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ズームかドリーか

映画において、被写体を大きく見せていく方法として、ズーム・インとドリー・インがある。被写体が段々小さくなるのが、ズーム・アウト、ドリー・アウトである。

このズームとドリーは、映画において多く用いられる方法で、それぞれ特徴や効果がある。

今回、このズームとドリーの違いを見ていく。

ズームとドリーの違い

例えば、人物の背景に木が並んでいる、以下のようなシーンがあったとする。

これを、ズーム・インしていくと、以下のようになる。

ズーム・インでの見え方

今度は、ドリー・インしていく。

ドリー・インでの見え方

ズーム・インもドリー・インも、人物は大きくなっていくが、背景に違いがある。

ズーム・インの場合、画面に映る範囲が狭くなり、また、背景の木が人物に迫ってくるような画面になっていく。ドリー・インでは、人物が大きくなっていくが、背景の木との距離感は一定である。

なぜ、このような違いが出るのか?ズームとドリーの撮影方法を見ていく。

ズームとドリーの撮影方法

ズーム・インの撮影

ズーム・インの撮影は、以下のようになる。

ズーム・インの撮影

ズーム・インでは、カメラの場所は動かさない。その代わり、カメラの画角を変える(図の緑色範囲から青色範囲へ変更していく)。

これは、見える角度が広角から望遠に変わっていくことを意味する。広角レンズと望遠レンズについては、黒澤明とキューブリックを例に以下の記事に書いた。

黒澤明の映画では、背景が人物に迫ってくるような迫力ある画面が特徴と書いた。つまり、ズーム・インは、同一シーンで、キューブリック風画面から黒澤明風画面へ変わっていくことになる。

このように、ズーム・インは、広角から望遠への変更という特殊な方法のため、普段、人が目にすることがない不自然な見え方となる。

ドリー・インの撮影

続いて、ドリー・インの撮影は、以下のようになる。

ドリー・インの撮影

カメラを被写体に近づけていく。そうすると、画面内で被写体は大きくなっていく。この場合、カメラの画角(図の緑色範囲)は同じである。そのため、被写体と背景の距離感も一定となる。

ドリー(dolly)とは台車のことで、映画撮影時、レールを敷きその上でカメラを動かすことから、ドリー・ショットと名付けられている。

これは、デジカメやスマホで写真を撮る際、被写体を大きく映そうとして、被写体に近づくのと同じである。即ち、ドリー・インは、普段人が目にするのと同じ自然な見え方である。

ズームとドリーの効果

このように、ズームとドリーは、被写体を大きく/小さくという似た表現方法だが、撮影方法や効果に違いがある。

そのため、映画において、このズームとドリーは使い分けられている。

それぞれの特徴と効果は、以下のようになる(意図的にセオリーと異なる方法で撮影されることもあるが、基本的な考えとして)。

ズームの特徴と効果
・被写体と背景(前景も)の距離感が変わる
・違和感を感じさせる
・事件の核心など、インパクトを表現
・人物の特殊な心理状況を表す(突然の恐怖、不安など)

ドリーの特徴と効果
・被写体と背景(前景も)の距離感が一定
・立体感が伝わりやすい
・注視やディティールの表現
・人物の心理状況の変化を表す(決意、感動、失望など)

ズームは普段目にすることのない見え方である。ドリーは、普段から目にしている見え方である。そのため、大雑把に言ってしまうと、非日常的な印象を与えたい時はズームで、日常的もしくは日常の延長にある感動・失望はドリーとなる。

また、ズームの非日常的で不自然な見え方というのは、観客にカメラの存在を意識させることでもある。

ホラー映画の巨匠マリオ・バーヴァは、恐怖シーンで、カメラが主役のようにわかりやすくズームを多用する。タランティーノが得意とするのは、高速で被写体をズームする、クラッシュズームと呼ばれる手法である。

これらマリオ・バーヴァ、タランティーノの手法は、両方とも、カメラの存在を観客に意識させる。しかし、それによって与える印象は、不安や恐怖であったり、レトロな雰囲気であったりと異なってくる。

このように、ズームとドリーは、様々な効果を与える演出として、映画内で多く用いられている。その違いを意識して映画を観ると、作り手の意図を感じたり、普段と違った気づきを得られるかもしれない。

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