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鳥類のナビゲーション研究 [2]-2

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生物の科学 遺伝 2017年11月号『特集 生物のナビゲーションを科学する』に寄稿した内容を分割して公開しています

元記事のPDF↓

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(2) メカニズムの候補

鳥たちの移動能力の高さを示す証拠が増えるほどに,そのナビゲーションメカニズムを解明したいという気持ちも研究者たちの中で強まったに違いない。

鳥類のナビゲーションについては,古くから注目され続けている仮説がいくつかある。そのほとんどは,ナビゲーションメカニズムを位置情報の取得(=マップステップ)と方位情報の取得(=コンパスステップ)に分け,そのどちらか一方に着目して,どのような環境情報が利用されているかを推測したものである。

【マップ & コンパス仮説】 動物のナビゲーションが,現在地と目的地の位置関係を把握し,次に,進むべき方角を定める,という二つのステップを繰り返して達成されるとする説 [ref 12]。私たち人間が,地図を見て現在地を知り,方位磁石などで方角を定めるやり方になぞらえ,「マップステップ」と「コンパスステップ」 とよばれている。


ナビゲーションに使われている環境情報の候補には,太陽や星などの天体,地磁気,匂い,目印(ランドマーク),といったものがあげられる。野生動物は体内時計によって時刻を知覚していると考えられており,その時刻情報と太陽の位置を参 照すれば方位情報を得ることができる。また,地球には磁場(地磁気)があり,巨大な磁石のような性質を持つ。方位磁針が北を指すのはこのためである。鳥類をはじめとするさまざまな動物が,方位や位置を知るために地磁気を利用して いるといわれている [ref 13]。嗅覚が特に発達していると考えられている種については,匂いをナビゲーションに使っているという説もある [ref 14]。 

鳥たちがどのような環境情報を利用しているとしても,特定の情報が使えなくなったらナビゲーションできなくなるというわけではない。たとえば曇りの日は太陽の代わりに地磁気に頼って方位情報を得るなど,1 種類の情報だけに頼るのではなく “ 保険 ” となるメカニズムを備えているので ある。このことは動物にとってはもちろん合理的なのだが,研究者にとってはメカニズム検証が困難な原因にもなっている [ref 15]。


つづく

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