紅茶入りのお菓子
横断歩道。
信号の色は赤。
信号待ちで寝ぼけてぼーーーーーっとしながら、
マドレーヌを齧っていた。
紅茶入りのそれは柔らかくて甘い香りがする。
自分と同様に信号待ちしていた、前にいたご婦人が歩き出す。
同じように歩き出す。
横断歩道を真ん中辺りまで歩み進んだ時にご婦人がハッ!として立ち止まる。
何事か?と思い気づく。
信号の色はまだ赤のままである。
突如生まれる緊張感。
横断歩道の中央にある植え込みにサッと逃げ込み2人肩を並べる。
ご婦人「間違えちゃった…!」
私「私はあなたについてきちゃったーーー!!!!!」
あまりに衝撃的だったので図々しい言い方になってしまった。
ご婦人「わぁぁ〜!そうよね!!!ごめんなさいねぇ(T-T)!!!」
私「いえいえ!私もぼーーーっとしていましたので…!」
ご婦人「私もぼーーーっとしてたわ…」
ははは。と笑うしかない私たち。
青に切り替わる信号。
ご婦人とは反対方向に向かう。
手を振りながら「それではお気をつけて!」とご婦人に声をかける。
ご婦人「お互いに気をつけましょう!じゃあね〜!!!」
こうしてお別れした。
これは先日あった出来事。
おそらく3分にも満たない時間の中での交流。
赤信号を渡る行為は大変危険なのでよく無い話ではあるのだが、
(本当に申し訳ありません…。今後も気をつけます。)
正直に申すとご婦人との交流にほっこりした。
初対面の人の無事をお互いに祈り、去る。
本当にささやかな交流であったが、何だか人間らしくて良いなぁと思った。
ふと、人と人との会話が極端に減ったこの時代だからそう感じたのかと思ったが、そうでは無い。
自分は己の感情と言葉を出すのが本当に苦手な子どもだった。
それ故に生まれる誤解や孤独に沢山悩まされてきた。
いつも一人反省会を開催してはめそめそと泣いていた。
「私はあなたについてきちゃったーーー!!!!!だってさ」
ははは。
自分の発言を思い返してみて何だかおかしくなる。
初対面の人にとっさにそんな事も言えるようになったのね。
随分と図々しくなったじゃない。
あの頃の小さな自分にあなたは大丈夫と教えてあげたい。
ついでに紅茶入りのお菓子が嫌いで伯母さんに紅茶のパウンドケーキを貰った時に一口だけ食べて、あとはこっそりティッシュに包んで持ち帰って捨てた事があるけれど、そんな紅茶系のお菓子も大好きになってるよ。
残り半分になったマドレーヌをそっと齧った。
口の中が乾いたので今直ぐにでも牛乳を流し込みたい。
終わり。
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