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尊く、うつくしい色に心惹かれて。

最近買ったマニキュアの色がとっても可愛くって、切なくって、大好きだ。

誰かに褒められるわけでもないけれど、剥げてしまうたびに同じ色を塗りなおして、自分の爪を見てはちょっとうれしい気持ちになる。

何気なく選んだ色なのに、いざ塗ってみたら、「あ、わたしのいちばん好きな色だ」と思った。完璧には形容しがたいのだけど、淡くて、透明感があって、ちょっと紫を帯びている消えてしまいそうな青。夜明け前の3時くらいの空みたいな。

この世の中には、数えきれないほどたくさんの青色があるから、自分の爪の色にいちばん近い青色を探してみたくなった。そしてその色を、何と呼ぶのかも知りたくて。

あれこれ見ているうちに、暦生活 (@543life)という素敵なアカウントを発見した。日本の暮らしについてゆるくつぶやいていて、とても可愛い。

そこですっと目を惹いたのが、この青色。

にっぽんのいろ「み空色(みそらいろ)」どこか神秘的な雰囲気を持つ、明るい青紫色。み空色の「み」は、尊いものへの美称で、「み雪」や「み山」、「み吉野」などがあります。

なんだなんだ、【み空】って。ただの空色ではなく、尊い、そら。どうやら春の色らしいのだけど、わたしは冬の晴れた日のすうっと澄んだ空を想像した。ひんやりと、雲一つないうつくしい空。爪の青色とはちょっと違うんだけど、うーん、素敵すぎる。

一つの青にも、こんなふうにうつくしい日本語の名前がついていることにわたしは甚く感動してしまった。

いろんな色の名前が知りたくて、もっともっとぴったりな色がないか、自分の爪の色と照らし合わせながら、探してみることにした。

さらーっと見たところ、気になった青色はこんな感じ。

紫陽花青や、薄群青はなんとなく色のイメージができるけれど、紅碧はほぼ紫色なのに「みどり」だし、青袋鼠に至ってはなんでそんな名前になったのだろう…。

調べてみると、紅碧の碧は、「みどり」と読むけれど青色を指すらしい。ほぼ紫に近い紅色がかった青で、おだやかで優しい色。 こんな色のマグカップで、ココアを飲みたい。

そして、青袋鼠は、江戸時代に町人たちがもともと地味な色だった鼠色や茶色で様々な組み合わせを考え、「四十八茶百鼠しじゅうはつちゃひゃくねずみ」というバリエーションをつくったうちのひとつなんだそう。ベースは鼠色だけど、淡くて少し渋みのある青色だ。これもくすんだ感じがとてもきれい。

でもやっぱり、どれも微妙に色がちがって、ぴったりなものは探した限りは見つからなかった。もしかしたら、これらの青色を全部混ぜると今のわたしの爪の色になるかもしれないな、と思う。青色は奥深くて一筋縄ではいかなそうだ。

ちなみに「〇〇鼠」という名前のついた色を一部並べてみるとこんな感じ。

全体的にちょっとくすみがかっていて、上品な印象。たしかに和菓子屋さんとか、着物屋さんとか、和を連想させるラインナップだ。

こんなふうに、古来から伝わる日本特有の文化や伝統、四季のうつろいの中で名付けられ、愛されてきた繊細な日本の伝統色。その名前の多くは季節ごとに見られる風景、例えば花や草木のような自然のものから、食べ物、行事などに由来している。

同系色を並べてみたが、卵黄に梨に、蜜柑に柑子(温州みかんの先祖)。日々の生活のなかでつけられたであろうこれらの名前を見ると、当時の人々の丁寧な暮らしぶりが垣間見えるようでなんだかやさしい気持ちになる。新しい色が生まれるたびに、身の回りの世界がどんどん鮮やかになっていったんだろうなあ、とか。

そして微妙な色のちがいを繊細に見極め、うつくしくて相応しい名前をつけてきた日本人のセンスにただひたすら脱帽である。なんか悔しい。

今のように膨大な量の情報が飛び交う忙しない社会で生きていると、気づけなかったり、見落としてしまうことがたくさんある。通勤途中に咲いていたあの花は何色で、今日の夕方の空はどんな色をしていたか、とか。

息をしているだけであまりにたくさんの情報が入ってくるから、わたしたちは暮らしの中のそういう小さな発見を見過ごしてしまいがちだ。まあそもそも、そんなものに価値を感じない人のほうが多いのかもしれない。

でも日本人特有の繊細な感性や、日々の暮らしのなかに小さな幸せを感じる心は、きっと何年たってもわたしたち日本人の根底にあるものだと思う。
心に少しだけゆとりをもって、携帯じゃなくて周りの景色をぐるりと見てみたとき、思わぬ小さな発見に出くわすかもしれない。それだけでちょっと嬉しくなったり、つい誰かに話したくなってそれが会話のきっかけになるかもしれない。

そういう小さなことの積み重ねで、日々の生活はほんのちょっと豊かになっていくんじゃないかな、と思う。テレビやSNSでは得られない豊かさがきっとある。だから、そういう感性や心を忘れないようにしたい。

マニキュアのはなしからだいぶ飛躍したけれど、うつくしい色たちに古来からの日本人の心を見た気がする。これから洋服やネイルの色を選ぶのがさらに楽しくなりそうな予感がしている。

それに、「この色きれいだね」って言われたときに「ありがとう、この色【蜜柑茶】っていうの」みたいに和名をさらって言えたら、なんだかとても素敵な気がするから、たくさん色のレパートリーを持っておこうと思う。完全に自己満足なのだけど。

追伸
Twitter上で、#にっぽんのいろパレットというハッシュタグを見てみると、いろんな人が暦生活の中から好きな色を集めてパレットにしていて楽しい。
自分はこういう色が好きなんだな、という傾向とか、なんとなくの人柄が見えてきて面白いから、みんなもやって見せてほしいなあ、なんて思う。

(おしまい)

#エッセイ #コラム #日記 #色 #日本 #暦生活

いつも読んでくださってありがとうございます。大好きです。 サポートいただけたら、とてもうれしいです^^ どうか、穏やかで優しい日々が続きますように。