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【AND PET】#20 縁起をかつぎますか?

猫は縁起がいい? 悪い?

 猫は縁起がいいという説と、悪いという説。そのどちらも耳にしたことはありませんか? 調べてみると、日本では特に黒猫は、魔除け、幸運を招く、商売繁盛を象徴するものとして縁起がいいと考えられてきたようです。江戸時代には、なんと結核が治るという迷信から黒猫を飼うのが流行したことも。

 黒猫以外では三毛猫のオスが縁起がよいとされます。その理由は、毛色を決める遺伝子の関係で、三毛猫のオスはめったに生まれることがない珍しい存在だから。生まれてくる確率は3000分の1とも30000分の1ともいわれています。

 南極の第一次観測隊に同行した猫、たけしも、「三毛猫のオスは縁起がいい」という理由で、航海の安全を祈り観測船「宗谷」に乗せられたのだとか。国立極地研究所のHPには、南極基地や船上で過ごすたけしの写真やエピソードが紹介されています。現在は南極に猫を連れていくことはできませんが、当時の写真から、たけしが厳しい生活を送る隊員の皆さんの心を癒し、そして大切にされていたことがよく伝わってきます。『南極物語』のタロ、ジロのように任務があるわけではなかったため、たけしに関する詳しい記録があまり残っていないのが残念です。

我が家にある招き猫。いつ、どこから我が家にやってきたのか。

縁起物でいうと、今や海外でも人気が高い「招き猫」があります。猫がねずみを捕ることから養蚕の縁起物として誕生し、後に商売の縁起物となったのだとか。その由来は、東京浅草で作られていた今戸焼きにあるとも、彦根藩井伊家との縁を猫がつないだとされる東京世田谷の豪徳寺にあるともいわれています。

 招き猫をよく見ると、左右どちらかの前脚、もしくは両方の前脚を挙げており、右の前脚を挙げている猫は金運を、左の前脚を挙げている猫は人脈を、両脚を挙げている猫はそのどちらも招くとされます。我が家で一緒に暮らす猫、ぼたんはどちらかというと左の前脚が利き手。よい人脈を招いてくれる猫なのでしょう。

猫じゃらしに左の前脚でパンチ! 「#猫の写真へたくそ選手権」に出せそう……。

鐘楼から猫を投げる? イーペルの猫まつり

 ベルギー西部の都市、イーペルでは3年に一度、カッテンストゥッツ(猫祭り)が開催されます。猫の祭りってどんなもの?と出かけたのは20年ほど前のことでした。

 祭りの期間は中世の面影を感じさせる街の中が猫一色に。ショーウインドウには猫をモチーフにしたベルギー名物のチョコレートや土産物が並び、猫を模したメイクやコスプレをした人たちが楽しそうに歩いています。

猫祭りの様子。左の猫の女王の山車は20年の間にリニューアルされ、現在の物とは異なります。

大きな猫型の山車やダンサーが連なるパレードの後、祭りのクライマックスには高い鐘楼の上から猫のぬいぐるみが投げられます。ヨーロッパ各地には、日本と同じく黒猫が幸運を運ぶという言い伝えがある一方、猫は病気などの災いをもたらす魔女の手下と見なされていた時代もありました。そういえば、『魔女の宅急便』でも主人公キキの相棒は黒猫のジジでしたね。魔女狩りが盛んに行われていた時代には猫も迫害を受け、恐ろしいことにこの鐘楼から生きた猫が投げ落とされていたのだとか。今ではそのような歴史を悔い、猫を悼むものとしてぬいぐるみを投げているようです。このぬいぐるみを手に入れた人には幸運が訪れると聞き、意気込んで鐘楼の下に向かいましたが、私たちよりはるかに体格のいい現地の人たちがギュウギュウに集まっていたため、これは無理だと諦めました。

ちょっと不思議で日本とヨーロッパの文化の違いも感じられた猫祭りは、繊細なレースや荘厳なアントワープ聖母大聖堂(アニメ『フランダースの犬』に出てくるルーベンスの絵のある教会)、抜群に美味しい白ビールなどと共にベルギーの楽しい思い出となりました。猫祭りの様子は向田邦子さんも『夜中の薔薇』(講談社文庫)収録の「ベルギーぼんやり旅行」というエッセイの中で書かれています。祭りだけでなくベルギーの豊かな食や文化を伝える素晴らしいエッセイですので、ご興味のある方はそちらもぜひ。

文・横山珠世
女一人と猫一匹の暮らしから人と猫が共に健康で幸せに生きていく術を考える、株式会社ジャパンライフデザインシステムズの編集兼ライター。『セルフドクター』や書籍などの制作・発行に携わる。