みんなが幸せだと自分もうれしい。底抜けに優しい法務部長の夢とチャレンジ[後編]
11月末からグリーンローソン1号店で正式にスタートしたアバタープロジェクトについて、発起人である月生田さんにお話をうかがうインタビュー企画。前編ではアバタープロジェクトへの思いや立ち上げた経緯をうかがいました。後編では、困難だった点や今後の展望、月生田さんの個人的な夢などを語っていただきました。
アバター事業プロジェクトリーダー/月生田 和樹
理事執行役員・事業サポート副本部長・法務部長
1975年、香川県生まれ。東京大学卒業後、4年間の無職期間を経て2003年、ローソンに入社。直営店のローソン下谷三丁目店、池袋メトロピア店を経て、2004年8月、本社法務部に異動。2017年から法務部長としてローソングループの事業活動を陰ながらサポートするほか、社内DX推進や全社向け勉強会などの社内人材育成にも尽力。2022年からはアバターを活用した新しい働き方と温かい未来をローソンとして実現するために日々奔走中。
チャレンジを辞める寸前まで追い詰められた
このチャレンジの困難だった点は?
新しいことを始める時って、最初は一人なんですよね。だから、まずはいろいろな部署の人にこのアバター事業を一緒にやってくれませんかと声を掛けて仲間を集めることから始めざるをえませんでした。それから新事業を回すためには、いろいろな部署の人たちの協力が必要不可欠です。一人ではやりきれないことをどれだけの人が共感・賛同して一緒にやってくれるかがポイントなんですが、私の予想よりも事業の規模がどんどん大きくなり、一人では抱えきれなくなってしまいました。
こんなことを言っちゃっていいのかなと思うくらいの無茶な計画を立てて発表したので、特に今年の夏頃は一人ではどうしようもなくなって、かなり精神的に追い詰められました。9月22日に予定していたアバタープロジェクトの正式な記者会見までにもろもろ間に合うのかなとか、そもそも50人も面接できるのかなとか、毎日不安であまり眠れませんでした。やることやスケジュールを含め、自分で言ったことは実現しなきゃいけないのは仕事として当然なのですが、先ほども話した通り、ボタンを押してもどうなるかわからないことを自分ひとりでやるのは初めてだったので不安が大きかったですね。一時は、本当にこのチャレンジを辞めようかと思うくらいまで追い詰められました。
当然、法務部長としての仕事もあるわけですから並大抵のハードさではないですよね。でも全部自らやりたくて始めたことなんですよね。自分で自分を追い詰めるタイプなんですか?
追い詰めたくはないけれど、気がついたら追い詰められちゃってるんですよね。不思議と(苦笑)。
そこからどうやって持ち直したのですか?
11月下旬頃にようやくローソンアバターオペレーターの合格者が決まって、一緒にやれる人手が確保できたことで、少し安心して眠れるようになりました。
不眠になるほどキツいのに、そこまで頑張れるモチベーションは?
ローソンアバターオペレーターのみなさんが、研修中に採用されてすごくうれしいとか、もっとみんなで頑張ろうとよく言ってくれたんですよ。そういう言葉を聞くと私もうれしくなって力が湧いてきて、やっぱり踏ん張ってもう一回頑張ってみようかなという気持ちになったんです。彼らから元気をもらって何度でも立ち上がるみたいな感じですかね。このプロジェクトに対する彼らの情熱に幾度となく救われました。
あと、社内の人の応援や協力も力になりました。皆さんただでさえ本業で忙しいのに、かなり手伝っていただいたので感謝しかありません。
アバターシステムは11月28日にグリーンローソン1号店でスタートしたわけですが、いかがでしたか?
当日は私も朝からお店に行って見守っていたのですが、何のトラブルもなく無事運用できました。その後、現在に至るまで大きな問題はなく稼働してます。
アバタースタートの日を無事終えての感想は?
まずはアバターシステムがきちんと稼働したことでほっとしました。前にもお話した通り、我ながら無茶だなと思うスケジュールで、走りながらいろいろ決めて実行してきたということもあって、よくスケジュール通りにスタートできたなというのが正直な感想です。また、きちんとスタートできたのはご協力いただいた皆さんのおかげなので感謝の気持ちで胸が熱くなりました。
アバターオペレーターとは採用から直前の研修、トレーニングまで深く関わってきたわけですが、その方々の接客ぶりを見てどう感じましたか?
オペーレーターの方々も何回か研修はやってはいたものの、初めての試みなのでいざ実戦となるとかなり不安もあったと思うんですよ。でも終始きちんと問題なくこなせていたので安心しました。
その後アバターオペレーターとは何か話しましたか?
業務終了後、「実際にアバター店員をやってみてどうだった?」と感想を聞いたところ、皆さんひと言目に必ず「楽しかった!」と答えていただけたんです。オペーレーターの皆さんが楽しく働けると接客の雰囲気もすごく明るく、温かくなり、それがお客様にも伝わったのでよかったなと思いました。
来店したお客さんの反応もいい感じでしたか?
そうですね。皆さん、帰り際に口々に「すごい!」とおっしゃっていました。また、道路に面している方に設置してあるアバターが道路を歩いている人に手を振ったりピースしたりすると、歩いている人も笑顔で手を振り返してくれたり、ピースを返してくれたりしました。さらに、アバター店員を二度見した後、お店に入ってきた人もいて、誘引効果も確認できました。
店内は多くのお客さんで賑わったのですか?
初日はかなりの数のお客様が入っていましたね。ただ、皆さん最初はアバターがAIで自動的に動いているものだと勘違いしていたので、アバター店員から話しかけられると、「あ、話せるんだ! AIだと思ってた!」と驚いていました。
実はこの事態は事前に想定していて、アバターオペレーターの最終面接試験でこのようなシナリオを作って練習していたんですよ。だから皆さんでその通りのことが起こったねと笑い合っていました。
それはおもしろいですね。ではこのプロジェクトを立ち上げて以来、ずっと抱いていた月生田さんの思いが現実のものになったといえますね。
そうですね。まずはお客様がアバター店員と会話をして笑顔になって帰っていただくことと、接客するアバター店員も楽しい気持ちになることを狙っていたので、それが実現できたのが非常にうれしいですね。
この感じだと今後の運用も大丈夫そうですし、より期待が持てますね。
お客様に訴求できる商品は、その時々のお店の商品の在庫の状況で変わってくるんですが、アバターでは確認できる商品が限られます。例えば、からあげクンの什器は見られるので、からあげクンが新しく入ってきたらそれを見ながらアバター店員が訴求できるんですが、デザートケースの在庫状況は見られません。でもリアル店員に在庫状況を教えてもらえばいろいろ広げていけると感じています。
また、今日・今週のお勧め商品についてもリアル店員とアバターオペーレーターが事前打ち合わせやその場で確認しながら決めると、よりリアルとバーチャルが繋がって訴求できます。
このように、今後、アバターオペレーター側のスキルがどんどん上がって、リアル店員の方たちとの連携を強めていくことで、より接客のレベルが上がり、お客様への訴求力もアップしていくでしょう。
2025年度中に1000名を目指す
アバタープロジェクトの今後の目標を教えてください。
今後、引き続きグリーンローソンでの検証を行った上で、2023年度中にローソンアバターオペレーターの50名の育成を目指します。さらに、2025年度中にアバター店員がいる店舗を全国200以上に拡大し、各地のローソン店舗で活躍するアバターオペレーターを1000名に増やすことが目標です。
また、アバターオペレーターの勤務形態も、現在はまだ始まったばかりなのでローソン本社と大阪コンタクトセンターに出勤してオペレーター用PCを操作するという形を取っていますが、このプロジェクトはアバターオペレーターが好きな場所から遠隔操作できなければ意味がありません。ですので、将来的には、オペレーター用PCや通信環境、セキュリティ環境などの条件が整っていれば、ご自宅やシェアオフィス等からリモートワークができることを目指しています。それが実現できれば一気にアバターオペレーターもアバターが活躍する店舗も増えるでしょう。
それはいつ頃を目指しているのですか?
今、IT部門とセキュリティの問題について協議していて、そこさえクリアできればすぐにでもやりたいですね。少なくとも車いすで通勤されている方や、深夜時間帯を担当頂く場合にわざわざこちらまで来ていただくのは大変だと思うので、できれば最短で2023年1月から1、2人でもいいので実現したいと考えています。
これまで20年ほどローソンで働いてみて、気に入ってる点はどんなところですか?
ローソンの社員はみんないい人なんですよね。もちろん中には言葉遣いが荒かったり最初はちょっととっつきにくい人などもいるんですが、そういう人ほど実は人柄は温かくて優しい、思いやりのある人が多いので、働きやすいと感じます。
楽しくなければ仕事じゃない
仕事観についてお伺いしたいのですが、仕事とはどのようなものとして捉えていますか?
ひと言でいうと生活の一部ですね。あまり仕事を仕事と思っていないというか、要は仕事だろうが何だろうが楽しめれば、おもしろければいいっていうことですよね。
もし仕事がおもしろいかどうかではなく、否応なしに義務としてやらなければならないこととして考えちゃうと、誰でもつらいと思うんです。そうじゃなくて、おもしろいことだと捉えて楽しもう!と考えると、その瞬間から仕事かどうかにかかわらず生活の一部として楽しくやっているという感覚になります。そうなると仕事も生活も楽しくなるはずなので、なるべくみんなにもそういうふうになってほしいと思って、どうやったらもっと楽しんでもらえるか考えながら、社内でいろいろ仕掛けているところです。
自分のためのチャレンジが人のためになっている、あるいはその逆を感じることはありますか?
実は法務部長としての仕事以外に、このアバタープロジェクトにチャレンジする前にも、社内にDXを広げるプロジェクトも立ち上げて取り組んでいました。これもアバターと同じく最初は一人で始めたのが、徐々に拡大し、今では専門の部署まで出来ました。
このようなチャレンジをやってみせるというのも私の重要な役割の一つだと思っていて、たった一人からの無謀とも思えるチャレンジでも、頑張っているうちにいろんな化学反応が起きて拡大し、成果が出ることがわかれば、社内外に自分も何かやってみようかなという気になる人も現れると思うんですね。そうなれば個人としても会社としてもすごくいいし、私自身も、誰もやったことのない新しいことにチャレンジすることで、何かが変わっていくのを見られるとすごくおもしろいので、自分のためにもなっていますね。
仕事の原動力は?
まず自分が楽しみたいというのがあります。同時に自分の仕事によって、誰かに笑ってもらいたい、楽しくなってもらいたい、おもしろいと感じてもらいたい、参加してよかったと思ってもらいたい。これらが私の仕事のモチベーションですね。
コンビニ以外の業態にもチャレンジ
──今後手掛けたいプロジェクトはありますか?
ご存知の通り、ローソンはコンビニのフランチャイズビジネスを展開していますが、今後、人口減少などの諸問題でこのままでは急成長は見込めません。だからこのビジネスモデルそのものを大きく変えることを、今のうちから考えなければいけないと思っています。
昨年参加した約1年間の変革型リーダー養成プログラムでもこのような話が出ていて、これからは既存の事業軸を大事にしながらも、次を見据えた新しいビジネスにも取り組んでいく、いわゆる両軸の経営が必要不可欠。その中でこのアバター事業が新しい軸として確立できるかは別にしても、少なくともこのようなことを考えられる企業であることを社内に示したい。これも仕事の大きなモチベーションになっています。
──コンビニという業態以外のビジネスも考えているということですか?
そうですね。例えばアバターシステムは今やっているようにコンビニのサービスの一つとして考えることもできるし、その延長線上で例えば車など、これまでコンビニで売っていなかった商品を、お客様が仮想空間で見て触って買えるといったビジネスも考えられます。
もう一つは、多くの人が活躍できる社会ってすごくいいと思うんですよ。そのために、人々にいろいろな働き方を提供できる、人に関するビジネスに移行してもいいと考えています。
──人材ビジネスのようなことですか?
ローソンの店舗にはクルーと呼ばれている従業員が全国に18万人もいます。これはすごいことです。それでも人手不足だと言ってるわけですから、実際にはもっと拡大できる余地はあります。ですので、アバターを通じて活躍するクルーがより増えた時に、一人ひとりに希望する働き方や働く場を提供できれば、自己実現、自己表現にも寄与できます。ローソンがそのようなビジネスを立ち上げることができれば、この社会に生きる人々にとってこれまでのコンビニという存在以上に役立つ存在になれると思うんです。
──普通の人には発想できないようなことをいろいろ考えているんですね。
こういうことを含めて今、いろいろ提案しているんですが、みんなは何を言っているのか分からないと困惑しています(笑)。
自分一人だけじゃなく、みんなで楽しく
──プライベートについてもお聞きしたいのですが、何か趣味はありますか? もしくは休日はどう過ごしていますか?
最近アバタープロジェクトで多忙だったのでなかなかできていないのですが、それ以前は土曜日は私が家族のために夕飯を作る日にしていて、毎回餃子を焼いていました。餃子は包み続けて40年。けっこうな老舗です。
──月生田餃子のこだわりは?
かなり餡が多めな点ですかね。普通の人ならその量は包めないんですが、40年もやってると余裕で包めるようになります。皮にもこだわりがあって、餡を尋常じゃなく多く入れるもんですから普通の皮じゃ破れちゃうんですよ。だから大判の餅入りの皮とか生の厚めの皮を使っています。でもこんなにこだわって作るんですが、子どもたちはそんなに食べないんです。
──仕事柄ストレスもかなり多いと思いますが、その解消法は?
寝ることですね。どんなにストレスを感じてなかなか眠れない時でも、いったん眠ってしまえば、朝起きた時スッキリですっかり元気になってます。翌日に引きずりません。それは我ながら驚いてます。
──何をしている時に一番幸せを感じますか?
最近はアバターオペレーターが楽しそうに働いているところを見かけた時ですね。
──生きる上で大切にしていることは?
仕事と同じで、楽しく生きるということ。それも自分一人だけ楽しくてもしょうがないので、できるだけみんなが楽しくなるようにしたいですね。と言っても最近は社内のみなさんにどうしてもご迷惑をおかけして怒られることもあるので、どうしたものかなと悩むことも多いのですが。
──本当に仕事とプライベートの境目がないし、自分自身より、他人が喜ぶ方がうれしいんですね。
確かに言われてみるとそうですね。
──人の感情に共感して人がうれしいと自分もうれしいというのはまさにローソンの「みんなと暮らすマチ」というコンセプトにぴったりですね。それ以外にアイデアの発生源はありますか?
まず自分にとっておもしろいかどうか。それは人がやっていないか、できないかどうか。誰でもできることはやりたくないですからね。
地下室だけの家を作りたい
──では月生田さん個人がやりたいことは?
実は昔から言い続けていることが一つあって、地下室だけの家を作りたいと思っているんですよ。一見、入り口がわからない、秘密基地っぽいやつ。
大学時代はバンドをやっていて、また昔の仲間や子どもたちと音楽をやりたいので、完全防音の空間がほしいんです。地下室ならどんなにバカ騒ぎしても大丈夫ですからね。思いっきりカラオケをしたり大音量で映画を観るのもいいですよね。
──楽しそうでいいですね。完成はいつ頃になりそうですか?
何年後がいいですかね。もうそろそろ着手してもいいと思っているんですが、この調子じゃまだまだ先になりそうですね。
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