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鳥類のナビゲーション研究 [2]-4

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生物の科学 遺伝 2017年11月号『特集 生物のナビゲーションを科学する』に寄稿した内容を分割して公開しています

元記事のPDF↓

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鳥類のナビゲーション研究 [1]
鳥類のナビゲーション研究 [2]-1
鳥類のナビゲーション研究 [2]-2
鳥類のナビゲーション研究 [2]-3

続・(3) メカニズムの検証

もう一つの伝統的な実験方法は,鳥を巣から離れた場所へ人為的に運び出し,そこから放った後の移動パターンを調べる「放鳥実験」である。特定の感覚器官を機能しないようにする,もしくは感覚を狂わせるような操作をしてから放鳥することによって,ナビゲーションメカニズムを検証することもできる。

たとえば上述の太陽コンパス仮説を検証するため,人為的に明暗リズムを調節した部屋に鳥を数日間置き,体内時計を実際の時刻から遅らせたり早めたりした後に放鳥した実験(クロックシフト実験)がある。巣箱から離れた場所で放たれた鳩の飛行方位が,体内時計のシフトから予想される方角にずれることが報告されており,太陽コンパスを使っていることを示す最も強力な証拠とみなされている [ref 19]。

以前は,放鳥地点から飛び去った方角や巣に戻るまでにかかった時間を測って帰巣能力の指標にするしかなかった。しかし近年は,嗅神経に麻酔をかけたり,頭に磁石を取り付けたりした個体の放鳥後の帰巣経路を,GPS ロガーで記録した例も報告され始めている。嗅覚が発達していると考えられているミズナギドリ類を巣から数百 km 離れた海の上から放鳥した実験では,嗅覚を阻害すると帰巣経路が対照群とは大きく違っていた [ref 20, 21]。 この結果から,嗅覚がナビゲーションに貢献して いる可能性が高いと考えられている。

その他の検証方法としては,Y 字型迷路の終端に巣材,雛,繁殖相手の羽毛などを置いて,海鳥が何の匂いを手がかりに巣に戻ってくるかを調べた実験 [ref 22] や,ある場所を出発した渡り鳥が地磁気や太陽をコンパスとして使用していた場合の到着地点をコンピュータ上で予測計算し,それを実際の越冬地と比較した研究 [ref 23] などがある。

つづく

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