キーワードで振り返るウクライナ侵攻の一年

 どうも、黒田です。個人的にウクライナ侵攻について、簡単に振り返るまとめを作ることになったので、ここでも公開します。本当は、私よりも詳しい方に書いてほしい記事なんですが、探しても書いてそうな方がいなかったので、僭越ながら書かせていただきました。浅学ゆえ、なにか不適切なことがありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

 まず初めに、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して、一年が経過しました。この侵攻に関して、どういった呼称をすべきなのかについて、「因幡のよっちゃん」こと稲葉義泰氏が書かれている文章を参照して、少し考えてみましょう。

 要点は次の三点でしょう。
・「ウクライナ戦争」と呼ぶには、宣戦布告が曖昧であり、法的意味とは異なってしまうため、相応しいとは言い難い。
・「ウクライナ侵略」と呼ぶこと自体は、法的評価を踏まえている呼び方として、使われている表現である。
・「ウクライナ侵攻」と呼ぶことは、「侵略」であるかという法的評価から逸れて、攻撃が起きていることを指す表現である。
 結論としては、呼び方からむしろ話者・筆者の立場を推し量り得る指標であると言えます。

 私は、ロシアによるウクライナ侵攻という表現を基本的に用います。
 それを踏まえ、キーワードについて簡単に並べて、ウクライナ侵攻の一年を振り返りたいと思います。地名については、参照した報道・記事に合わせていますので、混在しています。

「私たちもここにいる」

 ウクライナ侵攻開始直後、ゼレンスキー大統領が発信した「私たちもここにいる」というメッセージはウクライナの人々だけでなく、世界に強く印象を残しました。
 ロシアによる攻撃が開始された直後、ゼレンスキー大統領に命の危険があるとして、アメリカは亡命を打診したにも関わらず、それを蹴って、ウクライナのキーウに残り、偽情報に対抗するために情報を自らも発信し続けました。


「キエフの幽霊」

 ウクライナ侵攻開始直後に、話題になったのが「キエフの幽霊」です。開始直後であり、この時はロシア語読みの「キエフ」を使っているところも、当時と現在の違いを感じるポイントです。
 これはいわゆる戦場の都市伝説ですが、侵攻直後のウクライナの人々を勇気づけた伝説です。
 開始直後の30時間内にロシアのSU-35 戦闘機 2 機、SU-27戦闘機 1 機、MiG-29戦闘機 1 機、SU-25攻撃機 2 機を少なくとも撃墜したという報道が出ていました。
 4月になり、ウクライナ空軍は「キエフの幽霊」が架空の存在であり、ウクライナ空軍の成果であったということが公開されました。
 日本人が書いた「キエフの幽霊」に関する漫画は、ウクライナで売られたようで、「キエフの幽霊」はウクライナ侵攻を通して、ウクライナの人々を勇気づける存在であり続けるでしょう。


「聖ジャベリン」

 次も、侵攻開始直後に話題になったものです。
 これは、アメリカからウクライナに供与された対戦車ミサイルである「FGM-148 ジャベリン」のことです。
 なぜジャベリンが神聖視されているのかと言えば、このジャベリンは個人が携行できて、ロシア軍の戦車を撃破できる兵器であり、実際に侵攻開始直後から数多くのロシア軍戦車を撃破してきたからです。
 下の記事にあるように、ウクライナ人の不屈の精神を象徴するシンボルとしてジャベリンは見られ、ウクライナの人々に強烈な印象をもたらす兵器となりました。


「何しに来たの!?」と問うウクライナ女性

 キーワードとしていいのか迷いましたが、これもまた、ロシアによるウクライナ侵攻開始直後に報道され、話題になった映像です。ウクライナの女性が、ロシア兵に対し「何しに来たの!?」と詰問し、ヒマワリの種を押し付ける映像です。
 女性は「あなたが死んだときに、そこからヒマワリが咲くように」とヒマワリの種を押し付けようとするのに対し、ロシア兵は「話をしてもどうにもならない」、「事態が悪くならないようにしよう」と冷静に、少し困惑しているようにも思える対応をしている様子は、かなり印象に残る映像です。


「アゾフ大隊(アゾフ連隊)」

 侵攻後、激戦が繰り広げられた地として有名になったのが、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所です。そして、そこでロシア軍と激戦を繰り広げたのが、アゾフ大隊です。改組されて、アゾフ連隊になりました。
 アゾフ大隊は元々、サッカーファンの集まりでしたが、2014年のウクライナ騒乱以後、パラミリタリ化し、ウクライナ政府はアゾフ大隊を管理するために、内務省の警察に組み込み、後には国家親衛隊に組み込まれました。
 アゾフ大隊はナチスの影響を受けた紋章を使っている他、人種差別を含んだ過激右翼の思想が組織の中にあるなど、非常に問題を抱えた組織であると言えます。
 彼らは、マリウポリ包囲の中で、アゾフスタリ製鉄所に立てこもり、5月まで戦い続けた英雄とみなされる他方、それまでの振る舞いを踏まえ、注視しなければならない存在です。


「ウクライナの河童、ヴォジャノーイ」

 6月のはじめ、ロシア軍がウクライナ東部ルガンスク州にあるドネツ川の渡河作戦に失敗し、1個大隊戦術群(BTG)相当の戦力を失った旨をイギリス国防省が公表しました。
 これを受けて、ドネツ川の精霊であるヴォジャノーイがウクライナ軍に協力したのではないかという話がSNS上で話題になり、ヴォジャノーイが日本の河童と共通点があることから、ドネツ川の河童がロシア軍を襲ったと日本人の間でもSNS上で話題になりました。


「オデッサ港封鎖」

 チェルノーゼムという肥沃な土壌が、ウクライナ地域に広がっていることは、聞いたことがある方も多いと思います。ウクライナは(ロシアもですが)小麦輸出大国です。
 ロシアによるウクライナ侵攻と共に、ウクライナの主要貿易港であるオデッサ港を含め、黒海の船舶の航行がロシア海軍によって制限されてしまいました。
 黒海の航行制限に関しては、石井由梨佳氏が経団連に寄稿した記事が詳しいため、詳細はそちらを読んでいただきたい。
 この状況に、世界の食料支援を担う国連の世界食糧計画(WFP)は世界的な食料危機に影響を及ぼすとして、警鐘を鳴らしました。

 ウクライナ軍の反撃によって、ロシア海軍はかなり傷ついてしまい、完全な封鎖は難しい状況になり、トルコの仲介を経て、一応の封鎖解除となりましたが、未だ完全な安全が確保されているとは言い難い情勢が続いています。


「チェルノブイリ原発」

 1986年に発生したチェルノブイリ原発事故について、その悲惨さは私が語るには余りありますが、史上最悪規模の原子力事故は現在までも、爪痕を残しています。
 ロシアによるウクライナ侵攻直後から、チェルノブイリ原発周辺にロシア軍が展開し、選挙したという報道があり、戦車等で通過したことなどの軍事行動によるとみられる土埃によって放射線の数値が高くなったことが観測されました。

 結果、四月には周辺からロシア軍が撤退し、ロシア兵に被爆者が出たのではないかという報道がなされました。
 放射能が如何に恐ろしいかということを理解するとともに、日本にとってはヒロシマ・ナガサキに加え、福島原発事故の経験がある以上、ロシア軍の恐ろしい行動について、きちんと脅威を認識し、批判できる土壌があるはずです。


「ザポリージャ原発」

 2022年3月、チェルノブイリ原発周辺が話題になってからすぐに、さらなる原子力関係のニュースが報道されました。ヨーロッパ最大規模であるザポリージャ原発をロシア軍が占拠したという報道です。
 しかも、ザポリージャ原発を巡り、両軍が周辺での戦闘を継続し、ロシア軍占拠後も、ザポリージャ原発が損傷するリスクが常に付きまといました。
 IAEAは差し迫った脅威では無いとしつつも、事態が動けばどうなるかわからないという慎重な態度をとり、国連のグテーレス事務総長も原発周辺での戦闘行動について双方に自制を求める声明出すなど、働きかけました。


「HIMARS(ハイマース)」

 HIMARSは高機動ロケット砲システム(High Mobility Artillery Rocket System)の略称です。アメリカ陸軍が開発した装輪式多連装ロケット砲で、長距離の砲撃を目的とした兵器です。
 現在まで、ロシア軍によってHIMARSが撃破されたという報告はなく、高機動性が生存性を高めていると思われています。
 6月に供与されて以来、ロシア軍の銃後の重要施設や拠点を脅かす存在であり、かつ撃破しづらい兵器として、ウクライナ軍の反撃の心強い味方になっています。
 HIMARSの簡単な説明については稲葉義泰氏の記事があるのでそちらを参照してください。


「ノルドストリーム爆破」

 2022年9月26日、ロシアからヨーロッパに天然ガスを供給するパイプラインである「ノルド・ストリーム1」及び「ノルド・ストリーム2」が爆発し、損壊しました。
 爆破薬を使用した破壊工作であるという見方が有力視されており、それが誰の手によるものなのかが、争点となっています。
 「ノルド・ストリーム」を破壊されたロシアは、破壊行為の真相解明を求めている。ピューリッツァー賞を受賞しているアメリカの記者のハーシュ氏のブログにてアメリカによる破壊工作という記事がブログに掲載されたことにも言及している。なお、アメリカはこれを否定している。

 なお、天然ガスについて振り返っておきたいこととして、「ノルド・ストリーム爆破」以前から、ヨーロッパへのロシア産の天然ガスの供給が減少していたことを受けて、ドイツなど一部のヨーロッパ諸国が、石炭火力の再稼働や稼働期間の延長を決めていたことである。
 ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシアとヨーロッパ諸国の間で天然ガスの取引などをはじめとする経済的な結びつきがあった中で、勃発したこと。そして、ヨーロッパが脱石炭を掲げる中で、世界情勢によって課題に直面したことも振り返っておきたい。


「レオパルト2戦車」

 2023年に入りドイツが、ヨーロッパで多くの国に採用されている第3世代MBT(主力戦車)であるレオパルト2をウクライナに供与することが報道されました。
 レオパルト2は、西ドイツが1979年に運用を開始した戦車で、当時はソ連が保有する大量の戦車に対抗して配備されていましたが、東西ドイツ統一後にその必要性が薄れたため、ヨーロッパ各国に輸出された背景があります。
 ロシア軍がウクライナ軍によって戦車を大量に破壊されてもなお、未だ戦車を戦線に配備できているのは、ソ連時代から続くストックが豊富であるからという点が大きいと言われています。
 ロシアが反ナチを掲げてウクライナに侵攻しているため、ドイツはナチス時代の反省から、ウクライナへの武器供与には消極的でした。しかし、欧米諸国の圧力もあり、遂にレオパルト2をウクライナへ供与することを決意しました。
 現時点では、実戦に参加するまではまだ先と見られていますが、ウクライナ兵がレオパルト2を使った訓練をすでに始めています。


「バイデン大統領 ウクライナ電撃訪問」

 2023年2月21日、アメリカのバイデン大統領がポーランドからウクライナに電撃訪問したというニュースが流れました。
 徹底した情報管理の下、ウクライナ首都のキーウに入り、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、五時間後にはキーウを離れ、ポーランドに向かいました。
 バイデン大統領による電撃訪問は、アメリカがウクライナをこれからも支援するというメッセージを強く示し、世界に衝撃を与えました。

 

 この記事を書いている間にも、色々なことを思い出してきて、更に書き加えよう、書き加えよう、としていたら、キリが無くなりそうになったので、このくらいでとどめておきます。

 改めて、ロシアによるウクライナ侵攻という事件が起きて、一年が過ぎ、様々なことがあったことに気づかされ、様々な思いが湧いてきて、筆舌に尽くしがたいです。

 これからのウクライナ情勢がどうなるのか、わからないことだらけですが、この時代を生きるものとして、それについて考え、見届けていきたいと思います。

[2023/03/07]

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