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【徒然メモ】ビッグモーター処分理由を読む

※BMの処分理由を読んで思ったことをつらつらと書いているだけです。
処分理由中の黒字は個人的に気になった箇所です。

保険業法第305条第1項の規定に基づく立入検査において認められたBMグループにおける以下の状況は、保険業法第307条第1項第3号に規定する「この法律又はこの法律に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき」及び「その他保険募集に関し著しく不適当な行為をしたと認められるとき」に該当するものと認められる。

https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/pagekt_cnt_20231120001.html

【保険業法307条1項】
内閣総理大臣は、特定保険募集人又は保険仲立人が次の各号のいずれかに該当するときは、第276条若しくは第286条の登録を取り消し、又は6月以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。 この法律又はこの法律に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき、その他保険募集に関し著しく不適当な行為をしたと認められるとき。

(1)経営管理態勢(ガバナンス)
 株式会社ビッグモーター(以下、「BM」という。)は、株式会社ビーエムホールディングス及び株式会社ビーエムハナテンを子会社として有しているが、両社は役員が社長1名のみであり、本社組織も有していないことから、業務執行の意思決定は実質上BMの取締役会が担うなど、BMが両社を含めたBMグループを運営している。
 こうした中、BMは、会社法に定める取締役会設置会社かつ大会社に区分される株式会社として、会社法の規定に即して定款及び社内規程を策定の上、取締役会が業務執行方針を決定し、代表取締役社長ほか取締役等が業務を執行する経営管理態勢としている。
 しかしながら、BMは、実質上、創業者である前代表取締役社長及び前取締役副社長(以下、「前社長・前副社長」という。)のオーナー会社であることから、取締役の役割や権限が明確化されておらず、業務執行の決定や承認は実質上、前社長・前副社長による非公式な役員間協議等を通じて行われてきた。
 このような経営実態の中にあって、前社長・前副社長は、会社経営には利益の拡大が最重要であるとの信念及び自己の思うとおりに経営したいという意欲が過剰であったことから、法令等遵守態勢をはじめ、大会社であれば当然に整備すべき経営管理態勢の構築を怠った。また、社内規程等が存在するにもかかわらず、自らが中心となって策定した「経営計画書」により、社員の行動や実務レベルの業務運営を直接「統制」する経営を進めてきた。
 このため、BMの経営管理態勢は、以下のとおり、会社法が求める機能を発揮しているとは認められない実態にある。また、取締役会、代表取締役、取締役及び監査役(以下、「取締役会等」という。)は、適切な保険募集管理体制の前提でもある経営管理態勢を正常化させるための取組みを怠っている。
・ 会社法において、取締役会設置会社の取締役は業務執行状況を3か月に1回以上、取締役会に報告することが規定されているにもかかわらず、平成28年10月から令和5年7月までの約7年間、令和2年12月の1回を除き、取締役会が開催された事実は確認できず、会社法等に定める各種の決議も行われていない。
・ 取締役会は、法令等遵守に責任を負う役員の選任、所管部署の設置等の法令等に適合することを確保するための体制を整備していないほか、内部統制の妥当性・有効性等を検証・評価する内部監査部門も設置していないなど、業務の適正を確保するために会社法及び法務省令において規定されている内部統制システムの整備を行っていない。また、会社法や定款の規定に反して、組織再編により登記申請上必要となる場合を除き、決算公告を行っていない。
・ 取締役会は、社内規程において、経営会議等を設置し経営管理全般に関する業務の協議等を行うと規定しているが、これらの会議体は少なくとも令和2年度以降、開催された事実が確認できない。また、社内規程について法令や経営方針等の変化に応じて見直す体制を構築していないため、経営管理等の重要な規程が、平成27年9月以降改定されないまま放置され、形骸化している。
・ 監査役は、会社法において求められる会計監査及び業務監査について、少なくとも令和2年度以降、会計監査を実施しておらず、意見交換等を通じて取締役の職務執行を確認するなどの業務監査も行っていない。

・ 代表取締役社長は、「経営計画書」において、苦情対応について「スピード感をもって苦情対応すること」や「どんな小さな苦情でも社長に報告すること」等を規定しているにもかかわらず、苦情管理担当役員や統括部署の設置、管理規程等の策定等の体制整備を怠っている。このため、受け付けた苦情の全貌が把握できないうえ、苦情管理や対応の状況を確認することができない実態にある。

 また、BMグループでは、前社長・前副社長が社内に醸成したいびつな価値観やそれに基づく評価制度・給与体系等を受け入れられない多くの社員が毎年大量に退職する一方で、店舗網の拡大により要員拡充が必要であったことから、毎年、大量の社員を採用せざるをえない状況にあった。
 したがって、BMグループでは、大量に採用した社員に対して保険販売を含めた業務の体系的・統一的な質の高い教育・研修を行う必要があったが、習熟度の高い人材を育成することが極めて困難な実態にあった。

 しかしながら、取締役会等は対策を講じていない。

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①内部監査制度や苦情処理部門を置いていないからPDCAを回せないし回す気もない、
②異常な企業風土を理由に大量採用・大量離職が繰り返されるため、人材育成を行い募集のノウハウ集積を図ることができていない
という点が、体制整備の観点からはかなり致命的。

(2)適正な保険募集を確保するための体制整備
 BMグループの保険募集及び保険管理業務を所管する保険部は、平成28年5月に施行された改正保険業法において、顧客に対する情報提供義務、意向把握・確認義務及び保険募集人の体制整備義務等が導入されたことに伴い、平成29年より保険募集人に対する教育・指導及びモニタリング等の「品質向上取組」を開始した。
 また、代表取締役、取締役、監査役等の経営陣(以下、「経営陣」という。)は、「品質向上取組」に必要な人的リソースを確保するため、保険会社からの出向者の受入れを大幅に拡大し、保険部や各店舗に配置して保険募集品質の向上に向けた指導・支援、モニタリング業務及び苦情分析等を行わせることとしたほか、保険部への自社人員の配置も増やすなど増強を図った。
 しかしながら、経営陣は、令和2年以降の新型コロナウィルスの感染拡大等の影響により、中古車販売台数が大幅に減少したことを契機として、主に前取締役副社長の指示の下、収益を生まない事業や取組みの徹底的な排除や人的リソースの見直しを行うなど、利益至上主義の経営に舵を切り、保険募集業務においても営業推進に注力した。
 一方で、以下のとおり、けん制機能等の収益を生まない事業や取組みを軽視し、適正な保険募集を確保するための体制整備義務を放棄しており、かかる実態は保険業法第294条の3第1項(体制整備義務)に違反するものと認められる。
・ 経営陣は、令和2年6月、苦情対応コールセンター事業を前取締役副社長の「コストに見合った利益を生まない事業」との判断により廃止し、さらに同年7月、保険部による各店舗への指導・教育等の取組を中止した。また、保険会社からの出向者を含む廃止事業等の要員を各店舗の営業支援等に振り分けた結果、保険部は、令和2年9月には23名体制から12名体制となり、募集人の指導・教育等の必要最小限の管理体制の維持に必要なリソースやスキルを失った。
・ 令和2年10月、上記の経緯を背景に「品質向上取組」を主導してきた保険部長が辞職した際に、経営陣がコスト削減のため後任者の配置を行わなかったことなどから同取組が停止した。また、経営陣が営業本部の部長を事実上の保険部責任者としたことにより、保険部による営業部門へのけん制機能が不全となった。
・ さらに経営陣は、令和3年2月、コストに見合う効果を得られていないとして、各店舗内で保険募集の管理・指導を行う保険推進委員も廃止したため、BMグループでは組織的な募集人への教育・管理・指導が行われない状況となった。
・ なお、保険募集に関する内部監査については、「組織規程」上、営業部門から独立した内部監査室が実施すると規定しているが、同室は実際には設置されておらず、同室による内部監査も行われていない。

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募集人の教育・管理・指導体制がボロボロという指摘。
このあたりの事実認定は、この後に控える損保会社への処分の布石か?

立入検査において、BMグループにおける保険募集の実態等を検証したところ、以下のとおり、保険業法第300条第1項各号に抵触する事例や保険業法に照らして不適切な事例が多数認められている。
・ 保険募集システムにおいて、極めて短時間に契約締結手続き等を行ったことが記録されている契約148件を抽出して確認したところ、122件について、募集人が網羅的な重要事項の説明を行っていない実態が認められたほか、実地調査において重要事項説明書を交付していない募集人等も認められるなど、保険業法第300条第1項第1号に反する募集行為が常態化している蓋然性が高い。
・ 他社からBMグループで販売する保険に乗り換えた契約を担当した募集人1,079人に確認したところ、延べ9名の募集人において、保険加入を条件に車両価格を値引くなど、保険業法第300条第1項第5号で禁止する特別利益の提供を行っている旨の回答等が認められた。
・ 立入検査において、経営陣より、募集人や下請業者にBMグループで保険加入させるよう指示等が行われている実態が判明したことを踏まえ、募集人の保険契約88件を抽出し確認したところ、店長等から圧力を受け加入させられたなど、不適切な募集行為が行われていた契約14件が認められた。また、下請業者の保険契約149件を抽出しBMに確認を求めたところ、121件について圧力による保険加入と判断されるなど、下請業者に対しても不適切な募集行為が行われていたと認められた。

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「うちで保険加入してくれたら車両料金割引ますよ」はかなり強い誘因と考えられる。車両の任意保険は事故に備えて入る人多いし。

圧力募集は、生保募集だと規則234条1項2号後段事由で禁止だが、損保募集人だと指針で不適切行為として挙げられている。

【保険会社向けの監督指針Ⅱー4-2-2⑾②】
・ 損害保険会社又は損害保険募集人については、規則第234条第1項第2号の規定の趣旨を踏まえ、以下に掲げる行為等を行っていないか。
ア. 顧客に対し、威圧的な態度や乱暴な言葉等をもって著しく困惑させること。
イ. 勧誘に対する拒絶の意思を明らかにした顧客に対し、その業務若しくは生活の平穏を害するような時間帯に執拗に訪問し又は電話をかける等の社会的批判を招くような方法により保険募集を行うこと。

https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/ins/02d.html

損保募集で通常募集人が気を遣い、また、それをさせないように組織的に管理すべきものについて、組織全体として踏み抜いているというのは厳しい処分を受けても仕方ない感がある。

 なお、これらのBMグループにおける不適切な事象の根本原因は、(1)で述べた経営管理態勢の重大な欠陥・問題を背景として、自己の収入を増やすあるいは高い給与水準を維持するという「動機」、利益拡大を過度に重視する経営姿勢により、利益を上げるためには不正も許容されるという誤った認識を「正当化」させかねないいびつな組織風土、及び社内外の不正・不備を検知・検証する態勢の機能不全により、不正行為を実行する「機会」が存在したことにあると考えられる。
 したがって、BMグループは、過去の成功体験に基づく利益優先の会社運営やカリスマ的な経営者を前提とした独裁的な個人経営から脱却し、法令等を遵守し、顧客を含めた幅広いステークホルダーの期待に応える会社となるために、経営管理態勢と人材育成を根本から作り直す必要がある。その上で、適切な経営管理態勢と質の高い人材のもと、法令を遵守し、かつ顧客本位の業務運営を徹底的に志向する保険募集管理体制を構築した保険代理店に生まれ変わるべきであるが、一連の保険金不正請求を端緒とする保険会社出向者の引上げにより、体制整備に必要な知識を有する人的リソースを喪失したことに加え、本年11月30日までに全ての保険会社が代理店委託契約を解約する方針であるなど、体制を整備するための保険会社からの支援も期待できず、再建への道筋は極めて困難である。

https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/pagekt_cnt_20231120001.html

「動機」「機会」「正当化」は不正のトライアングルですね。

【不正のトライアングル】
不正行為は、以下の3つがすべて揃ったときに発生する
①動機(不正行為の実行に駆り立てる主観的事情)
②機会(不正行為を容易にさせる客観的事情)
③正当化(不正行為を積極的に是認しようとする主観的事情)


【雑感】
代理店登録を一発取消しするということもあり、かなり厚めに処分理由が説明されている。

保険募集は「保険」という公共性の高いサービスに携わるので、通常の事業会社よりも一段高いガバナンス意識や体制整備が求められる。それにもかかわらず、BMは(「大会社」でもあるのに)通常の事業会社としてのガバナンスすら備わっていなかった。募集人の禁止行為もトップが率先して行っており、体制再構築に必要な大手社によるバックアップも望めなくては、一発取消しもやむなしか……という印象を受けた。
代理店監督は今以上に厳しく見られることになるかなあ。


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