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【ユナイテッド・シネマ】大事なのは生の声。映画館支配人に聞く劇場の裏側


ユナイテッド・シネマ株式会社 ユナイテッド・シネマとしまえん 支配人 
藤崎 幸太郎(ふじさき こうたろう)
大学時代に3年間、ユナイテッド・シネマ福岡(福岡)でアルバイトを経験。その後2007年に社員としてユナイテッド・シネマ株式会社に入社。2014年にシネプレックス小倉(福岡)で支配人(※劇場責任者)を経験した後、2016年より、ユナイテッド・シネマとしまえん(東京)にて支配人を務める。

本当は 野球選手になりたかったんです

ー藤崎さんは学生時代からユナイテッド・シネマで働かれていると聞きました。子供の頃から映画が好きだったのですか?

両親が映画好きで、映画館に連れて行ってくれたりと映画に触れる機会は多かったのですが、ハマるきっかけとなったのは小学校高学年のとき。
地元福岡に複合型映画館(一つの施設の中に複数のスクリーンをもつ映画館)ができて、初めて、しかも子供だけで映画を見に行ったのですが、その時のワクワク感や異世界に行ったような高揚感が忘れられず皆で何度も行ったんですよね。
もちろんお金がかかることなので気軽には行けませんでしたが、予告を見て「次は絶対アレ観たいよな!」なんて話したり、金曜ロードショーの話もしたり。小学生なりに映画にハマっていました。

ーでは、子供の時から映画に携わる仕事をしようと?

実は、ずっとプロ野球選手を目指していたので「大きくなったら映画館で働きたい」とは考えていませんでした。
高校3年のときに野球とは違う道を考えるようになり、ひとまず大学に進学。
まずは好きな仕事をしてみようとユナイテッド・シネマにアルバイトの応募をしました。これが”映画館キャリア”のスタートです。

ー観る側から提供する側へ。実際に映画館で働いてみていかがでしたか。

スタッフしか見ることができない映画館の裏側に入ることができたり、一般公開されていない情報を一足先に知ることができるのはやはり嬉しかったですね。
中でも一番興奮したのは(アルバイト時代に)、映画館に置いてある販促用の模型を組み立てたときです。自分が作った模型を見てお客様が喜んでいる姿を見たときは感動しました。

ーアルバイトスタッフから正社員へなったのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

当時の支配人(※劇場責任者)に声をかけてもらったのがきっかけです。正直アルバイトは楽しかったのですが、この先も映画業界で働くことまでは考えていなかったので悩みました。
でも、プロ野球選手を目指していたときもそうですが、「好きなことで、人に夢を与えられる仕事をしたい」と考えていたので映画館ならそれができるかなと。
あとは、お世話になっていた支配人が僕を信頼して声をかけてくれたのが嬉しくて、その期待に応えたいと思い入社を決意しました。

大事なのは、データよりも生の声を信じること

ー今では支配人に。現在はどのようなお仕事をされていますか。

劇場運営に関わること全てですね。具体的には、採用やマネジメントはもちろん、映画の劇場宣伝展開を考えたり上映スケジュール作成などをしています。

ー上映スケジュールは、支配人が決めるんですね!

土地柄やお客様の層によって人気の映画は違うので、基本的には劇場ごとに上映スケジュールは違います。
でもユナイテッド・シネマとしまえんに関しては僕一人で決めるわけではなく、他の社員メンバーやスタッフと話し合って決めることがほとんどです。

僕たちは映画評論家でなければ、コンピュータでもないので、一人で決めるとどうしても個人の主観が入ってしまうんですよね。
だからこそ年齢・性別・趣味などが異なる様々なスタッフを交えて定期的に意見交換をしています。

もちろんデータもチェックしますが、映画が好きで、かつ普段からお客様に近い存在であるスタッフの意見が一番信頼できるんですよ。上映スケジュールは、まだ公開されていない映画の未来(ヒットするかしないか)を想定して組むため、データだけでは読み取りきれず、知識と共に感覚が求められることもあるからです。データだけでは判断できない生の情報も活かし、調整して上映スケジュールを組んでいます。

※撮影時のみマスクを外して撮影しております

ーなるほど。生の情報を取り入れるために、工夫していることはありますか。

積極的にレジに立つことですね。支配人業務をしながらも、ポップコーンやチケットを売ったりして、お客様の行動や気持ちを読み取るようにしています。

例えば、タピオカのミルクティー味が人気ということはデータを見ればすぐにわかります。
でもお客様は、本当にミルクティー味が飲みたくて買っていただいているのか。他の味がイマイチだから消去法でミルクティー味を選んでいるのか?
しかし、実際に接客することで、声のトーン、表情、目線など、数字以上のことが見えてきます。体感するとデータが腑に落ちるんですよね。
これが何より大事で、それに合わせてPOPや動線を変えるといった工夫もしています。

もうひとつ、現場に立つ理由はスタッフとの距離を縮めるためでもあります。
“支配人”という肩書ってとっつきにくいじゃないですか。だからこそ一緒にレジに立ちコミュニケーションをとることで何でも話しやすい関係性を築いたり、一人ひとりの表情を見て元気に働けているか、何か困っていることはないかなどをチェックするようにしています。
 
僕にとって映画館は家で、スタッフは家族のような存在なので、この場所でしっかりみんなが楽しく働ける環境を作り上げていくことも支配人としての仕事のひとつだと思っています。

赤ちゃん連れでも気にせず楽しめる上映会

ーユナイテッド・シネマでは、お子様連れのお客様が映画を楽しむための企画があるとお聞きしました。

さまざまな企画がありますが、代表的なのは「抱っこdeシネマ」です。
“頑張るママ&パパに、もっと映画を”をコンセプトに、赤ちゃん連れのお父さんお母さんに映画館で作品を楽しんでもらうための企画です。
 
赤ちゃんが映画館の暗闇や大音量にびっくりしないよう、通常よりも劇場内は明るくし音も少し小さめに。突然泣き出してしまっても大丈夫、周りはみんな子育て中のお父さん・お母さんばかりなので、通常の上映時のように気を遣うことはありません。

子育て中はどうしても行く場所が制限されてしまいますし、周りにも赤ちゃんにも気を遣うため、リラックスしてエンタメを楽しむことは難しいものです。でも本当にそれでいいのかなと。エンタメだからこそ、すべての人に寄り添うべきなのではと考え、ユナイテッド・シネマでは、2017年にはじめて実施しました。

結果は大成功!年間約2,000人以上のお父さん、お母さんがご来場くださり、SNSにはお子さんとの2ショット写真と一緒に喜びの声が多数投稿されていました!
 
実は今年の夏、思い出に残る出来事があったんです。
アンパンマンの上映をしていた時に、お客様から声をかけられました。その方はなんと、2年前の「抱っこdeシネマ」にいらしてくださったお客様でした。

当時は、お子様が生まれたばかりで、映画館でお父さん・お母さんが大好きな「アベンジャーズ」を観ることを諦めていたのですが、「抱っこdeシネマ」があったから映画館で鑑賞できたことや、今回初めて当時赤ちゃんだったお子様が自分で観たいと言った映画(アンパンマン)で鑑賞デビューをすることなど、様々なお話をして下さいました。

こんなに嬉しいことってないなと思いました…!

赤ちゃんのときに一緒に映画をみたことがご両親の思い出になり、大きくなったらアンパンマンで映画デビュー。もしかしたらその子が学生になる頃には初デートで来てくれるかもしれないし、映画好きになってここでアルバイトをしてくれるかもしれない。

映画館として家族の思い出に関われることや、人生に寄り添えることはとても感慨深いですし、同時に映画館としてのさらなる可能性を感じました。

▶赤ちゃん連れでも映画を楽しめる「抱っこdeシネマ」の詳細はこちらから
https://www.unitedcinemas.jp/dakko_de_cinema/

映画館をここに存続させることこそが使命です

ー藤崎さんも、子供の頃から映画ファンだったんですよね。

はい、よく親や友人と映画館に行ったり、金曜ロードショーも欠かさず観ていました。中でも一番印象に残っている映画が「LEON(レオン)」です。
当時、作品を通して初めて、海外の風景を見て、英語を母国語として話す方を観ました。
子供ながらに「うわ〜、かっこいい!こんな世界があるのか。」と興奮したのを今でも覚えています。

映画を観ることは多様な文化に触れられる機会なので、今の子供達にも映画を通して様々な世界を知り、色々なことを感じてもらえたらなと。そして、欲を言えば家ではなくできれば、映画館で観てほしいですね。テレビや配信サービスも手軽で、もちろんいいのですが、迫力や臨場感、没入感は映画館でしか味わえないものですから。映画館で映画を観る、その経験から生まれるものを大切にしてほしいなと思っています。

ーそのために、今後どのような映画館であるべきだと考えますか。

ここに、映画館としてあり続けること。それに尽きるなと思います。

もちろん「抱っこdeシネマ」などの企画も大切です。でもコロナ禍でお客様をお呼びできない時期を経験したからこそ感じるのは、ここにあり続けることで文化を絶やさないことが一番の使命ということ。皆様がいつでもふらっと寄れる場所として、何年、何十年とこの場所に「ユナイテッド・シネマとしまえん」として、あり続けることを目指していきたいです。

地域に愛されつづける圧倒的な存在の背中を追いかけて。

ー地域に根付き愛される映画館を目指したいと感じ始めた理由はありますか。

それは、「水と緑の遊園地 としまえん」(以下遊園地としまえん)の閉園時の姿に魅了されたことです。遊園地としまえんとユナイテッド・シネマとしまえんは隣に位置し、私たちはオープン以来16年間、この地で地域の皆様に愛され続けている大先輩として遊園地としまえんの背中をずっと追いかけてきました。

その中での閉園発表。1926年より94年間営業を続けられたこと、そしてこの地を共に盛り上げてきた盟友(おこがましいですが、ここではあえてそう言わせてください)への敬意と感謝の気持ちを込めてなにかできないかと企画したのが、2019年5月に公開された映画「としまえん」の再上映でした。

ー具体的にどのような取り組みだったのでしょうか。

閉園に向けてのカウントダウン上映と銘打ち、11日間の限定上映を行いました。
ただ再上映するのではなく、お祭りとして最後を盛り上げられたらと思い、特別価格のチケットや、特典として先着50名様に台本ノートをプレゼントするなど、さまざまな企画をご用意しました。

その中でも特に好評だったのが「上映後の花火」です。
遊園地としまえんでは、毎日閉園間際の20時になると花火が上がっていたので、その時間から逆算して上映が終わってお客様が外に出るタイミングで花火が上がるように映画の上映開始時間を設定しました。
  
この花火に予想以上に反響があり、連日SNSには映画館から見える花火の写真と合わせて遊園地としまえんへの想いが多く投稿されていました。

また上映には老若男女多くの方がご来場くださり、さらに繰り返し見に来られる方も多く、劇場は毎回満席に。皆さんの遊園地としまえんへの愛を感じるのと同時に、私たちユナイテッド・シネマとしまえんも地域の皆様に親しみを感じていただける場所であり続けることへの意義を強く感じました。

 今後もまだ先の見えない状況は続くでしょう。その中で私達にできることは安心して映画を楽しめる場所を提供し続けることだと思います。長期休業明けに地域の皆様が温かく迎えてくれたあの日の感動を忘れずに、これからもこの地で「遊園地としまえん」のように何十年も愛される場所としてあり続けることが今の目標です。