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【読書感想】じんかん 今村 翔吾


小説 『じんかん』
https://www.amazon.co.jp/じんかん-今村-翔吾/dp/4065192706


人間。
同じ字でも「にんげん」と読めば一個の人を指す。
今、宗慶が言った「じんかん」とは人と人が織りなす間。
つまりはこの世という意味である。


小説の概要

3悪「主家乗っ取り」「足利将軍襲撃」「東大寺大仏殿の焼き払い」を行い、
二度織田信長に謀反を起こし、
最後は平蜘蛛茶釜とともに爆死したことで有名な松永久秀。

その壮絶な人生を通して「じんかん」とは何かを考えさせられる歴史小説。



小説の中で「じんかん」は以下ように記されている。

百年後の民にいくら有益であろうと、今の暮らしが奪われれば民は怒り狂う
結局のところ、民はみな、快か不快かだけで生きている

わが身を守りつつ上手く支配される。それが民の願いといってもよかろう。


その「じんかん」の中で人(松永久秀)の存在や人生は以下のように表現されている。

儂や元長のような異質が生まれ、何か一つを残して死んでいく。それは人という生き物の意思なのかもしれない。

人の世というものはすぐに変わりはしない。まるで目に見えぬ意思が変わらせまいとしているかのように、故に変えようと思う者の足を掴んで引きずり落とす。

松永久秀は現状の世の体制、常識(じんかん)を是としない異物であった。
変えさせまいとする「目に見えぬ意思」に対しあがいた結果が彼の壮絶な人生(人という生き物の意思)ということだ。




所感

劇的な行動、人生ゆえにネタにされることが多い人物。
この小説ではそんな松永久秀の考えや行動の背景を
突飛な人物としてではなく、
ありふれた一人の人間として描かれている。

個人的には他で描かれるような突飛な人物像よりもこの小説で描かれている内容の方が、多くの人を従えた戦国の世の一大名として説得力があると感じた。

神や仏(既存の常識や善悪観)に意味はなく、
自らが信じる道を切り開くという考え方は
ニーチェのニヒリズムに通ずるところがあると感じた。

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