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「ブランド」は信用を表す”印”

もう長いことブランディングの仕事をしています。

ぼくがブランディングの仕事をはじめたのは、農業の現場で土づくりに向き合い、良質な農産物を試行錯誤しながら生産している農家の取り組みをいかにマーケティングに反映していくかという視点からでした。お客さんにその生産物がつくられる背景を知ってもらい、そのうえで品質を評価してもらわなければなりません。

農産物や食品は、消費者の状態や欲求によってさまざまな評価を受けます。ものすごくお腹がすいているときには、味などはともかくお腹を満たすことが優先されるでしょう。ある程度、お腹がみたされていると、より美味しいものが食べたくなります。さらに進化すると、その農産物や食品がつくられた背景や生産者のポリシーなどが気になるでしょう。

食べるという行為でも、お腹を満たすこと、味わうこと、考えることがあるのです。

農産物等のブランディングの対象となるのは、舌で味わうことと脳で考えることです。

一度食べて、おいしかったものを覚えられます。味といっしょに記憶されるのが、名称やマーク、産地、生産者などの情報でしょう。また、脳で考える人には、見つけてもらうために、Webページに情報を掲載するなどの工夫が必要です。そして、記憶してもらうための”印”が必要になります。

ブランディングにみつけてもらいやすくしたり、記憶してもらうための”印”は必要ですが、その印に関連づけられる味や品質、サービス、生産の背景といった情報が必ず必要になります。

ブランドの語源は、家畜に入れた「焼印」だとされています。これは多数の家畜は放たれている草原で自分の所有する家畜を他人のものと”区別”するためでした。つまり、印であり、記号としての役割なのです。たとえば、家畜の所有者が飼い方や血統を工夫して、他の人が所有する家畜よりも高い評価を受けるようになった場合、その所有者の印、つまり焼印に信用がついてきます。買い手は、その焼印がついている家畜を探すことになるでしょう。

つまり、ブランドは他社と区別可能な役割を果たしていれば、それで役割をはたすことができます。問題は、区別された生産物やサービスが高く評価され、顧客に信用されることです。

とはいえ、できるだけわかりやすく区別された方が良いでしょう。
区別するために、名称、呼称があり、マークがあり、デザインがあります。顧客の記憶にとどめやすい名前やインパクトのあるマーク、そして生産者がプライドを持つことができる、品の良さがかっこよさが求められるかもしれません。

ブランディングをはじめるときに、多くの人がこの目に見えるマークや呼称からはじめます。間違ってはいないのですが、目にみえる部分は、ブランディング活動のほんの一部、氷山の一角であり、その多くは目に見えない活動なのです。

そして、目に見えない部分のブランディング活動は、常に継続しなければなりません。
マークを、名称を開発したことで終了ではないのです。つねにブランディング活動を継続して信用を高めていかなければなりません。

農産物や食品については、ブランドを構築する際の理論が整理されていないケースがよく見受けされます。
どのように品質などの特性を整理したら良いのかわからない。とか、その特性を担保する要件を定義できていない事例が多くあります。

新聞には、「○○のブランド化に取り組む」とか、言われていますが、ブランドが論理的に構築されていないと、そのブランドの”印”はメッキが剥がれることになるでしょう。

(2023年5月29日の記事の掘り起こし)

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