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青木古書店の不思議な一日 その1

はからずも咲の物となったダイアモンドのブルーマグノリアを競売に掛けてから半年後、咲は長谷川と共同で探偵事務所を開いた。あの宝石は開業資金とあしなが育英基金への寄付金ですっかり片付いたので、これからは依頼料と成功報酬で収入を確保しなくてはならない。とは言ってもいきなり依頼が舞い込むはずもなく、しばらくは長谷川ルートでの地道な営業が主な業務となるだろう。つまり当面は赤字が続くことになる。

長谷川は警察省キャリアとして殺人課に所属していた経歴を活かして迷宮入りが懸念されるような刑事事件の調査を専門にする探偵事務所を開いたのだ。そして自分が担当したブルーマグノリア事件の当事者で協力して事件を解決に導いた咲に共同経営者にならないかと声を掛けた。もちろん咲は即答し開業資金も提供した。長谷川は母親の遺産を資金に充てた。

「警察がお手上げの事件ってそうは表に出て来ないから気長に行こうとは思ってるけど、やっぱりちょっと不安にはなるわ。これから全く仕事がないまま何ヶ月も過ぎて行くのかとか考えちゃったり。」

「確かに最初はそう思うものだよ。でも意外とニーズはあるはずだからこんな仕事をやろうって決めたんだし、まあ少し様子を見よう。」

「そうね。じゃあ依頼が舞い込むまでの間、あなたが担当した変わった事件の話でも聞かせてくれる。」

「そうだなあ。ブルーマグノリアを超えるような事件はそうはないけど。でもやっぱりあの事件だな。証拠が高価っていうところも似通ってるし。」

「また宝石とか。」

「いや、古本。」

「希少本って言うんじゃないかしら。」

「それが本自体には価値は無かったんだよ。ところがね。」

長谷川が語り始めたのは今から5年ほど前の事件だった。

続く

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