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小4の娘と「個人情報の取扱いに関する契約書」を交わした理由

つい先日、小4の娘と「個人情報の取扱いに関する契約書」を交わした。

きっかけは、子育てエッセイ漫画で知られる漫画家さんの、娘さんによる告白だ。すでにたくさんのメディアに取り上げられているので知っている方も多いと思うけれど、

お母さんは何を思って私の許可無く、私の個人情報を書いて、出版したんだろう。

出典:ブログ「ひよだよ」by鴨志田ひろ

から始まるブログは、読んでいて、きゅうっと胸が苦しくなる内容だった。

このブログが一斉に拡散されると、「ひどい!」「知らなかった」「毒親じゃん」といった感情的なコメントと共に、

「子どものエピソードを晒すのは、せいぜい未就学児まで」「子どもの許可をきちんととるべき」「許可をとっても、大人になってどう思うかはわからない」といった、親による子どもの個人情報の取扱いに対する意見が、ネット上で飛び交った。

わたし自身は、これまで創作漫画で子育てについては描いてきたけれど、子育てエッセイ漫画はあまり描いてこなかった。だけど、孤軍奮闘する親たちにとって、他の人の子育てをエピソードで知る機会というのは、なくてはならないものではないかと思っている。

私自身、ホルモンバランスの変化からなのか、妊娠中から数年間、感情を揺さぶられるようなエンタメを受け付けない時期があった。そんなとき、「大変なのは、わたしだけじゃない」と思わせてくれる子育てエッセイは、数少ないエンタメであり、救いだった。

それもあって今後は、もう少し踏み込んだ自分の子育てエピソードも、漫画や文章にして公開していこうかな、と思っていた。そんな矢先の、先の告白だった。

どうすれば子どもを傷つけることなく、子育てのエピソードを人に伝えられるのか? それを考えることは、今後、自分が創作活動を続けていく上でも、とても重要なことではないかと思った。

娘から発せられた衝撃的な言葉


わたし:「ねえ、娘のエピソードを、本人がイヤだというのに晒してきた漫画家さんが話題になってるんだけど……」

こう長女に伝えたのは、晩御飯の食卓でだった。このとき、わたしには正直、自信があったのだと思う。

それは、「先の漫画さんと自分は違う。わたしは断じて、子どもの嫌がることを晒すような親ではない」という自信だ。

うちの娘たちは、「ママに○○されてイヤだった!」と面と向かって言ってくるし、わたしも、親子で日記を交換したり、家族会議を開いたり、とにかく子どもたちが思っていることを、言いやすいように工夫してきたつもりだった。

けれど、そんな自信は、娘のこんな返答により、木っ端微塵に打ち砕かれることになる……。

一通り説明し終えたわたしを真っ直ぐに見据えて、長女は、こう言ったのだ。


見誤った、親子間のパワーバランス


絶句した……。

わたし:「え、え、え、えっと、それってどのツイート?」
長女:(スマホを見せてくれて)「これだよ……」

他の人の記事を紹介した、引用リツイートの一文だった。


ショックだった。


改めて読んでみると「そりゃそうだろう。こんなことをなぜ、当時の自分は軽々しく書いてしまったのだろう?」と思った。

けれど、何より衝撃だったのは、「どうして長女が、気づいたその時点で言ってくれなかったのだろう?」 ということだった。それが、ただただ悲しく、恐ろしかった。

わたし:「気づいた時点で教えてくれればよかったのに……」

と呟くわたしに、娘はこう返した。

長女:「詳しくは言わなかったけど、前にも伝えた。でも、そのときお母さんは、忙しそうであまり真剣に取り合ってくれなかった

脱力したよね。

こういうことなんだ……と思った。わたしは完全に、親子間に存在するパワーバランスを見誤っていたのだ。

親はいつでも、「ハラスメントする側メンタル」になれてしまう


多くのハラスメントが、する側にとっては「たかがそんなこと」である。

わたしにとっての些細な引用リツイートは、娘にとって、忘れられない母の発言だったのだ。

子どもの個人情報の取扱いに対する甘さもさることながら、それをイヤだと主張してきた子どもの言葉に耳を貸さないという怠慢……親子という関係性への完全なる甘えに他ならない。前出の漫画家さんと何ら変わりないではないか……。

親がどんなに意識しているつもりでも、子どもが小さいうちの親子間には、圧倒的なパワーバランスが生じてしまう。今回の私は、それを軽視していたがために、長女に対して、完全にハラスメントする側のメンタルになってしまっていた。

これは、今後も常に意識し続けていなければ、同じことを繰り返してしまうのではないか……。怖かった。一体どうしたらいいんだろう?

そうだ、子どもとの間で「契約書」を交わそう!


そんなわたしの脳裏に、ふと思い浮かんだ記事があった。


現在、Google日本法人検索担当ゼネラルマネージャーである村上臣さんが、2020年に公開した、息子さんとの間で交わしたという「誓約書兼スマートフォン貸与契約書」について書かれた記事だ。

当時、小学6年生の息子さんの受験が終わったタイミングで、かねてから約束していたスマートフォンを渡すにあたり、説教くさい約束ごとでは嫌がられるからと、いっそ、「究極の大人扱い」をしてやろうという意図で作成したものだという。内容は、甲、乙などと書かれ、かなり本格的である。

「これであれば……」と思った。

契約書という形式なら、親子感のパワーバランスのアンバランスを最小限に抑えられるのでは……?

ありがたいことに、先の記事では、作成された契約書がWordの状態でダウンロードできるようになっていた。さっそくダウンロードして内容を編集させてもらった。

「誓約書 兼 個人情報取扱契約書」として、わたしが書き直した一部がこちらだ。

※専門ではないため、「ここおかしい!」という点も多々あるかと思いますが、ご了承ください

わたしがたたき台をつくり、その後、娘とああでもない、こうでもない、と相談して決めた。「契約書とは何か?」みたいなことから夫婦で説明した。

罰則を決めるにあたっては、最初、

わたし:「売上を長女ちゃんに渡すことにしようか?」

と提案するも、「お金を解決の手段にしたくない」ときっぱり断られてしまったので、SNSの一定期間停止、または、自主回収などに決まった。

その上で、子どもの新陳代謝は、身体だけでなく精神面でも活発なので、一年更新にすることも話し合って決めた。

「過去に自分でアップしたSNSの情報だって、数年後には消したくなることがある」と漫画仲間が、定例会で言っていた。親が書いた子どものエピソードなんて、娘からすると、今後の黒歴史となることだって十分あり得るだろう。

それだけに、あくまで現時点の彼女との契約であることを、わたしは忘れないようにしなければならないし、この契約書を通じて、今後も、娘と膝を付き合わして話す機会を、きちんと、設けていかなければならないと思った。

契約書を交わすのは、親にもメリットがある

契約書を交わしてから、あまり日は経っていないけれど、現時点ですでに感じていることがある。

それは、こうして、お互いの個人情報にまつわる線引きをきちんと明文化することは、子どもの個人情報が守られるだけでなく、自分の創作活動も守ることにつながるのだ、ということだ。

先ほどもお伝えしたように、人の気持ちは揺らぐもの…。子どもにその都度確認したとしたら、例えば、親子喧嘩をした後など、どんなに個人が特定されないエピソードであっても、「それはちょっと…」などと、気分で言われることも出てくると思う。

その点、契約書で「個人情報の範囲」を明確にしたことで、そういったことが少なくなるのではないか、と思っている。

また、今回の契約書には

という一文を入れた。もともとは、商業出版などを今後することがあったときに、迂闊にSNSなどで情報公開をされないためだったけれど、

わたしは、これによって娘が、「個人情報を守られるのは、自分(子ども)だけでなく他人も同じなのだ」と知ってもらえたらいいな、と思っている。

子どもというのは、家族内で起こった出来事を、平気で他言することが少なくない。けれど、それがどういうことであるのか。今後の友達関係などにも関わってくることなので、長女が、改めて考えるきっかけになってくれればいいと思う。

◇                ◇                ◇

先の契約書がオープンだったことで、今回、わたしも「個人情報の取扱いに関する契約書」を娘と交わすことができた。そのため、わたしがこの記事を書くことで、また別の誰かの役に少しでも立つことがあるかもしれない、と思い、今回、noteにまとめることにした。ただ、ライセンス上、契約書自体を掲載することはできないので、このような形となってしまいすみません。

今回の契約書を作成するにあたっては、夫にも入ってもらい、彼が冷静に「それを書かれることは、長女ちゃんに何のデメリットもないと思うよ」などとアドバイスをしてくれたことで、この記事を公開することができた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。














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