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【AND PET】#5 かかりつけ医はいますか?

かかりつけ医選びの大切さと難しさ

我が家の猫、ぼたんのかかりつけ医は、徒歩圏にある動物病院でした。家族に迎えた時には既に猫白血病ウイルスに感染していたものの、症状が出ることもなくいたって元気な猫なので、通院は毎年のワクチン接種と爪切り程度。特に不満も不安も感じずに通っていました。

しかし昨年、ぼたんに不調が現れました。結膜の一部が露出したままになっているのです。気づいてすぐにかかりつけ医に相談したものの、「とりあえず目薬で様子をみましょう」と言われて数カ月。左右の瞳孔の大きさが明らかに違うようになって、初めて「眼の病気は診断がつけられない」と言われてしまいました。

「診られないのなら早く言ってくれ!」というのが、その時の正直な気持ちです。他の病院の紹介もなく、慌てて近隣で眼科を診療科目に掲げている動物病院を探して受診。一度は眼球摘出も提案されましたが、最終的には結膜にできた病変を切除するだけで済みました。片目だけ少々目つきが悪くなったものの今は何の問題もなく、術後はその病院をかかりつけ医としています。私が体調の変化を軽視せず、もっと早くに専門の病院に連れて行っていればぼたんの負担はもっと軽かったはず。この後悔や申し訳なさを忘れることはできません。

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手術翌日のぼたん。最初は私が呼びかけても近寄ってきませんでした。

このことは病院選びの大切さと難しさを痛感した出来事でもありました。2つの病院で何が違うのかを考えてみると、自宅からの距離以外では「診療科目」と「飼い主への説明」だったと言えます。

動物病院はどんな病気でも診療できるものだと思い込んでいたのは、私の勉強不足です。今回は目の病気でしたが、将来どのような病気になるかは分かりません。その動物病院にどのような診療科目があるのか、得意科目は何かを確かめておいた方がよいでしょう。かかりつけ医が時間外の受付をしていないのは気になりますが、夜間専門でオンライン相談を行う動物病院も登場しているので、いざとなればそのようなサービスも利用したいと考えています。

診察結果について分かったことも分からないことも明らかにし、今後の治療方針について複数の選択肢を示してくれる獣医さんだと安心できます。少しでも理解や納得ができないことがあればためらわずに質問すべきでした。これも反省点です。

これらの気づきや反省は、人間のかかりつけ医選びにも共通するものでしょう。

自分のかかりつけ医を考える

日本医師会の定義によると、かかりつけ医は「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」。私の場合、風邪や腹痛なら●●医院、歯医者は〇〇歯科、婦人科なら▲▲クリニックと、自宅からほぼ1キロ圏内にいくつかのかかりつけ医をもっています。

診療科目の多い医療機関をかかりつけ医にするのも1つの手ですが、近隣の総合病院は待ち時間が長いこともあり、通院しやすさも考えて今のスタイルに落ち着きました。診療科目によっては1年に1度も行かない医療機関もあり、「かかりつけ医などと言っては迷惑ではないか」とも思ってしまいます。しかし、そもそも医師のお世話にはならない方がいいのですから遠慮は無用なのでしょう。

近年、生活支援から医療、介護までを一体化する地域包括ケアシステムを考えていく中で、かかりつけ医をもつことの重要性が高まっています。厚生労働省は「上手な医療のかかり方」というプロジェクトを推進しており、この中でかかりつけ医をもつことを推奨。コロナ禍においては「感染が疑われる場合はまずかかりつけ医に電話相談を」などのアナウンスをしています。

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出典:厚生労働省「上手な医療のかかり方」公式ウェブサイト

令和元年12月に実施された「人口減少社会における医療・福祉の利用に関する意識調査」(厚生労働省)では、かかりつけ医が「1人いる」と「2人以上いる」を合わせて約 45%、「いない」が約 46%、「わからない」が約10%という結果に。特に単身世帯や45歳未満の年齢層では「いない」が50%を超えています。

若い世代や病気やけがと縁遠い方、あるいは転居の多い方などは、かかりつけ医をもちにくいかもしれません。けれど、何が起こるのかわからないのが今の世の中。日常を少しでも安心なものにするために、近所の医療機関をチェックしてみてはいかがでしょう。

文・横山珠世
女一人と猫一匹の暮らしから人と猫が共に健康で幸せに生きていく術を考える、株式会社ジャパンライフデザインシステムズの編集兼ライター。『セルフドクター』や書籍などの制作・発行に携わる。