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青木古書店の不思議な一日 その5

「犯人を誘き出すってことですか。そんなに易々とやって来るでしょうか。」

「来ると思いますよ。欲しいものを手に入れるためには人さえ殺すような奴らですから。」

「奴らってことは。」

「私は複数犯と見ています。店の前をうろついていたのは三人でしたし。」

「そんなに大掛かりな犯行なんですか。一体何を狙っているんだか。」

「やはり残りの本が気になります。昨日届いた本を全て確認させてもらえますか。」

「分かりました。店に戻りましょうか。」

青木古書店は商店街の外れにあって普段から人通りは多くない。店の前には警官が張り付いていたが通りすがりの人々は特段気にかける様子もなかった。長谷川が警官に声を掛けて耳元で何やら囁くと、失礼しますと言って立ち去った。

「さて、始めますか。」

二人はレジの奥の控えの部屋でテーブルを挟んで向かい合わせに座り、目の前には29冊の本が積み上げられている。それぞれが一冊ずつ手に取って表裏とも表紙を確認し、一枚一枚ページをめくっていく。一冊終わったら次の本に手を伸ばして同じ動作を繰り返していった。10冊ずつ確認し終えた頃には二人とも目がチカチカしてきて疲労の色が濃くなった。

「少し休憩しましょう。」

青木は長谷川の言葉にほっとしながら席を立ってお茶の用意を始めた。

「インスタントコーヒーしかありませんが良いですか。ああ、砂糖もないんだった。」

「ありがとうございます。そのままで結構です。」

二人は無言でコーヒーをすすっていたが、やがて青木が口を開いた。

「そういえば納品書どこにやったっけ。ああ、鞄の中だな。」

「お一人で全てやられるのは大変でしょうね。」

「店頭販売は大して手間ではないんですが、もろもろの雑用は時間が掛かりますね。店を閉めて家に帰った後、事務作業を片付けることが多いです。」

青木は話しながら鞄に手を入れて封筒を探し出すと中に手を入れて納品書を引き出した。その時だった。

「あれ、何か入ってるな。」

テーブルの上で封筒を逆さまにして振ると小さな透明な袋が落ちてきた。中には印紙のような紙切れが入っているが随分と古ぼけて見える。

「何だろう。」

「切手のようですね。それもかなり古い。」

「何でこんなものが。」

「ちょっと見せてください。」

「もしかしてこれが狙いでしょうか。」

「そうかもしれません。どんな切手か調べてみます。」


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