舞台『プロパガンダゲーム』終演
ごきげんよう、劇団5454の春陽です。
舞台『プロパガンダゲーム』が、8月28日に無事全公演を終えました。たくさんのご感想、応援、とても励みになりました。ご来場いただき、誠にありがとうございました。
ロングランとは言わないまでも、このご時世の中で3週間の公演というのは、小劇場界ではだいぶ長め。コロナの脅威はもちろん、途中台風の上陸もありながら、誰一人欠けることなく、一公演も中止することなく終えられたのは奇跡と言って過言ではありません。
そして、お客様の口コミもあって、後半は当日券も足りなくなるほどの満席続き。
どれほどの言葉を労しても感謝し足りませんが、本当にありがとうございます。
僕自身、原作モノの脚本・演出は初めての経験でした。
とても面白い小説で、大きなプレッシャーも感じながらも、執筆中から楽しい創作期間。それは、やはり原作者であられる根本聡一郎さんの寛大さによるもの。
原作の再現を意識はするものの、ただ小説を再現しても作品が持っているテーマやメッセージは伝わりません。僕が小説を読んで感じたことを脚本に落とし込むわけですが、その工程では当然アレンジが加わってしまうわけで、そんな変化を根本さんも楽しんでくださったことにとても助けられました。
原作モノが初めてなので常識はわかりませんが、そんな原作者さんはなかなかいないように思います。
この場を借りて、根本さんにも尊敬と感謝を。本当にお世話になりました。ありがとうございました。
根本さんの優しさに甘えて、ちょっと苦労した部分も吐露させてもらっちゃう。
キャラクターの造形などは、稽古場で俳優や演出助手と共にした苦労だったので、良い思い出なのだけど、執筆中の苦労はとても孤独で。
その中でも、序盤のゲーム説明シーンの描き方は結構悩みました。
当初の予定からお話すると、映像を使うこと前提で進んでおり、キャストも完全に別れた内容でした。相手チーム扇動や、映像資料はモニターに出てくるという仕様です。
つまり、冒頭のゲーム説明も全員で聞く状況に出来ないので、チーム分けのシーンを作らず、学生4人が訳もわからずチーム分けをされて、アジトor官邸でゲームの内容を聞くという作りです。もちろんこの時には、ゲーム後の後日談シーンはありません。
それから、舞台美術や企画の面白さなどを検討していくうちに、映像は一切排除して、キャスト全員が両サイドに出演することで、マンパワーでのアナログ表現を強行しました。顔合わせと本読みの日、誰かのマネージャーさんが2冊ある台本を不思議そうに眺めていたのが懐かしい。
両サイド共に全員が出演出来ることになったので、舞台でチーム分けのシーンを作れることになりました。
初稿では、上の画像のように原作通りのルール説明が行われていますが、石川と山野の台詞量がもうとんでもないことになっちゃって。笑
10分くらい、石川と山野の説明長台詞が続く苦行。
「これ、リピーターは絶対15分くらい遅刻して劇場来るぞ?」
おそらく全員が思ったことだと思います。
それを打破すべく、石川と山野からの説明はそこそこにして、さっさとチーム分けをして、学生たちがアジトと官邸それぞれで確認をし合う、というシーンに変わりました。
これにより、原作よりも事前説明の情報量が減ってしまい、ゲームの内容の細かなディティールが表現し切れていないのは申し訳なく思っていますが、「情報が取れなくて楽しめなかった」ということが無いように、舞台美術に文字や絵を並べて、視覚的にも情報を補完してもらいました。
後日談シーンが足されたのも、全員が両サイドに出演することになったおかげで作れたわけです。
劇団5454のアフタートークでは話しましたが、舞台美術の文字や絵、全部手書きなんですよ。仕込みの時、美術家の愛知さんが僕の側に寄ってきて、小さい声で「ミギテ、シンダヨ」とつぶやいてたの、怖かったなぁ。
でも、愛知さんの右手を犠牲にしたおかげで、とても素晴らしい舞台美術になりました。この斜めに傾いた壁もすごくなかったですか?
Twitterでどなたかが、「舞台が八百屋になってる」と言ってたんです。
八百屋っていうのは、床に傾斜をつけることなんですけど、床はちゃんと平面ですからね! 壁パネルを斜めに作ることで、奥行きを感じるように錯覚させてるだけなんです。
小さな空間を広く見せてくれたおかげで、アクリルパネルの奥エリアを使えて、チャットの表現や、相手チームの扇動、映像資料の再現などが出来たわけです。
こだわってくれたのは、美術家だけじゃありません。
照明の安永さん。音響の游也さん。舞台監督の北島さん。劇伴のShinichiro Ozawaさん。スタッフ皆さんの技術と愛があったからこその仕上がりです。
照明は、登場人物の心情描写を鮮やかに補佐してくれました。ほぼワンシチュエーションで進行する作品は、明かりを大きく変化させると違和感が出てしまうのです。そんな制限の中で、繊細に、時に大胆に、絶妙なバランス感覚を維持してくれています。
遊び心もある照明家さんで、終演後は「49:46:5」と「Don't Trust」を切り取ったりして。「この結果を信じるな」ってか。ひゅ〜。ニクい事やってくれるぜ。
音響は、本当に細かいこだわりだらけ。わかりやすいところだと、全体アナウンスの機械音声と、政府チームの扇動開始用の機械音声と、レジスタンスチームの扇動用の機械音声を変えてくれてました。これは、観客が無意識的になんのアナウンスなのかを判別することが出来ます。
あとは、広場でチャット台詞を出している最中は、パソコンのタイプ音を出してくれていたり。
きっと皆さんはキャストのチャット表現を楽しんでくださっていたと思うのですが、ひっそりと「これはチャット中ですよ」という説明音を流しているわけです。ちなみに、チャットシーンじゃ無い時に聞こえていたであろうタイプ音は、舞台奥でパレット市民の家を表現しているキャストたちの生音です。
ゲネかなんかで、ゆうのすけのタイプ音が大き過ぎて注意したことがあったっけ。
デカいのは体や声やだけじゃない男・松島勇之介。
あと、各チームの投稿を読み上げているシーンでは、タイプライターのタイプ音を流してくれています。扇動との違いを出したいけど、パソコンのタイプ音じゃチャットシーンを同じになっちゃう、という要望に応えてくださいました。
舞台監督は、キャストたちが安心・安全に芝居に臨めるよう、舞台裏の環境整備が重要な役目ですが、北島さんは類を見ない穏やかさです。この業界は、厳しくて恐い舞台監督さんも多いのですが、北島さんってホント凪。もちろん締めてくれる時もありますけど、言葉が丁寧だし、親切。
カンパニーが和気あいあいな雰囲気でいられたのは、北島さんの見えない仕事があってこそです。
あとは、チャットシーンで使用していたL字のスチレンボード(通称:トンファー)ですね。
稽古場では稽古出来なかったシーンなので、小屋入りしてから試行錯誤がありまして。北島さんがイソイソとトンファー作ってる姿を写真におさめておけばよかった。
劇伴については、劇場仕事ではないので、多分ほとんど話題に上がっていないと思うのですが、何度も打ち合わせを重ねて、時間をかけて作ってくれました。
会話劇と銘打っていた中で、どこまでエンタメ表現をするのか、匙加減が難しかったと思います。もっとBGMで済ますことも出来た中で、しっかりと心情に寄り添い、シーンを盛り上げる楽曲をたくさん作ってくれました。
あと、僕の演出の特徴として、「BGMの流し切り」という手法をよく使います。
演劇のBGMの使い方のほとんどは、長い音源をかけておいて、シーンの終わりで曲をフェードアウトさせます。それは、毎回芝居の尺が違うわけで、長く作っておかないと曲が足りない時が出てきてしまうから。
でも、僕とShinichiro Ozawaは、シーンピッタリに曲を作ります。何故なら、ピッタリハマった時の演出効果が大きいから。
もちろんハマらないこともあります。でも、だからといってそれが失敗にはなりません。演出意図とは違うタイミングで曲が終わることで、新しい発見があったりします。
演劇において何より重要なのは、再現性よりも一回性。観客全員に同じクオリティを見せたいと思うような、再現性を大事するのなら映画を作ればいい。その日、その回に起こる全てのことが尊いから演劇なんてものを好きでやり続けています。
役者はたまったもんじゃないと思いますけどね。ちょっと芝居がズレたら曲が余ったり、足りなかったりするわけですから。でも、長い公演だからこそ、舞台上で安心するのはよろしくなくて、綱渡りな緊張感を持ち続けてもらうのも演出的意図だったります。
そうそう。
今回、小劇場ということで、劇中で使う小道具の中身が観客から見える可能性が高かったので中身もちゃんと作っております。
説明資料なんかは、石川と山野の人事部二人が作るというこだわりぶり。
デザインが必要なものは、「取引のあるクリエイターさんに作っていただいておりますよ?」ということで、チラシやパンフデザインの横山が作ってくれました。
最後にプロデューサーの宮寺さんのこだわりもお伝えしなきゃ。
プロデューサーとして公演を仕切り、支えてくださったのはもちろんなのですが、小道具制作にも関わってくれたり、なんと言ってもガバメントサイドの最後のカフェシーンでYou & Iが食べていたチーズケーキ。あれ宮寺さんの手作りなんです。プロデューサー自らが消え物のケーキ作ってくるなんて聞いた事ねぇですよ。稽古場にもカップケーキ作って差し入れしてくれたりとかね。宮寺さんの座組みへの愛があったからこそ、みんな一丸となって創作出来たんだと思います。
本当にありがとうございました。
スタッフワークだけで随分と長いnoteになってしまいました。
キャストについても色々書きたかったのですが、それはまた。むしろ僕からじゃなくて、人事部としてずっと学生たちを見守っていた石川さんと山野さんから書いてもらおうかな。
もし他に何か気になることがありましたらぜひコメントください。お答えします。
さて、舞台『プロパガンダゲーム』が終演しましたが、配信公演は開催中です。
ご購入くださった皆様、本当にありがとうございます。最後まで、どうぞお楽しみください。
最後になりますが、
舞台『プロパガンダゲーム』は、新体制になった5454としての初仕事でもありました。外部公演ながら、劇団5454全員で参加させていただき、たくさんの学びと、演劇の喜びを得た作品です。
これからより一層活動の場を広げられるよう、劇団員一同精進していきます。
『プロパガンダゲーム』で成長した5454の向かう先は、11月の『ビギナー♀』です!
「青春」というテーマを、ベタに楽しんでもらいながら、新しい視点をご提供出来るように、掘り下げて参ります。
春陽漁介
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