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【ショートホラー】配信

俺が怪奇系の動画配信者になって、2ヶ月が過ぎた。
最初こそ怖いもの見たさで見てくれた人もいたが、再生数はどんどん減っていく一方だった。それもそのはずだ。怪奇現象が起きないのだ。廃工場、廃校舎、墓から病院までありとあらゆる所に行ったが、何も起きはしなかった。何も起きない怪奇動画など、ただの廃屋の映像に他ならない。
動画のコメント欄には、ここ最近はずっと辛辣な言葉ばかりだ。「配信辞めてしまえ」とか「呪われてしまえ」なんてのもある。路線変えようかな、俺は悩んでいた。
毎日バイトをして、ネットを見るだけの日々。ネタになりそうなものを探して、見つける頃には他の配信者がすでに動画をあげている。限界かもしれない。怪奇現象さえ、起きてくれたなら。
「一発逆転できるのにな~。」
言葉と願いは、夜の闇に消えていく。

そんなある日のこと。一度コラボした配信者から連絡があった。怪奇系はやめておけ、と言われてそれきりだった。
「ここ行ってみたら?」
URLをタップする。表示された場所は、意外なことにすぐ近所の自然公園だった。返信もしていないのにまた連絡が来る。
「そこ、最近『出る』って有名らしいよ。頑張れ!」
応援してくれている。俺は「ありがとう」と返信して、すぐさまそこに向かう準備を整えた。

7月の夜にしては少し肌寒い。俺は自然公園での配信の準備を整えながら、怪奇現象が起きることを願っていた。ここで一発当ててやる。逆転だ。大きく深呼吸をした。
さあ、始めるか。
「はい、今日も始まりました!今日はここ、○○市自然公園からお届けします。」
自分の名前をもじったギャグをして、生配信を始める。
「今回ここを選んだのはですね~、僕の仲間である・・・」
事のあらましを説明しながら、木を掻き分け奥へと進んでいく。そういえば、あいつなんでこんな穴場知ってたんだろ?あとで訊いてみるか。
「さてさて、そろそろ、何かが起きるかな~。」
起きてくれ起きてくれ起きてくれ。ずっとそう願っていた。
だが、何も起きない。ただ自然公園の夜が映されているだけである。
「・・・さて、第一部はこれで終了です。このあと、もっと奥に行ってみますよ!」
そう言って一旦生配信を中断する。コメント欄を見る。意外にも優しいコメントで埋まっていた。
「頑張って!」「何か起きて~」「応援してます!」
俺は元気を取り戻した。やる気が充ちてくる。今日は、大丈夫かもしれない。

「さて、第二部です!もっと頑張っていきますよ!」
自然公園の奥、古い小屋のあるあたりまで来た。今日の俺は出来る、出来るはずだ。怪奇現象よ、起きてくれ。
その小屋の中には何もなかった。しばらく粘ってみたが、何も起きない。右側の壁のしみをアップにしてみる。何も起きなかった。
今日もだめだったか、俺は天を仰いだ。配信を終了する。

だが、今日はあたたかいコメントばかりだった。頑張る気力がわいてきた。一回や二回であきらめてどうする。まだやれるぜ、俺。小屋の中でタバコをふかしながら、コメントを見返そうとした。
コメント欄のコメントが変わっていた。
全て同一のアカウントからになっている。内容も同じ。
「ねえ、なんで?」
100件近くあるコメントが、全て同じものに変わっている。身体が震えているのがわかる。
そのとき俺の目に入ったのは、再生数だった。再生数「0」。
コメントは今も投稿されている。「ねえ、なんで?」「ねえ、なんで?」「ねえ、なんで?」
やばい、やばい、やばい。ここを教えてくれた配信仲間に助けを求めた。すぐに既読がついて返信が来る。
「俺、そんなとこ教えてないんだけど。」
息をするのさえ苦しくなってくる。やばい、逃げないと。小屋を出ようとする。スマホが鳴る。さっきの配信仲間からだった、はずだった。文面にはこうあった。
「見つけてよ、あたしのこと」
俺は絶叫し、走り出した。

その日から俺はスマホの電源を切って部屋にこもった。寺や神社に行くべきだと思ったが、部屋を出たら何かが起きるのではないかと思い、あきらめた。
一週間後、例の配信仲間が訪ねてきた。連絡がつかなくなったことを心配したらしい。もう大丈夫だと言いながら、ネットニュースを見せる。
「○○市自然公園の小屋で遺体。壁に埋められていたか。」
「あとでお前の配信、見返したよ。お前が最後にアップにしたあの壁。そこに埋められてたみたいだ。」
19歳の女性だという。犯人はまだ、捕まっていない。身体がまた震えだす。
「怪奇系はやめとけって、言っただろ?」
なんで、俺なんだよ、なんで。俺は何もしてないのに!俺は絶叫した。
「本当か?『何もしていない』か?」
配信仲間の顔が、西日に照らされている。
「願ったろ?『怪奇現象が起きますように』って。」
彼の顔がにじむ、ゆがむ。
「ほら、だから」
こうなったんじゃないか。目の前の何かが、笑った。

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