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外から来たひと:GARMENTの香水

日夜香水についてこうして書いているわけなので、伊勢丹のサロンドパルファンはたいそう楽しみにしていた。

なにせ純粋に香水を楽しむだけではなくて、香りにまつわるいろんなイベントも開催されるから。

いつものように、遠くで誰かがつくった香りから映像やストーリーを想像するだけではなくて、調香師やブランドに関わっている人に直接会える!というのは、

職人の孫に生まれて、「その道のひと」の話を聞くのが大好きなわたしとしては絶対に、素通りすることはできない出来事なのです。


今回参加してみることにしたのは、このサロンドパルファンがデビューとなるブランド「GARMENT」

香水を「フィルター」にする、というちょっと面白いコンセプトが気になって、あとクリエイターの山下武尊さんが男性ということもあり、どんな人がつくるどんな香水なのだろう、と興味津々で出かけてみました。


山下さんは、お写真で見ていた気難しそうな印象とは違って、ふわっとして気のいい男の子、という感じ。

写真だけ見ると不思議に思うかもしれないけどすごく、フェミニンな感じがした。

そしてちょっとお話ししただけでも、自由な人なのだろうなあというのが伝わってきて、その垣根のない感じがとても好ましいなあ、と思った。

それに後々いろいろと語ってくださるごとに、自分の欲しいイメージに妥協しない、硬質なところ(「硬派」というのはちょっと違って、「硬質」と表現。)が出てきて、こういう方がつくるものなら信用しても間違いないねと。

そういう風に思ったり思えなかったりできるのは、やっぱりものをつくる人に実際に会ってみる醍醐味だなといつも感じる。


そして香水の体験会。それはそれは不思議で面白かった!


色でイメージされた3つの香り(シアン・イエロー・マゼンタ)が基本の3本で、その日の気分で好きなものを選んで

そこにフィルターの役目をする3つの香り(リネン・フリル・ファー)を重ねるというのが基本構造になっている。


本当に、フィルターの香りを重ねるとそのイメージがベースの香りに”付加”されるの。ベースのイメージを全然消さないまま、どれも上手に”足されて”いく!と驚き。(この辺は山下さんも相当こだわったとおっしゃっていた。)

山下さんはこれをカメラのフィルターにたとえていらしたのだけど、わたしのイメージはね、眼鏡を作るときの、あの検眼用の重たい眼鏡(笑)かしゃん、って新しいレンズをはめるごとに、見えるものが増えたり、遠くのものがよく見えるようになったり、二重に見えていたものがくっきりする、あの感じ。

香りのイメージはかなり詳細につくられていて、例えばフリルのフィルターなんかは、フリルがふわっと大きく広がるところから、揺れながらもとに戻っていく動きまでを表現しているそう。香りを使う時にそんな考えが頭の中にあったら、毎日がすごく楽しいね。


そして面白いのは、必ずしもベースひとつ+フィルターひとつ、で作らなくてはいけないわけじゃなく、

ベース同士を重ねてもいいし、フィルターをふたつみっつと重ねてもいい。もしくは重ねる回数を調節しても、雰囲気が変わる、というところ。

3×3じゃ9通りしかできないけど、

6本を好きに組み合わせると可能性はぐんと広がるし(6の階乗になる、よね?)、

さらにつける回数まで考えたらそこには無数の香りが出来上がる。


実際イベントでは何十枚もムエットが用意されていて、みんな自分の思うがままにいろんな組み合わせを楽しんでいて、それぞれ全然違った感性で全然違った香りを作り出していた。そういう楽しみ方って一つの香水瓶を愛でるのとはまた違って、とてもクリエイティブで幸せな感じがする。

山下さんも「とにかく遊んでいってほしい」とおっしゃっていたように、「香り」や「香水」というところからひとつ離れて、イメージの組み合わせで遊んでみるのが楽しかったな。どう組み合わせてもそれぞれの香りの良さが相殺されない、という大前提があるから、使う方は大いに自由に振る舞える。

だから「香水」というと身構えてしまうようなひとも、GARMENTの香りで遊んでみると、香りの世界の面白さに目覚めるかも。


そしてね、素晴らしいことに、なんと手持ちの香水にフィルターを組み合わせても素敵な香りに仕上がったの。

わたしの常用している香水は、重ね付けを前提としていないにもかかわらず、です。

だから気に入って買ってみたものの少し足りない、とか少し過剰だ、とかいう理由であまり出番がなくなっている香水があるなら、

フィルターでイメージを足したり引いたりしてみると、また面白く使えるあなただけの香り、ができるかもしれない。


文脈は忘れてしまったのだけど、イベントにいらしていた山下さんのお母様(フレグランスのお仕事をされている。)が、ジュエリーやファッションの世界を渡り歩いてフレグランスにたどり着いた山下さんを評して「外から来たひとだから、我々にはない眼を持っている」というようなことをおっしゃっていて、それが印象的だった。

たしかに、香水が好きだとどうしても香料とか、組み合わせとかを追求したくなって、香りから想起されるイメージを考えたことはあっても、イメージから想起される香りを考えたことって、あまりなかった。

その頭でっかちを軽やかに粉砕してもらった感じがして、今日はたいへん痛快だったのでした。


GARMENTは香りなんだけど香りじゃない、不思議な香水。


個人的には、あまり香水に親しみがない人、あるいはいっぱい持ってて使ってないのもたくさんある人、にオススメしてみたいなあと思いました。

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