硬貨の使い道 15

宮部さんはすでに僕から少し離れた場所にいた。
「私のことが大切?そんなわけないでしょ。幼なじみで恋人の私を愛人にしたのに?首を絞めた行為なんて一度もされなかったのに?ふざけないでよ。」
と宮部さんは泣きながら僕にそう訴えた。ただそう反応するのは当然のことだと思った。普通に考えたらそうだ、でもあの人は、宮部さんに恋をして、愛情と狂気に苦しんでいるただの人だ。僕と同じように自分で自分を抑えられなかったんだ。
「あの人は宮部さんには一度も危ない行為はしなかったじゃない。人殺しの彼女という汚名を被せなかった。結局警察の事情聴取は宮部さんの元まで来たみたいだけど、あの人はそれを避けようとした。僕はそう思うよ。だから宮部さん一度あの人に会いに行こうよ。もし可能ならだけど僕も着いて行くから。」
と僕は宮部さんに伝えた。
 (やっと伝えることが出来た。)
素直にそう思った。ただ今の宮部さんはそれを受け止めることは出来なかったみたいだ。
「なんでよ。なんであなたにそこまで・・」
宮部さんはそこまで言うと急いで鞄を取り、足早に扉から出ていった。その時僕はベッドから動けなかった。追いかけるべきというのは分かっていた。ただ頭でそう分かってても、心は解ってくれなかった。
(僕がやっているのは余計なお世話。所詮他人。)
その考えが僕に追いかける意欲をなくさせた。そこから何日経っても宮部さんを大学で見かけることは無かった。でも誰も騒いではいなかった。毎日いるのが当たり前ではない。という高校とは違う大学のシステムに今回ばかりは恨みを覚えた。それから時間は過ぎていき僕は大学2年生に、宮部さんは退学していなければ大学4年生になっていた。僕は
(宮部さんはもういないんだろうな)
という諦めの気持ちに苛まれていた。ありきたりな表現を使うなら、時が止まったみたいそんな感じだ。しかし思わぬところから時は動き出す。僕はある人から手紙を受け取った。手紙を送ってくれたのは、かつて宮部さんがお世話になっていた人だったようだ。内容はすごくシンプルなものだった。要約すると
(会ってお話しできませんか?伝言を預かってます。)
というものだった。