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15時17分、パリ行き

Based on a true story.

事実をもとに作られた映画作品の冒頭でよく目にする言葉だ。今から観るものはフィクションとわかっていながらも、この一文を見ると背筋をピンと張ってしまうところがゲンキンな性分である。

事実に基づく物語を、どう表現するのか。限りなくエンターテイメントへ寄せるものもあれば、忠実に事実を辿ろうとするものもある。ただ、商業映画で事実を再現するにも限度がある。再現ビデオのような筋立てを見せられてもつまらない。映画『15時17分、パリ行き』は現実に起きたテロ未遂事件を、犯人を取り押さえた青年の視点で描く作品だ。エンターテイメントでありながらも事実を丹念に描く構成は、監督であるクリント・イーストウッドならではの細心の配慮が随所に施されている。

物語は2015年にベルギーに本社を置く欧州の国際鉄道・タリスの車内で起こった銃乱射事件に基づいている。この事件は、偶然車内に居合わせていたアメリカ人の旅行客であるスペンサー、アレク、アンソニーの勇気ある振る舞いによって未遂に終わる。この3人が、事件に巻き込まれるまでどのような過程で、どのような人生を過ごしてきたのか。幼少期から淡々と描かれる人生のトピックは、特別な何かが起こる訳でもない。ふつうの、片田舎で育った少年達の日常がダラダラと続く。男同士の日常のやり取りは弛緩したパートだ。ただ、この弛みの中に、後半の事件パートのキーとなる要素が散りばめられている。怒濤の事件シーンの中に、彼らがこれまで過ごしてきた「普通の人生」の中で得てきたものが、犯人確保に重要なパーツとして表現されている。この構成は、まさに巧みだ。

この映画に登場する主人公の3人は、なんと実際に事件に遭った本人達が演じている。本人達が、実際の犯行現場で、事件を思い出しながら出演しているのだ。事件の再現性だけでなく、市井の人たちの人生を過剰にドラマティックにすることなく真摯に描こうとしたクリント・イーストウッドの姿勢には、感嘆するしかない。

前半パートの緩やかな日常から、あっという間に事件に巻き込まれる後半パート。このギャップ、ぜひ劇場で味わっていただきたい。


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