そこはかとなくモード、になりたい
久しぶりにお洋服のことを考える気分。
このところちょっと、いままで完璧だと思っていたワードローブがなにかすこし違うような気がして
それがどうしてなのかとか、クローゼットを眺めながら試行錯誤していたのだった。そして無事に乗り越えたから、ここに書いておこうかなって思ったのだった。
わたしは保守的なお洋服も好きだし、一風変わったお洋服のことも愛している。
だけどなにかが足りないような、そんな感じが春先からずっとしていた。閉塞感みたいな。
その気持ちはぎらぎらに光るグリッターのスニーカーを手に入れても変わらなかったし、
泡のように輝く不思議な素材のワンピースを着てみてもはっきりとは分からなかった。
足りないものはないはずなのにどうしてだろうと、誰にも言わずにわたしはなんとなくすわりの悪い心地を抱えて春を過ごしていた。
わたしに足りないのは銀色のふちの伊達眼鏡だろうかとか
香水を変えてみれば良いのだろうかとか
でもそのどれも正解ではないのはどこかで分かっていて、ずっと手さぐりをしていた。もうちょっとモードになりたいような気はしていたのだけど、はっきりモードであるのはわたしに似合わないしと、どうするべきかの落としどころを探していたのだ。
解決はふいに訪れた。
ある日、電車には乗るけどそんなに遠くはないところに出かける用事があった。すぐに帰ってくるからとわたしはいつも履いているデニムに足を通したのだった。
細身の、わたしの薄い胴体をちゃんとはっきりさせてくれる、履きやすく歩きやすいデニム。
だったはずなのだけど。
そのはずなのだけど、それを履いてみたときにわたしが感じたのは「なにか違う」というざらっとした違和感だった。
いまじゃない、という感じがした。
確かに今のわたしの体型や見た目にはあっているのかもしれないけれど、少なくとも「ここ最近のわたしの気持ち」に添っていないことは明らかだった。
ここ最近の閉塞感の原因はこれなのだろうか?きっとこれなのだろう。
そう思ったからわたしはそこから、新しいボトムを長い時間かけて探すことにした。
**
新しいボトムを探そう。
そう決めたのはいいものの、そもそもパンツスタイルというのをあまりしないから、どこから手をつけていいのやら、はじめは途方に暮れてしまった。
どういうかたちが似合うのか、どういうスタイルで着たいのか、そういうところから洗い出さないといけないような有様だった。流行りのかたちに乗っかっていいのかどうかさえよく分からなかった。
だから最初は、あわせるお洋服と素材を考えようと思った。
春先にオーダーしたブラウスのルック。深緑のたっぷりしたブラウスに、黒いワイドパンツやテーパードパンツを合わせていて素敵だったなと思い出して、ひとまずは”黒のワイドパンツ”を目指すことにした。
素材はシルクか質の良いウールがいい。秋から春ごろまで着られるような。
大概のパンツではわたしのウエストが綺麗に出ないので、できたらウエストが細く絞られているものがいいなと思った。
そこからはひたすら探し続けた。外にも出られないようなご時世だから、オンラインでいろんなものが見られるのはありがたかった。
それで何ヶ月か根気よく探して、ついにわたしはそれを見つけた。
黒のウールのワイドパンツ。わたしの腰にぴったりと添ってくれるハイウエストで、後ろにはタックが入っている。腰の位置を同じところで支えてくれるから、スカートを履いているときのような安心感がある。
生地には張りがあってカジュアルになりすぎず、だけど心置きなく歩くことができて気楽でもある。マニッシュな気配はあるけれど、ラインが美しいので堅苦しくはない。
黒のパンツというと就活やビジネスみたいで好きではないなとずっと思っていたのだけれど、かたちや素材、その他のディティールのおかげで、目指していたところである「そこはかとなくモード」なスタイルができそうだ。わたしは嬉しくなった。
いままでパンツというとデニム一辺倒だったけれど、このほうがずっと今の気分だ。
ブラウスが届いたら一緒に着て、できればエナメルの黒いブーツでも履きたいな。ピンヒールならちょっと尖ったデザインの、Ryoasoなんかがいいかもしれない。
モードってもっと鎧みたいなものだと思っていた。だけどちょうど良いところにおさまると、すごく気持ちがいいみたいだ。
強がらず、ほんのすこしだけ。それが今いちばん心地いい。
早く出かけたいとは言わないけれど、いつでも自分の居心地がいい服を身に付けていたい。
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