室にお邪魔したときに撮影した航海日誌のメモ。
これを見るに連絡船の運航は一日一往復であることが分かる。
また入港時刻を見ると、4:40、16:30、23:50、21:30、11:00、21:20、6:30であることが確認できる。約5時間の航行時間を考えると、タトワン、ヴァンどちらから乗船するにしてもあまり訪問に適した時間に運行しているとは言えない。

以上でヴァン湖鉄道連絡船の乗船記を終わりにしたいと思う。
最後に今後訪問を考えている方にいくつかの注意点を。

・運行時間は非常に不定であり、旅行に適していない時間である可能性も高い。場合によっては乗船を諦めて、湖南岸を走るバスでの移動も考慮してほしい。バスはおおよそ1~2時間に1本程度は運行している。

・長時間の待機を強いられる可能性も高いので水と食料は市内で確保していくことをお勧めする。桟橋の周辺にレストランは存在するが筆者の訪問時には営業していなかった。

・筆者はタトワンの市内中心部から桟橋に向かう途中で、3人組のチンピラに絡まれて金を出せと脅される経験をした。トルコ経済の現状と国境に近いという地理的要因を考えると、思っているほど治安はよくない。バスやタクシーでの移動も考慮してほしい。あとヴァン側は野犬も多いので夜は特に注意してほしい。(いくらトルコの市街地に住む野犬がおとなしいとはいえ)

・可能であるならばアンカラ‐テヘランの国際列車の運行時に乗船することをお勧めする。深夜早朝の移動を強いられることもなく快適な船旅が楽しめるであろう。

以上で本記事を締めたいと思う。
なお本記事はすべて筆者の訪問時(2022年3月25日)の情報であり、新型コロナウイルスによって非常に情勢が不安定な時期であることは言い添えておく。

ではでは読者の皆様も素敵な旅ライフを。


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