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[論文メモ] マンクスミズナギドリのnatal homing

Wynn et al. (2020)
Natal imprinting to the Earth’s magnetic field in a pelagic seabird
Current Biology [オリジナル論文へのリンク]

※ 解析手法をすべては理解しきれていない & 結果の一部を読解できなかった。誤読や読み落としがあるかも。

リサーチクエスチョン:

・巣立ちをしたマンクスミズナギドリ幼鳥(Manx shearwater, Puffinus puffinus)のほとんどが数年後に自身が生まれた繁殖地に戻ってくる(=natal homing)。この論文で使った足環回収データでは96%の幼鳥が生まれた繁殖地に戻ってきた。

・巣立ち後の幼鳥は親鳥には頼らず(頼れず)初めての渡りをする。赤道を越えて大西洋を横縦断。

→  マンクスミズナギドリは何を手がかりにnatal homingを達成しているのか?

仮説:

『地磁気インプリンティング仮説』
生まれた繁殖地の地磁気環境に近い場所へ戻ってくる。巣立ちから戻ってくるまでの間に繁殖地の地磁気環境が変化すると、natal homingにエラーが生じ、巣立ち時の地磁気環境に似た別の繁殖地に戻ってくる。ウミガメ類やサケマス類ではこの仮説を支持する結果が報告されている。

検証方法:

・1962〜2015年の足環回収データ、幼鳥2996羽分 & 成鳥1207羽分を解析。足環装着は8箇所の繁殖地(-5°E〜-10°E, 45°N〜65°N)で行われた。幼鳥2996羽中、109羽(= 3.6%)は生まれた繁殖地以外の場所で見つかった。

・幼鳥が再び戻ってくると考えられる生まれた年の3年後までに、地磁気パラメータの等高線は北方向にシフトしている場合と南方向にシフトしている場合があった。
→  上述の『地磁気インプリンティング仮説』が正しければ、北シフトの場合は生まれた繁殖地よりも北へ、南シフトの場合は生まれた繁殖地よりも南へ戻ってくると予想される。

・線形モデル
[生まれた繁殖地と戻ってきた繁殖地の緯度の差] 
vs
[生まれた年とその3年後の繁殖地の地磁気パラメータ(伏角, 全磁力)の差]
or [生まれた年とその3年後の繁殖地のSST(地磁気以外の候補として)の差]

※ サンプリングバイアスを考慮した解析もしている(私は理解しきれていない)

結果:

・ [生まれた場所と戻ってきた場所の緯度の差] は [地磁気伏角の等高線のシフト] によって説明できた。
※ 後述のような疑問点もある

・全磁力の等高線やSSTのシフトでは説明できなかった。

→  地磁気伏角をnatal homingの手がかりにしている可能性が示唆された

疑問:

・著者の主張を確かめるには、[生まれた繁殖地と戻ってきた繁殖地の伏角の差] を求めた方が直接的に思えるけれど、なぜ [地理的な緯度の差] を使っているのだろう。

・Fig. 2A(全個体)& Fig. 2B(生まれた繁殖地以外で見つかった個体)と本文との対応が明記されていないのだけど、線形モデルの切片と傾きが予測通りの結果になったのは Fig. 2B のみに見える(そして、2点の値にひっぱられているようにも見える)。Fig. 2Bのデータは「natal homingをしなかった」ケースということになるので、この結果からnatal homingのsensory mechanismを論じることに少し違和感があった。[地磁気伏角+なにか]、の [+なにか] を何らかの理由で損なったのが Fig. 2B の 109羽、というイメージだろうか。

・Highlightsには「This study provides a sensory mechanism for natal philopatry in avian taxa」「This study provides first evidence for magnetoreception in a pelagic seabird」と書かれているけれど、この論文の結果からそこまで言ってもよいのだろうか。

※ 私が理解できていない部分でこれらについても取り組まれているのかもしれない

おもしろかった点

・足環データを長期スケールのnatural experiment的な解析に利用するというアイデア

・オオミズナギドリの全繁殖地の足環データも見てみたくなった


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