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集落丸山  篠山

ここを語るには少し、説明が必要かもしれない。

訪れたのは、約5年前。

今は、ニッポニアという名前のほうがすっかり有名になったかもしれないけれど、当時はまだそんなに知られていなくて、私みたいな興味本位の個人が、1人でも集落丸山を見学できるツアーがあった(実際、そのときは見学者は2人だった)。

集落丸山は、篠山という兵庫県の城下町近くの古民家を改装した一棟貸しのホテルだ。

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とてものどかで、心地よい田舎の農村だ。散策するのも楽しいし、いわゆる伝統的建築物(伝健)保存区域の街並みもとてもきれいだ。

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毎年、秋に行われていたササヤマルシェというイベントでは、付近の雑貨・カフェなどが集まって、とても面白い賑わいもあった。

古民家を改修して、宿泊施設、あるいはなにか店舗として活用する。今はそんなに珍しくはないのかもしれないが、この篠山の古民家再生プログラムは、「篠山方式」と言われるくらい、スキーム(仕組み)が優れている。

古くからある家、集落、古い建物が無くなっていく理由はいろいろある。家主が不在のまま放置されている、持ち主が特定できない、維持管理するよりも潰すほうが楽で早い。古い建物を活用できなくて、朽ちていくか、潰していくか。街並みを保存しようとか、文化財の指定を受けようとか、そういうことをしない限り、基本的に家は誰かの持ち物だから、その人にどうするか決める権利がある。
放置されていても、そこにはだれかの持ち物が残っていたり、仏壇も神棚も残っている。

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集落丸山は、NPO、行政、地域の自治組織、地元の大工や建築家がうまく折り合って、作られている。

家主は10年間無償で家を貸し出す代わりに、一般社団法人ノオトがリノベーション費用を賄う。そうして生まれ変わった古民家をホテルや店舗として活用することで、その費用を10年のあいだに回収する。そうしてまた新しい古民家を直していく。家主の手元には、10年後には生まれ変わった古民家が返ってくるというメリットがある。

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集落丸山の施設は、街中からさらに山のほうにある離れのような古民家だ。街中の古民家のほうが、防火対策などを考えるとそのリノベーションの難易度は高いという。その当時は、維持管理は地域のNPOや自治組織が行っていた(もう少し複雑な仕組みだったかもしれない)。

一棟貸しのホテルで、ぜいたくな造りだし、中はとてもきれいに整えられていながらも、古民家の風情も味わえる。単純に宿泊すると結構な値段はするが、携帯電話の電波も届かない場所でデジタルデトックスできると人気らしい。

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ツアーでは、集落丸山の宿泊施設以外にも、ノオトが手掛けた古民家や、その当時構想中だったニッポニアの改装中の古民家なども案内してくれた。ちょうど民泊が法制化され規制がどんどん厳しくなっていた頃に、至極まっとうなやり方で、町中をホテルにしておもてなしをする、という面白い話を聞いてとてもワクワクしたのを覚えている。

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きちんとまっとうなやり方で、無理のない形で、古民家を再生し、人を呼び込んでいく。篠山周辺への移住者は古きよきものを求めてやってくる。その頃には既にそういう良い循環が生まれていた。手紙舎のやるような蚤の市レベルのものが地域の人だけでできるくらい、手仕事をして生計を立てて、丁寧な暮らしをしていく、そんなのが体現できる場所として強い活気があった。とにかくスローライフの熱量が高いエリアだった。

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いま、ニッポニアの仕組みは、篠山だけでなく全国に広げている。制度や法律、地域の職人、町に住む人、家主、複雑に絡みがちな難しい問題を解く「仕組み」を考えて、それを全国にも同じように広げていく。そういう活動をしている彼らの仕事はとても魅力的で、美しいと思った。

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私は、古いものを直して使う、そういう建物やモノが好きだし、その仕組みの話を聞くのも面白い。自分でなにかしたいわけではないけれど、ただこういうものに魅かれて、そこに関わっている人たちを心から尊敬している。

鬱がとてもひどくなり職を失い、仕事も家事もうまくすることもできなくてどん底にいた私は、こういう場所を転々と見て回っては、少し慰められたような気がして、おかげで少しずつ回復していったのかもしれない。誰かがやっている美しい仕事は人知れず、ほかのだれかを勇気づけている。

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