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不思議な洞窟と探し物(過去作)

①知らないお兄ちゃんとの出会い

僕は、あの時まだ5歳だった。

あの日、あのお兄ちゃんに会えて良かったと思っているんだ。

***

春のお花が咲き誇り、虫達が活発に働く。
そんなお天気で気持ちの良いある日の事。

ママは家事をするのに忙しくしていた。

僕は2階の部屋でオモチャで1人遊んでいたんだ。

ふっと、窓の外に視線をやると、少し離れた木々の所に1人のお兄ちゃんが居た。

小学生くらいだろうか?

その時の僕はまだ子供で深くは考えてなかったので、あまり覚えてない。

そのお兄ちゃんは僕に向かって手招きをした。

全く知らない、お兄ちゃんだけど、僕は不思議と怖くなかった。

それよりも、好奇心もあり、何故か引き寄せられた。

ママに気付かれないように僕は、そっと家を飛び出し、あのお兄ちゃんの所へと向かった。

お兄ちゃんの所に着くと、お兄ちゃんが話かけてきた。

「来てくれたんだね。大ちゃん、ありがとう。」

「えっ、お兄ちゃん、僕の名前なんで知ってるの?」

「お兄ちゃんは、大ちゃんの事を、ずっと見ていたから知ってるんだよ。」

「ずっと、見ていたの?お兄ちゃんの名前は?」

「うん。ずっと、見てたよ。お兄ちゃんには名前が無いんだ。」

「どうして?」

「どうしてかな?そのうち分かるよ。それよりね、今日、大ちゃんに来てもらったのは、お兄ちゃんの大切な人達に渡したい物があるんだけど、お兄ちゃんだけだと見つからないんだ。大ちゃん、お兄ちゃんと一緒に探してくれないかな?」

「うん。いいよ。」

「ありがとう。じゃあ、行こう。」

そう言って、手を差し出した。

僕は、その手を握ると、何故だか、とっても安心した。

「大ちゃん、1つ約束してくれる?」

「うん。なぁに?」

「お兄ちゃんが良いと言うまで絶対にお兄ちゃんの手を離さないで欲しいんだ。迷子になってしまうからね。」

「うん。わかった。」

「大ちゃん、ありがとう。さぁ、行こう。」

そう言って、2人で森の中へと歩き出した。

②洞窟

しばらくすると、目の前に洞窟が現れた。

外には雑草が生い茂っていて、中は真っ暗。

お兄ちゃんは、長く延びた雑草など気にせずに突き進む。

僕は思わず、
「お兄ちゃん、ここを進むの?」

「そうだよ。この先に洞窟があるだろう?実はあの洞窟は秘密の扉みたいなもんなんだ。あの先には天国の様な素敵な場所に繋がっているんだよ。本当は、大ちゃんは連れて行っては駄目なんだけど、今日は特別だよ。」

「そうなの?」

「うん。大ちゃん、行こう。」

「うん。」

僕はお兄ちゃんの言葉に楽しみでワクワクした。

天国の様な素敵な場所って、どんな所かな。

洞窟の入り口まで来ると、お兄ちゃんは繋がっている手をよりしっかりと強く握った。

そして、ゴクッと唾を飲み込み、真っ暗な洞窟へと進んで行く。

しばらくすると、少しの光が見えてきた。

その光の方に歩き続けると開けた所に出た。

そこは鍾乳洞の様に幻想的で、沢山の色のグラデーションが見える。まるでオーロラのような光。そして、とても明るく天国の様な素敵な場所。

至るところに水が流れていて、その中には幾つものガラスの球体の様なものがあった。

そのガラスの球体の中には、綺麗な色がそれぞれに入っている。

僕は気になり、お兄ちゃんに尋ねた。

「お兄ちゃん、これは何?」

「あっ、触っちゃ駄目だよ。お兄ちゃんと大ちゃんで、これだって思った物だけを1つだけ選ぶんだ。それは大ちゃんのママに渡すプレゼントだよ。」

幼い僕には何故ママにプレゼントを渡すのか分からなかったけど、ママが喜んでいる顔が頭に浮かび早く渡したいという気持ちになった。

「うん。ママにプレゼント渡したい。」

「じゃあ、ゆっくり見て行こう。お兄ちゃんと大ちゃんと、せーので2人同じものを指さしたら、それにしょう。」

「うん。」

③お兄ちゃんの探し物

沢山の小さな池の様な所を見てきたが、2人の足はある池の前で止まった。

「大ちゃん、見つけた?」

「うん。お兄ちゃんの探し物も見つかった?」

「うん。じゃあ大ちゃん、せーので指さそう。」

「うん。」

「せーの。」

「うわぁ、お兄ちゃん一緒のだね。綺麗、持ってもいい?」

「うん。いいよ。」

僕はその清んだ透明の池の中に手を入れた。

そして、その球体を掴むと、ゆっくり慎重に 持ち上げた。

僕はその、とても綺麗な球体に時が止まった様に見つめていた。

すると、お兄ちゃんが、
「大ちゃん、綺麗だね。この球体の中の色はピンクとオレンジが混ざっているけど、どんな意味があるか分かる?」

「どんな意味なの?」

「ピンクは愛の色、オレンジは元気の色だよ。大ちゃんが生まれる前に、お兄ちゃんは大ちゃんのお兄ちゃんとして生まれて来る筈だったんだ。だけど、残念ながら生まれて来れなかったんだ。それからママは凄く悲しんでね、今もお兄ちゃんの命日になると泣いているんだよ。この球体はね、お兄ちゃんと大ちゃんからの手紙の様な物。いつまででも愛してる。元気で居てね。と伝えているんだよ。」

「お兄ちゃんなの、、?」

「そうだよ。お兄ちゃんは生まれて来る前に死んでしまったから名前が無いんだ。今でも悲しんでいるママに、この球体を届けてくれる?」

「うん。いいよ。僕ちゃんとママに渡すから。」

「大ちゃん、ありがとう。」

お兄ちゃんは微笑みながら、僕の頭を優しく撫でた。

「さぁ、行こうか。」

「うん。」

僕達は、ゆっくりと元来た場所へと引き返した。

すると、お兄ちゃんは、ある池の前で立ち止まり、池の中に手を入れて、1つ球体を取り何も言わずにポケットへ入れて歩きだした。

僕は短い時間の出来事で何も思わなかった。

そして、ある程度、歩くと入って来た洞窟の場所まで来た。

④洞窟の出口

洞窟の入り口へと辿り着くと、お兄ちゃんが膝を付き僕の目を見てゆっくりと話し出した。

「大ちゃん、ここからは1人で戻るんだ。」

「えっ、お兄ちゃんも一緒に行かないの?暗くて怖いよ。」

僕は急に心細くなり、涙が出そうになった。

するとお兄ちゃんが、ポケットから、さっきの球体を取り出すと話出した。

「大ちゃん、さっきの球体はママに説明して渡してね。お兄ちゃんと大ちゃんがいつまででも愛してると言う事と元気で居て欲しいって事。そして、大ちゃんにはこれ、お兄ちゃんからのプレゼントだよ。」

そして僕の手にそっと乗せた。

「大ちゃん、この沢山の色が入った意味はね、愛、元気、勇気、逞しさ、強さが全て入った球体なんだ。これは滅多に見かけないんだよ。大ちゃんが、お兄ちゃんの言った事ちゃんと理解してくれた時、この球体は大ちゃんの一部となるからね。」

「一部になるってなあに?」

「球体は消えて無くなって目には見えなくなっちゃうけど、大ちゃんの心の中には、あるって事だよ。」

「うん。わかったけど、僕お兄ちゃんと離れたくないよ。」

僕は必死で涙をこらえた。

「大ちゃん、この球体をママに渡してママも理解してくれたら、また会えるからね。すぐにまた会えるよ。」

そう言って、お兄ちゃんは僕の身体を洞窟の方にクルっと回転させた。

「大ちゃんには、この球体があるから、勇気も逞しさも強さもある。だから1人で帰れるよ。振り返らずに行くんだよ。大ちゃん、またすぐに会おうね。」

そう言って、僕の背中を押すとお兄ちゃんの手は離れた。

僕はお兄ちゃんが言った様に振り返らずに、両手には球体を持って歩き出した。

途中から怖さなど、どこへ行ってしまったのか、全く怖くなくなった。しばらく歩くと少しずつ明かりが見えて来た。

洞窟の出口まで辿り着いた。

⑤ママへのプレゼント

洞窟の出口へと辿り着くと僕の手の中には1つの球体しか無かった。

僕はすぐにお兄ちゃんの言った事を思い出した。

きっと僕の中の一部になったんだ。

僕は急いでママの所へと急いだ。

ママに必死で説明した。

「ママ~ママ~、今さっき、お兄ちゃんと会ったんだ!お兄ちゃんと洞窟に入って、これ、僕とお兄ちゃんからママにプレゼントだよ!」

僕は喜んでくれると思ったけど、とても怒られた。

「何?!大ちゃん、どこに言ってたの?!知らないお兄ちゃんなんかに付いて行ったら駄目じゃないの!誘拐されちゃうのよ!2度とママに内緒で出て行ったりなんてしちゃ駄目よ!」

その時、お兄ちゃんの言葉が頭をよぎった。
ちゃんと説明して理解してもらうように言ってた。そしたら、またすぐに会えるって。

「ママ、違うよ。お兄ちゃんは僕の前に生まれて来れなかった、僕のお兄ちゃんだよ。お兄ちゃんがママに、これを渡してだって。まだ悲しんで泣いているからだって。それで、このピンク色は、いつまでも愛してるって。オレンジ色は元気で居て欲しいって。」

「大ちゃん、何でそれを知ってるの?まだ大ちゃんには言ってない筈なのに、、」

「お兄ちゃんが教えてくれたの。それで一緒に洞窟で、これを探しに行ったんだ。」

「大ちゃん、その洞窟にママを案内してくれる?」

「いいよ。」

僕とママは、懐中電灯を持ってすぐに、さっきの洞窟に向かった。洞窟があった。

ママはビックリして、
「わぁ~こんな場所に洞窟があったのね。」

ママは中を懐中電灯で照らした、すると不思議な事に1メートル程先は壁になっていて、行き止まりだった。

ママは僕に言った。

「大ちゃん、不思議ね。お兄ちゃんはどんな感じだった?」

「お兄ちゃんは優しかったよ。また会えるって言ってた。」

「そっかぁ。」

そう言って、涙を拭った。
だけど、すぐに笑顔になった。

「大ちゃん、ありがとう。お兄ちゃんときっとまた会えるよね。」

僕は渡しそびれていた球体をママの手にそっと乗せた。

ママは大事そうに抱きしめるように胸の前に持って来ると、少し目を瞑った。

その後、目をゆっくりと開けると不思議とその球体は消えていた。

「あれっ、無くなってる!何で?!」

「ママ、理解するとママの一部になるんだって。お兄ちゃんが言ってた。」

「そうなの?!今日は不思議な事ばかりね。
大ちゃん、ここまで案内してくれて、ありがとう。さぁ、お家に帰りましょう。」

「うん。」

ママと手を繋ぎ家に戻る時、僕は洞窟の方を見た。

すると、そこにはお兄ちゃんが微笑んでいた。僕も微笑み返した。

⑥新たな誕生

それから、数ヶ月後の夜の事、、

ご飯を食べてソファーに座ってテレビを見ていると、パパとママがやって来て、僕にこう言ったんだ。

「大ちゃん、これから、お兄ちゃんになるのよ。」

「えっ?僕、お兄ちゃんになるの?」

パパとママは、微笑み静かに頷いた。

僕は嬉し過ぎて何度も飛び上がり喜んだ。

それから数ヶ月後、僕はお兄ちゃんとなった。

***

大人になった僕が今思うと、あの真っ暗な洞窟が母の産道で、あの球体は卵子だったのではないかなと思った。

母は僕の弟を産む前、卵子の状態が良くなくて治療していたらしい。

今となっては、あの体験は不思議だったが、もちろん、弟は覚えて無いらしい、、

あのお兄ちゃんの探し物が見つかって本当に良かったと心から思う。

だって弟に会えたのだから、、

                    終

*******

お読み頂き、ありがとうございました。
いかがでしたか?
私の過去作ですがランダムに載せていきますので、その際に未熟な部分もあり読みにくいかもしれませんが他の作品も読んで頂けると嬉しいです。
お気軽にコメントなども頂けると嬉しいです。
ではまた次回も宜しくお願い致します。

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