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ふんわりと浮かんだ風景は、河川敷。

私はいまどこに生きているんだろう。
社会か。
それとも自分の内なのか。

憧れの風景、と聞かれたら
浮かぶのは夕焼け空と「河川敷」

ごくありふれた風景。でも、私はそんな風景を知らない。
夕焼けをバックにした河川敷は、ジュブナイル物のアニメ作品なんかによく登場する。
少し遠くに陸橋が立っていて、古めかしいフォルムの電車を迎え入れている。風が吹きすさび、武道館ライブのコンサートみたいにして草木がウェーブしていく。そんな会場の観客として、稲穂や花の代わりに頭髪をサラサラと揺らして、まるで河川敷の一部になったみたい。

風は私の中を吹き抜けて、川べりに到達する。
さざれといった具合に、水面をなでて微かな水音を響かせる。実際には水が源流から河口にむかっていく流動音にすぎなくて、風と水が共鳴しているわけじゃない。でも、流水が生み出すわずかな振動のきしみが、確かに空気にのって私の耳鼻に送り込まれて、わたしたちは世界が「鳴っている」って錯覚できる。

春先であれば、上流から下ってきた桜の花びらが中洲に引っかかる。それが大量に折り重なって、輪郭が川の流れで整形されていくと、まるで厚みを持たない桃色の船みたい。わたしたちはその桜船が「ある」と錯覚できる。

これは全部イメージだから、音なんて何も鳴っていないし、桜船も電車もありはしない。
実存する河川敷に足を運んでも、わたしのイメージに重なるような光景はどこにもない。私は実存を見ずして勝手に頭の中で理想郷を作り上げては、その中に「私」を立たせて悦に浸るだけ。河川敷に、ただただ夢を押し付けている。

私の理想とする風景は、この世にないらしい。


この河川敷に佇む私は、何を思ってこのイメージを作り出したのだろうか。

自然と人工物が一体になっている。川の氾濫に備えて拵えた河川敷は、自然のように見えて自然ではない。街と一体になっていて、都市の一部として人の暮らしに組み込まれている。
私はどうやら自然に回帰したいわけじゃないみたいだ。
かといって、ビル街や人がごった煮のオフィスや待合室なんてイメージは微塵も現れないから、人の社会に帰属したいわけでもない。宙ぶらりんで、でも社会に生きていくしかないと、心のどこかで観念しているから中途半端な「河川敷」なんて風景が浮かぶのかもしれない。

社会に生かされる、って感覚が、心のどこかに根付いていると感じる。
私のイメージは広々ともしていないし、狹々ともしていない。
「河川敷」が私の限界だと知る。例えば、もっと突き抜けて太陽系に組み込まれた惑星になったり、微生物となってミクロな世界に想いを馳せることだってできる。この世にないクリエイティブな空想を頭の思い描いたっていい。でも私は写実的な河川敷に憧れては、この世界から逸脱することを考えない。


自由を望んでいるようで、ノスタルジーを望んでいるようで、失われた青春を望んでいるようで、実のところ何もかも諦めたような「河川敷」

いつも浮かぶ風景は、そんな河川敷。
風景の中、陸橋の上を走る電車はどこからも来てないしどこにも行けない。だって私はその行き先も、帰る先も思い描いていない。ただ風景にあっているからと都合よく走らせてるだけで、埼京線か、横浜線か、東武東上線か、なんてことだって考えてない。普通か快速か、それとも回送なのかも決めてない。虚空から生まれて虚空に消える電車。

川も、道も、街も、おんなじ。
ありもしない源流から、ありもしない河口に向かう。

切り取られた四角形のだだっぴろい空間。
私はそこに閉じ込められている。
四角形の外に何があるかなんて、私は考えていない。

風になびいて、自然と一体になったつもりでいる。
気圧の差なんて概念はないのに、風がふいている。
生まれようもないはずの上昇気流の行き先にオレンジ色の雲が浮かぶ。
当然、光の波長もない。
それでも、くすんだ青と陽の光が入り乱れる哀しい色の空が、私の頭上を覆い尽くす。



なんだか、トゥルーマン・ショーがまた視聴したくなる。

いつか、ジム・キャリーみたいに、イメージだけの河川敷を抜け出したい。

客席に向かって深々とお辞儀をして「自由」な世界へ。




なんのはなしですか?



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