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自作詩

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ナルが書いた自作の詩のようなものたちです。読んでいただけたら成仏できます。
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#創作大賞2024

泥濘に三日月

ねえ、わたしたち ぬかるみの底にいるみたいね あきらめた夢はがらくた あの日の空はモノクロ 触れ合うゆびさきの、熱 それだけで息ができた日々 今ふたり、くちびるを重ねる 消えないでということばの代わりに ぬかるみの底 がらくたばかりの景色 でもあなたがいてくれた ほら見上げれば三日月 蓮華さえ咲かずとも ぬかるみの底 モノクロになる希望 でもあなたがいてくれる ねえ見上げたら三日月 いつか満ちてしまうもの 触れ合うゆびさきの、熱 それだけで息をしてた日々 今ふたり、く

星月夜

月明かりのない夜に ひとり唄うさみしさを知るきみ 孤独と呼ぶには少し美しすぎる そのせつなさよ きみが紡いできた幾多のことばが きみが繋いできた数多のおもいが その行く先を照らす無数の星となるまで 月のない夜も、日の昇らぬ朝も ぼくがそばにいる きみのことばでしか伝わらない心があって きみのおもいでしか変えられない世界がある 祈り、愛することをやめない きみだけが知っている、あの星月夜 きみがいるから笑えるんだ 知っていたでしょう? きみが紡ぐ幾千のことば きみが繋ぐ幾

ハイビスカス

散文に咲いたニライカナイ 泥濘に浸るオボツカグラ 畦道に腰掛けるサルタビコ 通り雨と二十三夜大神 (ありのまま、あるがまま) (ありのまま、あるがまま) されるがままに生きてしまいました ぼくはあなたにはなれなかった クエビコの肩に留まる烏 その両目に咲くハイビスカス 立ち入り禁止の岐の神 マジムンになったあの三毛猫 (ありのまま、あるがまま) (ありのまま、あるがまま) されるがままに生きてしまいまして それでも祈りだけは辞めまいと 心なぞもはや此処にあらず どうか

ことば

蓮華色、きみのまぶたに 脆そうな雪が触れる ねずみ色、重い空 見上げてふたり笑った さよならって言葉がきらいで ぼくたちはいつも「またね」って言う その小さな、淡い祈りが どうかいつまでも続きますように 終わりばかり詠ってはいけないね かなしい結末を引き寄せそうで ぼくたちは言葉に怯えている だからせめて希望を詠う 蓮華色、きみのまぶた はかなげな雪が降りる ねずみ色、暗い空 明日もふたり一緒に さよならを嫌っても いつか離れる日は来るのでしょう お別れはいつもくるし

ブーゲンビリア

あなたの肩越しのブーゲンビリア 海風と喧騒、5時のチャイム 駅前の行列、頭の上にカラスアゲハ 古本屋のミステリ小説 結末は黒く塗りつぶされていて ふたり、大笑い あなたの頬に触れた日 風鈴と線香花火、8時のバラエティ 静寂と鼓動、てのひらの汗 駅前から響くレゲエミュージック なんだか気が抜けてしまって ふたり、キスをした ぼくがいないと寂しい?って訊く そんなの当たり前じゃない、ずっとそばにいて 甘い時間にブーゲンビリア いまはたったひとり いまはわたしひとり 寂しいっ

北極星

まどろんでいる世界を一撫でして ぼくは今日旅に出る かなしみはぼくを引き止めない いとしさのある彼の地を目指して 夜を歩く、月を睨む 夜を歩く、星と唄う 夜を生きたから朝があるのだ 明けない夜があったとしても いつか昇る太陽を願う それをやめてはいけないと 北極星を目指すのならば ぼくたちはきっとめぐりあう かなしみはぼくを引き止めない かなしみはぼくを変えられない 夜を歩く、夜を歩く 夜を歩く、ひとり唄う かなしみはぼくを変えられない いとしさだけを信じて歩む まどろん

空色の羽根

木々の揺れる音に怯え 木漏れ日の残酷さに涙しても あなたは生きる、苦しむように 世界は残酷でしょう 汚れているでしょう あなたの美しい心には きっとぼくも汚れて見えるでしょう 軽薄な正義と 重苦しい悪意の狭間の「普通」 それを強制されることを嫌い ふたりは羽を身につけ 空に向かっていく 木々は今日も揺れ、日差しは差し込む はるか空の彼方ではあまりに些末 もう怯えなくていいよ 泣かなくていいよ あなたはあなたとして ぼくはぼくとして 空を居場所に選んだ ふたり空に似た色の羽根を

タチアオイ

思い出していたのは あなたの長い髪と、はにかむような笑顔 じーじーじーじー 懐古の隙間にあぶらぜみ どうせなら波音がよかった あなたがいつも言っていた あの浜辺を探している ふらつく足取り あの日は千鳥足で あなたが見たいと言い出して、ふたり 海までの下り坂 ひぐらしとタチアオイ てのひらの熱 ぼくは今日、ひとりきり てのひらはつめたい じーじーじー もはや耳鳴りと化したいのちの音に 現実に戻される、もどりたくない さっきまでここにいたあなた 幻だったならそれでよかった

メルヘン

曖昧に笑うあなたの顔 まるで昨日のわたしみたいね 嘘といえば聞こえがいいけれど ふたり、ただの見栄っ張り もうわかってるのにね 白馬にも乗ってない お金だってありはしない 夢見た王子様には程遠いわ それでもいいって、ねえどうして わかってくれないの? 見栄を張るのにはもう疲れた それはあなただってそうでしょう? あなた好みの「お姫様」じゃないって 胸を張って叫びたいわ わたし好みの「王子様」なら 探せばいくらだっているの それでも、ねえ、楽しそうに笑う あなたはひとりし

ナナカマド

心と過去に増える傷を ナナカマドが撫でる 傷を撫でて汚れたそれを見て ぼくはひどく悲しくなった ごめんなさい、と声にしても 風がどこかにさらっていく ありがとう、と口にしても 波がどこかに隠してしまう 赤に汚れた若葉も 世界が綻んでいく日々も 全部僕のせいだって知ってる (生まれてきたことは間違いだったでしょうか) (生きてきたことは間違いだったでしょうか) ざあ、ざあ。 ごお、ごお。 間違いだったとしてもいいよ 生きるしかないってわかってる このまま終われたら楽だとしても

ぼくの言葉を見つけてくれて 本当にありがとう 好きになってくれなくてもいい 聞き流したっていい ただぼくを見つけてくれたこと それだけでうれしいんだ いのちの終わりにばかり向く心を さよならにばかり流す涙を 無理やりにでも引っ張りあげて いたずらっぽく笑うあなたがいて ぼくはやっと、息をした この世界に生まれたんだ 笑顔に色があるならそれは若葉 優しさの色は唐紅 笑い合うときは空のように 思い合うときは海のように あなたと生きたこの日々のすべてが やっと色づけてくれた世界に

朝焼けに消える

愛では足りないような悲しい色 涙を持て余すような寂しい音 波にこの足を忍び込ませる あの日のあなたみたいに 夢だったのは、あの日まででしょうか あの日からずっとでしょうか あなたの笑う日々 あなたのいない日々 3月の風は歌わない わたしはもう祈らない 朝焼けの美しさと それを独りで見る侘しさは あなたはきっと知らなかったでしょう 知らなくて良かったと思うわ 本当にそう思う もう会えないこと、あなたがいないこと それさえもまだ嘘みたいだから 波に預けようとした身体も、あの

ノウゼンカズラ

あなたがいなくなったことで こんなに狼狽えるほどにあなたは ぼくを人間にしてくれていた 土くれを喰らうようだった日々に そっと塩むすびをくれるような あなたのいない世界と コンビニの明かりと自殺願望と ぼくが死ぬのならそれはきっと 昔のぼくに戻れたのでしょう (時刻は午後4時になりました!) (今日のお相手は) 勝手に相手にしないでくれよ カーラジオから生えるノウゼンカズラ 土くれの味のエフエム、エーエムは何の味がするの? あなたのいない世界のご飯は ※ノイズノイズノイズノイ

ニライカナイの手首

人指し指がちくちくと痛むので さくら色の海の向こうのあなたを見つけたときは 選ばれたニライカナイ、あなたがえらんだ場所に ひどく嫉妬しているのです。 ぼくはぼんやりと (それにしては言葉はあふれ出て、これはぼんやりというよりはややはっきりと) 海色の付け根にキスをする。 に、ら、い、か、な、い。 (ニライカナイというのですって) に、ら、い、か、な、い。 (口にしたとて、口にしたとて) に、ら、い、か、な、い。 (わたしもうすぐそこへいくの) に、ら、い、か、な、い。 (ど