5月に聴いたもの

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Blake Mills "Mutable Set"

5月初旬、まだちょっと肌寒くて小雨の夜に家で外気浴をした時に聴いてその時の気分にバッチリはまったのを憶えている。「洋楽が苦手」という雑な括りのコンプレックスがあるのだが、これはまさに「オルタナティヴ」というかそのコンプレックスの隙間にするりと入り込んで浸透していく気持ち良さを感じた。基本的にはギタリストのようだけどサウンドデザイナー的な側面が強いと思う。こういうどんな時にもじわっと浸透してくれる音楽をいくつか知っていると助かるなと思った。


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Brandon Lin "Affection / Promise"

ピアニストの壷阪健登さんが参加してるとのことでチェック。トロンボーンリーダーの作品は実はあまり聴いたことがなかったが良かった。なんとなく現代のトロンボーンプレイヤーのコンポーズはかなり小難しい曲に走る方が多い印象(ラージアンサンブルなどでの立ち回りが多いせいか?)なのだがこの方はとてもバランスが良かった。聴きやすさも残しつつ面白いことをやっている。なかなかジャズも飽和傾向(主観です)にあると思って食傷気味だったので自分にとってバランス良く聴ける作品に出会える機会は今後も地道にキャッチしていきたい。


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F.S.Blumm & Nils Frahm "Music For Lovers, Music Versus Time"

ニルス・フラームは割と「ポストクラシカル」「ピアノ」「暗い」というイメージがあって個人的には作品を選ぶ感じだったが、これは好み。良い意味でラフというか、深淵な方に行かず浅瀬でちゃぷちゃぷしてる空気感。このSonic Piecesというレーベルはアートワークの統一感も含めて好みの作品が多かった。


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Rodrigo Carazo "Octógono"

アルゼンチンのSSW、ロドリゴ・カラソの最新作。これも外気浴中に聴いた。アルゼンチンのSSWはインディーロック系かフォーク系かに分かれるがフォーク寄り。いなたくなりすぎずアレンジも気が利いている。


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Nuno Canavarro "Plux Quba"

ジャケットの印象のように抽象的・散文的だが妙に惹かれる楽曲たち。未知の小さな生命体たちが独自言語を使ってコミュニケーションをしている様子を見ている感じ。「なんか分からないけど好き」みたいなものも臆せず書いていこうと思う。


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midori hirano "Minor Planet"

先に挙げたSonic Piecesからもう1枚。遠くからうっすら聞こえてくるくらいの朧気なピアノだが、なぜか想像力をくすぐられて聴き続けてしまう。この感じはコムラマイさんの写真に近いものを感じるなと今改めて聴きながら思った。はっきり視えないことでぐっと受け手の能動性を高める感じ。


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Morgan Packard "Airships Fill the Sky"

脳内に直接データを突っ込まれる系のエレクトロニカ。この手の「近い」音像とても好みで、有無を言わさないで気持ち良くさせる感じがドラッギーで愉しい。


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Mark Templeton "Standing On a Hummingbird"

エレクトロニカ寄りのアンビエント。ビートクラッシュされたシンセやノイズの中にアコギやアコーディオンなどの生楽器が見え隠れする様子が廃墟で昔の住人の使っていた道具や写真を見付けた時のようなノスタルジックな気持ちになる。アンビエントの中にこの手のストーリーや情緒を挿入することはバランスによっては結構拒否反応があるタイプなので、今作の塩梅はとても巧いんだなと感じた。


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Slawek Jaskulke Trio "On"

スワヴェク・ヤスクウケによるジャズピアノトリオ作品。ソロピアノではポストクラシカル寄りのアプローチで定着しているが(それでもジャズの香りが漂うので個人的に黄金比率)この作品では普通にジャズを弾き倒しているので言われないと同一人物とは気付かない。ポーランド出身らしく、ノルウェーやスウェーデンっぽい荒々しい空気感のジャズだがフレージングを聴くと割とオーセンティックで面白い。


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Tomas Phillips & 原摩利彦 "Prosa"

個人的にピアノと電子音による音楽で理想的なバランスの作品だと感じた。音韻情報が多すぎず少なすぎず、それを包み込むような音響情報の散りばめられ方。就寝時に最初こそ心地良く聴いていたものの、途中から逆に良すぎて目が醒めてしまった。


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半野喜弘 "9 modules.+"

名前はよく見かけるけど聴いたことがなかった半野さん。何作か聴いてみて結構作品ごとに振り幅があるよう。これは王道的エレクトロニカ。夏にひんやりと聴きたい。


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Katsuhiro Chiba "Silent Reverb"

この方は以前に2作目の方を聴いていて、いつの間にか1作目が配信されていたのでチェック。音がとにかく特徴的で(確か自作音源)それをシャワーのように浴びる体験が気持ち良い。これも夏に絶対合う。


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Mndsgn "Forever In Your Sun - EP"

マインドデザインの新作EPは今までもそのケはあったがいよいよメディテイティヴな空気が全開になっている。構造的にはドローン・アンビエント的なのだが、かなり能動的なシンセのフレーズやテクスチャーの積み重ねなどクセのある雰囲気でジャケから伝わるようにサイケなイメージ。個人的には岩盤浴などで毒にも薬にもならないヒーリングミュージックを垂れ流しているのなら、これを流してトリップした方がメリハリが出ると思う。


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藤井風 "HELP EVER HURT NEVER"

まだ今のように大ブレイクするちょっと前の1年くらい前にYouTubeで椎名林檎の丸の内サディスティックを弾いている動画を何かで見つけてはまっていたが、ちょっと目を離した隙にこんなことになっていてびっくり。一発目に発表されたオリジナルの『何なんw』は最初タイトルの若者感に不安になったが曲の完成度の高さに裏切られすぎて何も言えなくなった覚えがある。YouTubeの「弾いてみた」レパートリーは主に椎名林檎関連などが多いが、オリジナルを聴いてaikoっぽいという印象が残った。勿論林檎的楽曲もあるのだが、メロディメイクと節回し(ブルーノート遣い)とコード進行、あとピアノが中心にあるアンサンブルという点でaiko感の方がより強く聞こえたのかもしれない。と思って調べたら「KissHug」「もっと」「くちびる」などカバーしてた。「くちびる」はめちゃくちゃ好きそう。個人的にaikoをあまり聞かなくなってしまった後の楽曲だけどこの曲のサビの異様な節回しだけは強烈に憶えている。菊地成孔氏のラジオも有名だし。


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John Carroll Kirby "My Garden"

TAMTAMのアフィさんのブログで知った方。ニューエイジというジャンルになるようだがこの辺の分解能が恥ずかしながらまだない。内容良いのにジャケだけ謎だと思って調べてたらインスタも上裸の自撮り(しかも大体真顔カメラ目線)で「イタリア人...」となった。誰かに似てるなと思ってたら上裸見てラッセンだと気付いた。


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TAMTAM "We Are the Sun!"

自身が参加している作品だがリリースのタイミングで改めて聴き返したりリハするなどしてまた客観的に色々発見があった。以前の作品はもう少しノリがライトというかチル、リラックス寄りのものが多かった印象だが、今作はドチャドチャしたバンドサウンドの曲が多く局所的には結構ヘビー。でも最終的にSummer Ghostでそれまでかいた汗をさらっと吹き飛ばされるというストーリーが最高。リリース時期は6月だったが、中身は「夏真っ盛り」から「秋の風が少し吹き始めたな」という雰囲気。サマゴのCメロの"アイスのカフェラテはもう肌寒いね”という歌詞で一気に季節のイメージが具体的に感じられて、まだ夏前なのに夏の終わりの空気を想像して切なくなる。TAMTAMはライブバンドだと思うのでライブでぜひ聴いて欲しい。


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Daniel Crawford "The Awakening"

こういうネオソウル系ジャズで良いなと感じたのは割と久々。その辺りの「基本的にはあまり得意ではないけど、これは例外的に好き」みたいなものを分析していけば自分のツボがより把握できるなと思った。やるか分からないけど。今作に関して言えば熱量が高くないことがはまった理由かと感じた。熱量が高くないというか、ところどころシティーポップのような涼しいけど湿度が高いみたいな空気感が今の梅雨前の気分に合ったのかもしれない。


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Madegg "Drowsy Numbness (2012-2013)"

エレクトロニカにはまるきっかけの一人、Madeggの過去作詰め合わせ(?)。何曲かは既に聴いたことある曲だったけど現時点の最新作『New』のようなスタイルになる手前の、個人的に好きな空気の曲が多い。自分の最近の音楽の理想スタイルに「聴いていない時はメロディなど全然思い出せないけど、強烈に印象に残る」ものが作りたいというのがあり、Madeggはその理想にとても近い。なんだか歪で捉え所がないのに聴き続けてしまう、惹かれてしまう、その方法論はずっと探っている。


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