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鳥類のナビゲーション研究 [3]

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生物の科学 遺伝 2017年11月号『特集 生物のナビゲーションを科学する』に寄稿した内容を分割して公開しています

元記事のPDF↓

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鳥類のナビゲーション研究 [1]
鳥類のナビゲーション研究 [2]-1
鳥類のナビゲーション研究 [2]-2
鳥類のナビゲーション研究 [2]-3
鳥類のナビゲーション研究 [2]-4

3. ミッシングピースとこれからの展望

このように実験が積み重ねられてきたが,鳥類のナビゲーション研究はいまだ発展途上にある。 これまでの研究に欠けていたもの,これからの研究で解決していくべき課題にはどのようなものがあるだろうか(図 4)。

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ミッシングピース

まず,ナビゲーションメカニズムの研究対象は,夜に渡りをする鳴禽類,もしくは伝書鳩に著しく偏っている。これは,前述のような室内実験には小型の種が向いていること,渡り行動については鳥が目指すべき方角を私たちもおおよそ知っていること,鳥が目指そうとしている方向を知る方法(渡り衝動とエムレン漏斗)があること,ナビゲー ションを目的とした移動だけをしていると仮定できること,が主な理由である [ref 24]。体の大きな種や毎回異なる餌場を利用する鳥類の帰巣行動については,検証実験の難しさから研究が遅れている。

一方,野外実験での問題点は,バイオロギングなどで得られた移動経路データを詳細に解析した研究が少ないことである。ナビゲーション研究のアプローチとしては,メカニズムの候補を絞り, その仮説を検証する「仮説先行型」研究が大半を占めており,自然環境下での移動パターンをじっくりと分析することによって移動経路の形成メカニズムを理解する「データ先行型」研究はほとんどない。

島谷らの報告 [ref 25] は,数少ないデータ先行型研究である。オオミズナギドリの餌獲り旅行中の移動経路を 1 秒間隔で記録し,移動方位の確率分布や時系列情報を飛行イベントごとに分析することによって,移動パターンに風環境が影響していることや,帰巣モチベーションの高さの変化について示唆している。移動経路全体の直線度合いや移動方位の目的地からのズレの大きさを見るだけでなく,複数の制約が作用する環境下での移動パターンを多角的に分析することでしか見えないものがあるはずだ。

これからの鳥類ナビゲーション研究

以上の二つの問題点を合わせて考えると,これまで主流であった室内実験だけでなく,鳥類が自由に動き回る野外での行動計測と分析をベースとした実験をさらに押し進めるという方向性が浮かび上がってくる。

室内実験とは逆に,バイオロギング研究ではむしろ体の大きな種の方が機器装着による影響も比較的小さく,実験しやすいという利点もある。移動経路に加えて,加速度・動画・ 脳波・心拍データを同時に記録するようなデータロガーや,それらのデータを無線通信によって取得する,究極的にはリアルタイムですべての鳥の動きがわかるようなシステムが実現すれば,どのような情報の入力が鳥たちの行動にどのような変化をもたらしているのかを,時々刻々と変化する自然環境の中で検証することも夢ではない。こうした野外実験ベースのアプローチは,「なぜナビゲーション能力が進化したのか」について知るための鍵でもある。

世界的に見ると日本でおこなわれた鳥類の移動・ナビゲーション研究は圧倒的に少なく,日本語で出版された鳥のナビゲーションに関する書籍の数も多くはない(『レース鳩 0777』という国民的な漫画はあるのだが......)[ref 26]。著者らが参加している新学術領域研究「生物移動情報学」は,そのような現状の打破と,ナビゲーション研究のフレームワークを刷新する起点の一つとなることが期待される。鳥類の移動は,個体の生存や繁殖だけでなく,ウイルスの散布や生物多様性,生態系サービスなど,人間社会とも深い関わりがある。 研究分野の垣根を超えて,計測・分析・理解・検証というナビゲーション研究のプロセス全体を総合的に発展させることによって,これまでにないアプローチと発見が可能となるに違いない。

おわり

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