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やっぱり気になるその存在。

いつからだろう、「めんどくさい」が必要のない人生になった。

私は子供の頃からめんどくさい性格で、英語にmoodyという言葉があるのだがそれは日本語の「ムーディー」とはニュアンスが違って、「You're moody」とか「Don't be moody」と言われる度に落ち込んでいた。

英語のmoodyはよく言えば喜怒哀楽が豊か、可愛く言えば気分屋。でもニュアンス的には「難しい」人を言う。すぐ機嫌が悪くなるし、なぜ機嫌が悪いのかもわからないから(多くの場合、本人もわかってはいない)、周りには自分勝手な人間に映る。

本人の中では、色々あるのだ。本人が一番混乱している。

千早茜さんの小説『男ともだち』は、「本人の中では色々あるのだ」と思わざるを得ない、わりと自由で自己中心的な29歳の女性が主人公だ。(自分が29歳の時はそれ以上に自分中心だったので責めない。ザッツリアル。)

プロのイラストレーターとしてようやく食べることができるようになった神名葵は、同棲している恋人がいながら、医者の愛人も持ち、久々に大学時代の男ともだち「ハセオ」から連絡が来る。

千早茜さんの『神様の暇つぶし』を先日読んで心が震え、2014年に直木賞候補になったこちらの話題作を読みながら「わぁ大変だぁ」と思う自分、そのゾーンからはなんとか抜け出せたということかもしれない。

そのゾーンというのは、必要以上に自分を傷つけたり相手を傷つけるというプレイス。20代、30代前半はしっかりそこの住人でした。

神名にとって一番大事なのはイラストレーターとして、いつかは絵本作家として作品を多くの人に見てもらうこと。「お仕事小説」というアングルから読むととても楽しめる小説で、周りを気にせずマイペースに作品に打ち込む姿を応援したくなる。

しかし恋人との関係は悪化していき、愛人とも虚しい時間を重ね、過去の自分からは逃げ続けている子が友人だったら...。(または自分だったら)

そこに登場する「男ともだち」。同棲している恋人が「その呼び方、狡いよな」というのに頭をブンブン振りたくなるほど、周りの人間は傷つく存在。

誰も入れない。でも、恋愛に発展しない。

神名にとってハセオは頼れる存在だからこそ、そしてハセオにとっても神名は他の女と違うからこそ、一線を越えることがない。

そのような関係が成り立つのかどうかというディベートもまた朝まで続きそう。

ツッパればツッパるほど不安が募る神名を見てると、その「めんどくささ」が愛おしく、簡単に「相談に乗るよ」と言えない過去を持つ彼女を静かに見守りたくなる。

救いになるのは「表現する場」があることのように見えるけれど...。

クリシェになりそうな人間関係を複雑に描く千早茜さんの作品に、これはちょっと全作読まなくては危機感に似た感情を覚える。

良い本に出会うと、なぜか私は「危機」を感じるのだ。




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