【研究】キーエンスの高利益率の源泉を探る
本Noteは『一ツ橋ビジネスレビューのキーエンスの特集』に対する考察と感想になります。
キーエンス概要
自動制御機器(PLCと周辺機器)、計測機器、情報機器、光学顕微鏡・電子顕微鏡などの開発および製造販売を行う企業。現在、世界44カ国・200拠点で事業を展開。
Wikipedia『キーエンス』
直販体制(マーケティング)に強みをもち、売上高営業利益率が平均40%越え、数々の商社を抑え社員の平均給与は約2000万を超えることもある。
経営方針「付加価値の最大化」
付加価値の最大化とはいいかえると安く仕入れて、高く売るということである。安く仕入れて、高く売るというと砂漠で水を売る悪徳商人のような印象を持たれがちだ。
しかしキーエンスではこの付加価値(利幅)こそがキーエンスの提供している価値であり、お客さんの満足度合いを表していると考えている。
キーエンスのすごさはこの経営方針をしっかりと目標に落とし込み、現場まで浸透させ、社員の行動につなげている点だと感じた。
目標数値の落とし込み
キーエンスでは各社員が1時間当たりに創出すべき付加価値額が「時間チャージ」として決められている。
時間チャージ=全社の利益/全社員の就業時間*役職に応じた調整用の係数
ここで特徴的なのが以下3点だ。
・売上ではなく利益をもとに目標設定されている
・全社員に対し数値がふられていること
・時間単位という細かな粒度で計算されていること
売上ではなく利益をもとに目標設定される有効性
通常営業などのノルマは売上目標で設定される。売上を目標にすると各社員は薄利多売でもいいからたくさんの契約または、大型の契約をとろうというインセンティブが働く。
一方で利益をもとに目標設定がされると薄利多売では時間が足りず、一つ一つの契約に対してより多くの利益を得ようというインセンティブが働く。結果として多くの利益を得るために、他社やほかの営業との差別化を計ろうという目線が現場で生まれる。
現代は供給が過多の時代で、技術・価格・機能な面で他社と差別化を計ることが難しくなってきている。お客さんと接している現場の目線から差別化を計ろうとすることで、今まで見つけられなかった小さなニーズや潜在的なニーズが見つかる。
キーエンスではそうして見つかったニーズを ”営業が月2件「ニーズカード」を提出する" と仕組み化することで商品化までつなげている。
時間単位で計算されている有効性
「時間チャージ」は時間単位で設定されている。そのおかげで社員一人一人が今行っているタスクを時間チャージ分の価値があるのか考えて動ける。
タスク単位でコスパを見直すことで価値創出の少ないタスクをいかになくすかという目線が生まれる。
さらにキーエンスではMTGやプロジェクト計画の際に、参加者と時間からチャージ額を計算するよう仕組み化されている。チャージ料が可視化されることで社員一人一人が徹底的なコスト管理を行うことができる。
全社員に対し数値がふられている有効性
PJや商品開発を進める際、問題になるのがフロントとバックオフィスの価値基準の違いだ。全社員に対し数値がふられていることで全社員共通の価値基準を持つことができ部署間の連携や大規模なPJをスムーズに進めることができる。
通常はお互いの温度感(緊急度、必要度)、課題感、工数などそれぞれの軸に対し、部署や立場ごとに価値基準が異なりすり合わせが困難だ。しかし一つの価値基準が提供されていれば、それぞれその価値基準に合わせて見積もりを行い、大きなずれがあるかで初期の段階から調整を行っていくことができる。
感想
実際に真似をするべきなのかと考えると、
時間単位の目標設定で社員の目線が短期的になり長期的な目線が失われるのではないか
そもそも部署や年次など関係なく利益を割り振るチャージ時間は適切なのか
など課題点はありそう。
しかしチームマネジメントとして以下の点はどの企業にも役立てることができそうだと感じた。
価値観を明確に提示 →価値基準が生成
個人×時間単位まで目標を細かく落とし込み →動機の生成
ルールや可視化による仕組み化 →機会の提供
キーエンスでは社員一人一人に対し、価値基準、動機、機会をうまくマネジメントすることで高い利益率を確保している。
価値基準、動機、機会といえば内部不正の3要因としてあげられることが多い。キーエンスの事例から同じ要素が出てきたことでこれら3要素はチームマネジメントで抑えるべき要素だと考える。
時代的にマーケティング3.0で重要と言われていた差別化を生み出す社内構造があったからここまで成功しているのではないか。
そう考えるとマーケティング4.0が提唱されている現代においてはブランディング、持続可能な企業活動を自発的に生み出していくような構造を考えていく必要がある。
追記
キーエンスの時間チャージの考え方は稲盛和夫さんが考案したアメーバ経営の手法によく似ている。
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