見出し画像

もう一度 猫と

10年以上ぶりに聴いたライブ。

見汐さんの歌をライブで聴いたのはいつだっただろう。たぶん2008年くらいの頃だと思う。

新卒で働き始めて、東京に出てきたばかり、慣れない土地で、慣れない社会人をして、理不尽な思いをしながら働いているときに、ふわっと心を軽くして、不安定なのに芯のある唯一無二な演奏と歌声にとても癒やされていた。

昨年エッセイを出されたとき、すぐに家に近いBlackBirdBooksさんで購入した。購入するときに、じつは知り合いなんです、と店主の吉川さんからは聞いていたけれど、まさか見汐さんと吉川さんのトークが聞けるとも思わなかった。エッセイは『もう一度猫と暮らしたい』というタイトル。だけど、猫がそんなにたくさん出てくるわけではない。

本の中では、見汐さんの幼少期のころの思い出がたくさん語られていて、とても愛おしい。心の揺れ動く幼少期と、大人になったあとの淡々とした日々とが交錯して、いつのまにか引き込まれ、心動かされる。見汐さんの歌みたいに。

歌い手としての見汐さんは、本の中ではあまり語られない。バンドをやっていた、みたいな話も出てこない。帯にも書かれていないし、手に取る人の殆どは知らないかもしれない。ただ、各章は歌のようにタイトルがつけられ、本全体がアルバムのような仕上がりになっている。歌のように、言葉も装丁も美しい。

今になってこうして本に出会い、歌も再び聴くことができて、不思議と大人になったなあと感慨深い気持ちでいる。私も当時は若くてよくわからない社会に嘆きながらライブ会場に足を運んで鬱屈した気持ちを音楽で洗い流していたように思う。いろんな清濁合わさった気持ちが織り交ざった一冊の本を読んで、そんな時の流れも感じている。とてもいい夜でした。

この記事が参加している募集

読書感想文

読んでいただいて、ありがとうございます。お互いに気軽に「いいね」するように、サポートするのもいいなぁ、と思っています。