見出し画像

【メディア解剖連載 Vol.6】ITmedia エンタープライズ 編集長 原田美穂さん

現在、BtoB企業向けに広報部門立ち上げコンサルティングを行うリープフロッグ代表 松田純子PRコンサルタント/SPRing代表 高橋ちさが主催し、ライターとして企業広報の3名(橋尾日登美さん、前田弥生さん、堤はるなさん)、宣伝担当として広報コンサルタント村田知左さん、フリーランス広報PR 奥野絵里奈さんに参加いただき【メディア解剖連載】を行っています。

※本連載の趣旨は、第1回記事の冒頭をご覧ください。

毎回、松田と高橋が専門とするBtoB分野のメディアの方をお招きし、
以下のような項目を中心にヒアリングしてnoteにインタビューを掲載
していきます。各社の広報の方に、ぜひお仕事の参考にしていただければと思います!

・媒体コンセプト、ターゲット読者
・取材の注力分野
・広報担当者との関り方
 など




第6回は、ITmedia エンタープライズ 編集長 原田美穂さん

にお話を伺います!

・ITmedia エンタープライズ:https://www.itmedia.co.jp/enterprise/
ITメディアエンタープライズ媒体資料
ITメディア各媒体の媒体資料
・プレスリリースの送付先:
ait_release@ml.itmedia.co.jp


ITmedia エンタープライズ 編集長 原田美穂さん 

プロフィール
ITmedia エンタープライズ編集部 編集長
2001年よりIT技術出版社でOSSを中心としたITエンジニア向けの専門書や情報誌の企画・編集に携わる。2008年よりアイティメディアに参加。ITエンジニア向け専門メディア『@IT』でデータベース技術を中心に、サーバ、ストレージ、ネットワークなどのITインフラの技術動向を担当。製造業のデジタルシフトを支援する『MONOist』編集部ではサプライチェーンマネジメントや設計製造の高度化を支援する情報基盤の情報を扱う。2020年より『ITmediaエンタープライズ』編集部。現在はDX推進の基礎となるデータ基盤の技術動向やIT戦略を中心に国内外の動向を広く取材する


■ITmedia エンタープライズのコンセプトと読者


Q:今日はよろしくお願い致します。まずは、誰向けにどんな情報を発信しているメディアなのか、ITmedia エンタープライズのコンセプトについて教えてください。

「ITmedia」のトップページをご覧いただくと分かるように、弊社(アイティメディア )は、企業のIT戦略を担うビジネスパーソンを対象とした「ITmedia エンタープライズ」をはじめ、ITエンジニアに最新の技術情報をお届けする「@IT」、ITプロのための製品選定支援に役立つ情報をお伝えする「TechTarget Japan」、同様にビジネスパーソン向けに製品選定を支援する「キーマンズネット」などのBtoB向けITソリューションを取り扱うメディアに加え、「ねとらぼ」「PCユーザー」のようなBtoCビジネスと親和性の高いメディアも抱えています。 
 
ITmedia エンタープライズの読者の特徴の一つとして、6割超がエンドユーザー企業に所属する方々であるという点が上げられます。情報システム部門の方やそのトップであるCIO、またITを使って事業を強化していく事業部門のトップの方ないし、それらの方々のもとで実務を担う方々です。

また、残り4割のうち過半数がSIerなどの、エンドユーザー企業の業務革新を支援する立場の方々です。ITリテラシーが高く、技術とビジネス戦略を結びつけ得る役割を担っている方々といって良いでしょう。BtoB向けの最新ITソリューションや企業の成長に繋がるIT活用の考え方などについてお伝えしています。


ITmedia エンタープライズ


Q:ターゲット読者の企業規模はどのくらいでしょうか?

少なくとも情報システムの担当部門が独立して存在する規模の企業を想定しています。業務改革でも現場でSaaSを導入して解決できてしまう会社ではなく、もう少しスケールした企業が対象です。コーポレートガバナンスやIT統制などを考慮しながら、組織として動かす必要のある企業が中心です。ただし、事業規模で対象を絞っているわけではなく、中堅・中小企業に分類される企業であっても、情報システム部門が抱える課題に大きな違いはありませんから、あくまでも課題解決に繋がる情報をお届けするように心掛けています。


Q:次に、競合メディアとの差別化ポイント、貴メディアならではの特徴を教えてください。

BtoB向けITソリューションを扱うメディアはすべて競合ということになると思いますが、各社ビジネスモデルが異なりますから、そんなに意識していないのが正直な所です。
 
「ITmedia エンタープライズ」の一番の特徴は、ITmediaという総合媒体のなかでセグメントされた領域を担うメディアだという点です。そのため、幅広くIT全般について情報を扱う他のメディアと比べてより企業課題に特化した情報を提供できることが特徴の一つだと考えています。
 
例えばセキュリティ分野においては、IT部門の方がすぐに対応しなければならない脆弱性や国内外のセキュリティインシデントの話題で読者から高く評価していただいています。現在は、特にセキュリティ領域ではエンドポイントセキュリティや、子会社やOT領域を含むサイバーリスクマネジメント、インシデントレスポンス体制強化の手法などのトピックに注目しています。
 
また、「2025年問題」に代表されるERPなどのビジネスアプリケーションのモダナイズ、クラウドシフトを軸としたDX推進、AIの全社的な活用とリスクマネジメントなど、折々の経営課題の解決策を具体的なIT施策に落とし込む際のヒントとなる情報発信にも注力しています。今後はサステナブル経営の実現に向けたシステム構築も話題になってくるでしょう。人的資本、D&I、温室効果ガス排出量の算出などは、いずれもIT部門がコミットして検討を進めなければならないテーマです。
 
Webメディアの運営だけでなく媒体読者を対象としたオンラインイベントによる情報発信にも注力しています。


Q:企業課題の解決に向けたIT活用に関する情報発信が強みということですが、新人広報さんにも分かりやすいように具体的な例を教えていただけますでしょうか。

最近で言えば、「環境経営」のような話題がありますよね。国内では2023年から上場企業に対して、ESGに関する取り組みなどの非財務情報の開示が義務付けられました。ESG経営の評価指標は投資の判断基準にもなっていますし、世界的にESGに配慮した経営を行っている企業の価値が高まっています。

こうした企業が直面する課題に対して、IT部門は自分達がどう貢献できるのかを考える必要があります。例えばある企業で、これまでは製造工程で発生する規制物質のチェックまでしかして来なかったけれど、情報開示の方針に沿ってCO2 排出量のデータを公開しようとする時、そのデータを収集・分析するのはIT部門です。実は、ESGに関する情報開示は、IT部門と調達部門が連携して施策を打たないと解決できない問題だったりします。
 
まさにこういった場面で、企業のIT部門や事業部門のトップが知りたい環境経営の推進においてIT部門が担わなければならない役割や実際の課題解決のヒントとなるソリューションに関する情報などを発信しています。
 
ここまでは新たな価値創出につながるIT活用についてお話してきましたが、これに加えて、既存オペレーションを効率化する業務改革に関する話題ももちろん扱っています。業務改革やその自動化で圧縮したコストを成長領域にいかに投資するかから、企業の新しい価値創出に関わるIT活用までカバーすることで、組織全体を見てIT戦略をリードする立場の方にとって最適なメディアを目指したいと考えています。


■編集部の体制・求める情報


Q:編集部の体制はどのようになっているのでしょうか?

編集部は私を含めて4人体制です。このほかに外部ライターの方々や協力会社の方々に協力いただきながら運営しています。


Q:編集部の方の担当領域ははっきり別れているのでしょうか?

現在は、各企業にある程度共通する基盤に関する情報を扱っているので、業界別の担当制ではなくIT課題別で担当を分けています。
 
市民開発ツールやiPaaS、AIの活用をテーマとした「業務の自動化」の担当、リスクマネジメントを含むセキュリティの担当、サプライチェーン管理や人材管理、財務会計などを含むERP(基幹システム)とそのIT基盤をテーマとした「CIO・クラウド戦略」の担当、データ活用、AI活用やそのためのデータ基盤整備や、新たな企業課題の解決につながるIT投資全般の担当と、それぞれの領域に担当を付けています。(取材チーム注:媒体資料が参考になります)。


Q:今特に情報提供を求めている領域というのはありますか?

今、特に情報提供を歓迎しているのはERP周りの情報です。新しいソリューションが出て大企業で大型のリプレイスが発生するなど動きが大きくなっていますので、面白い話題があればぜひ情報提供をお願い致します。


Q:担当領域がかなりはっきり別れている印象ですが、情報提供は各ご担当者様宛にお送りした方が良さそうでしょうか?

そうですね。個人的な繋がりがある場合は、直接ご連絡いただくのが一番良いと思います。
ただ、ITは複合的な領域で新しいキーワードもどんどん出てくるので、今回挙げた領域が今後もずっと固定されるということはないと思います。
 
ITmediaではプレスリリース投函用の専用アドレスを幾つか設け、IT系、製造系等の複数メディアで共有しており、個々の担当者の名刺には個人アドレスだけでなく、専用アドレスも併記しています。ぜひ各担当者と名刺交換していただければと思います。
 
(注:プレスリリースの送付先は本記事の上部に記載しています)


Q:原田さん含め編集部の方は日々どんな方法で情報収集をされているのでしょうか?

やはり企業の広報やマーケティング担当者の方、PR会社の方からの情報提供が一番大きいと思います。それ以外だと、通常の取材活動のなかで得た情報を膨らませたり、SNSで取材対象者をフォローしてそこから情報を集めたり、関連する他社メディアや記者発表会などからも情報を得ています。ただ、編集部の体制的にも、企業やPR会社さんからの情報提供のウエイトが大きくとてもありがたいと思っています。


■企業から編集部に届く情報の内容


Q:どのくらいの量のメールが日々届くものなのでしょうか?

私個人のメ―ルアドレスには、私宛の物だけでなく、当社メディア共通のプレスリリース窓口に投函されるメールも届きます。メディア共通窓口に届くメールの量は数える気にならないほどですね。このうち、色々なフィルタを駆使して私の「受信トレイ」には1日平均120件ほどメールが来て、そのうちの5、6割がプレスリリースといった感じです。

でも特異日があって(笑)。大規模なイベントなどがあると同じ企業が1日に何件も大型の発表をすることがあるんですが、それを個々のトピックに分解してそれぞれのプレスリリースとして送ってくださることがあります。それがたまたま何社か重なるとものすごい量になることがありますね。しっかり確認しているつもりですが、そういう時は紹介したい内容でもリソースの問題から掲載を断念することもあり得ます。


Q:プレスリリース以外で情報提供が来るパターンでは、どういった内容が多いですか?

事例のご提案をいただくことが多いかと思います。その次に、トップの方がご就任されるタイミングや外資系ベンダーの場合は本国トップの来日をきっかけとしたインタビュー提案のお話です。当媒体としても取材をきっかけにリレーション構築をしたい企業様からお声がけいただけるのは大変ありがたいと思っています。時間的な制約がない限りぜひお受けしたいと思っています。

■企業からの提案で目に留まりやすいものとは?


Q:事例のご提案について、目に留まりやすいものはありますか?

事例に関しては、特に分かりやすい成果が出ているもの、企業名が目を引きやすいもの、新しいソリューションに関するものが読者に好まれます。我々が情報チェックをする場合もそういった要素があるものが目に入りやすいと思います。Webメディアはどうしても最初のフック(タイトル)が大事ですから、目を引きやすく、かつタイトルに沿って読者が読了後に満足できる情報量があるか」は重視します。
 
どれだけ目を引くテーマであっても、読者が納得できる情報量を得られない場合は採用しにくくなります。もちろん追加取材をして深掘りをすることもありますが、それらは担当者の裁量やその時の時間的な制約にもよりますから、投函いただくタイミングで十分な情報をいただけるに越したことはありません。


Q:もう何度も取り上げられているような一般的なソリューションの事例をご提案してもしょうがいないのでしょうか?

確かに例えば過去に多数事例として紹介した「RPA(自動化ツール)で業務時間を大幅削減」といった話題を今頂戴しても情報の新鮮さを見出しにくいでしょう。ただし、これにプラスアルファで読者の興味を引く話題を提供できれば別です。
 
ソリューションとしてはすでに一般的なものであっても、取り組みの背景に“話題性のある組織改革の一環として取り組んだ”というような、従来の事例と異なるシナリオがあれば読者にとって参考になる話題だと判断できるでしょう。先程の例で言うと、単なる時間削減ではなくそもそも作業時間がゼロになった、などインパクトのある成果が出ていれば取材してみたくなります。
 
事業トップやITリーダーが輝かしい成果を上げた事例は魅力的ですが、読者と同じ目線で課題に取り組んでおられる方の事例も魅力的です。全ての会社がキラキラとしたIT施策を打てるわけではありません。セキュリティ強化でシャドーIT(情報システム部門を通さずにユーザー部門が独自に導入したIT機器やシステム)を禁止にしたけれど現場が全然言うことを聞かない、SaaSを入れたけれど使ってくれないなど、どの会社でも発生しうる生々しい課題を解決したストーリーも参考になる話題の一つです。
 
ちなみに事例をご提案いただく際は、メールに箇条書き程度で良いので「どんな事例なのか」、「どんな成果が出たのか」が分かるようにしてご連絡いただけると判断しやすくなります。
 

■広報担当者にやって欲しいこと、やって欲しくないこと


Q:ありがとうございます。広報担当者から情報提供をする際にやって欲しいこと、やって欲しくないことはありますか?

事例先企業との連携など、広報の方にご協力いただかないといけない部分を丁寧にご対応いただけると嬉しいですね。
 
やってほしくないことの例としては、編集記事への過度な介入要望をいただくことでしょうか。当編集部はファクトチェック以上の修正要望は原則としてお受けしていませんが、社内の関係者の方々からの要望なのか、PR文言のような表現を入れるよう、強く要望されることがごくまれにあります。PR記事企画でしたら極力ご要望にお応えしますが、我々が主体的に取材し、読者利益を重視して制作する記事においてこのような要望にご対応することは、読者との信頼関係を保つ上でもできません。
 
こうした場合に、広報担当者の方がメディアの立場を理解して間に入って調整いただけるとありがたいですね。ご調整は大変だとは思いますが、メディアを理解してくださっている方には我々もできるだけ協力したいと思います。この点は取材記事の原則として、事例を持ち込まれる前に社内で事前に調整していただくことが望ましいと思います。
 
我々はタイアップ広告という商品も持っていますから、そうしたご要望が出る可能性が高い場合は広告記事でご検討いただくのが良いかもしれませんね。もちろん広告記事の場合も嘘や誇大広告に当たる表現はお受けしていません。


Q:広報として、広告記事と編集記事の違いは把握しておきたい所ですね。取材対応以外の場面ではいかがでしょうか?

当社はハイブリッドワークを推進しているため、部門の固定電話はすでに廃止していますので、ご連絡は原則としてメールでお願いしております。年度の変わり目などでの情報交換は極力対面でお受けするようにしていますが、少人数で運営している媒体なので繁忙期には物理的に時間がなく、ご連絡いただいてもお受けしにくい時期もあります。こういう場合は柔軟にオンラインやメールなどの方法もご検討いただけるとありがたいと思います。
 
それから、これはすごく地味な話ですが、プレスリリースにはぜひ掲載可能なビジュアル素材を入れていただきたいですね(笑)。ソリューションの概念図など、記事で使えるビジュアルがあるものの方が扱いやすいです。
 
また発表はできるだけコンパクトにまとめてもらえると助かります。1日に複数の発表がある場合も複数のメールに分割して投函いただくよりも、全体像まとめてくださると格段に確認しやすくなります。


Q:どのメディアさんも共通して大体今のようなお話をされます。広報担当としては最低限気をつけたい部分です。情報提供の際、知り合いの広報さん経由でご連絡しても良いでしょうか?

もちろん大丈夫です。今までお話したことを踏まえた情報提供でしたら、どこからでも大歓迎です。


■読みやすいプレスリリースの特徴


Q:最後に、原田さんから見て読みやすいプレスリリース、分かりづらいプレスリリースの特徴について教えていただけますでしょうか。

この会社のプレスリリースはいつも読みやすい、この会社はちょっと分かりにくいという傾向は確かにあります。
 
メディア向けの情報発信が上手な企業のプレスリリースの特徴としては、そもそも“話題になりやすいタイミング”で情報発信されていますし、ちゃんと話題に絡めたヒキのあるタイトルになっています。一方で、分かりにくいプレスリリースの場合は、専門用語や抽象的なコンセプトを多用しながら“フワっとした”表現で説明してあったりします。こうなると新人の記者や編集者が見たときに、どのサービスのことを指している表現なのか分からないことがあります。
 
読み解ける人が限られるプレスリリースは、メディア側が拾いにくくなるのでもったいないなと思います。ちゃんと読むと実はものすごく有用なことが書かれていたりするんですが、膨大な量のメールを受け取るなかでさらりと確認する段階では気付かずに過ぎていってしまうことが多いと感じます。


 
ありがとうございました。今回は、広報担当者にして欲しいこと、しないで欲しいことについてメディア側のインサイトを丁寧にたくさん教えていただけました。これらの情報をしっかり広報活動に活かしていきたいと思います!


(本記事は23年9月時点の情報です)



(取材協力:橋尾 日登美)
1987年10月生まれ、東京都出身、大阪在住フリーランス。人事/広報/ライターの領域で複数社を支援。コンセプトは『「ひとり雇うほどじゃないけど、経験ある人誰か手伝って」を複業で』パンダ、ビール、着物。
Twitter

(執筆・編集・構成:リープフロッグ 代表 松田純子)
B2B企業向けに、伴走型・人材育成型による広報部門の立ち上げ支援コンサルティングを行うリープフロッグ代表。「広報の目的=企業成長」と捉え、新人、ひとり広報でも最速で効率よく広報部門を立ち上げ、企業成長に資する広報活動が行えるよう支援。各種メディアでの執筆、登壇多数 
リープフロッグHP


\宣伝/
リープフロッグ松田と高橋ちさ二人によるコンサル付き、実践&伴走型「プレスリリースの書き方講座」参加者募集中!  


この記事が参加している募集

広報の仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?