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どこでも眠れる時がある。

 アスファルトの上に横たわって、自分を捨てて走り去った車の尻を見ていた。
 ああ、身体のそこら中が痛い。起き上がれそうに無いし、起き上がる気もしないほど頭がぼやける。ぼんやりとした頭で、「車の尻ってなんだよ」と考えた。もっと他に正しい名前があった気がするが、思い出せない。どうでもいいか。
 一応、車道ではなく歩道に捨てて行かれたようだ。とりあえずは車に轢かれる心配はないなと思うと、余計に立ち上がる気がなくなる。冷たいはずの地面を暖かく感じるくらいには、頭はしっかりしている。
「おい。あんたどうした?」
 知らない男が、大丈夫か、と膝をついてこっちを覗き込んで来た。
 とりあえずは、眉を少し持ち上げて返事をしてやった。もしかすると、頷いて口も動いていたかもしれない。わからない、それができれば上出来。
 何かが伝わった男は、「そうか、大丈夫か」と、次は辺りを見回している。
 男の側には、街路樹が見える。葉が落ちて、丸裸の枯れ木。……枯れ木? 落ち葉のことを枯れ葉というのは分かる。だけど、葉が落ちた木はなんて呼ぶんだろうか。別に枯れちゃいないよな? 
 この世はわからないことだらけだ。じゃあ、捨てられた人間はなんて呼ぶんだろう。わからない、なんでもいいか。
 ……本当か? なんでもいいのか?
 こんな風に知らない男に心配されて、終いにはさっきより少し安心しているのは何故だ。これを安心と呼んでいいのだろうか。わからない。さっぱり、わからないことだらけだ。

 ……何でもいいか。
 もう……、眠っちまいそうだ。


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