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学校の先生へのラブレターが書籍化されてしまった黒歴史を10年後に成仏させてみた。

わたしのいくつかある黒歴史のうちのひとつは、中学1年生のとき。好きだった学校の先生へのラブレターが、書籍化されてしまったことである。

もう記憶の彼方だったのだが、本棚を整理していたら奥の方から発掘してしまった。

で、で、出たーーーーーー!!!!!

ワナワナワナ……
5年前、上京の際に悩んだ挙句、実家に置いておくのが恥ずかしすぎて持ってきたあいつ。そしてそれから2回ほど引越しをしたが、その度に悩みながらも5年間ともに転々としてきたあいつだ。本棚や引き出しの奥底にしまいこんでは、忘れてしまうくらいに、存在感は薄いのだけど。

見つけてしまったので、仕方がない。単行本サイズの薄めの本を、恐るおそる開いてみる。

ウッッッ!!!!

これは……恥ずかしすぎて直視できないレベル……。なぜこれが優秀作品に選ばれたのか理解できないほどの駄文であると同時に、個人名や学校行事の固有名詞を当たり前のように使っているし、わかる人には完全にわたしだと特定できてしまう内容なので、心のざわざわが止まらない。

でもまあ10年も経つと、なんかもう3周くらい回っておもしろくなってきた。きっと時効だし、腹をくくって黒歴史に向き合ってみることにした。

◇ ◇ ◇

書籍化のもともとの背景はというと、当時流行っていた某ケータイ小説のサイトへの投稿だった。たぶん同世代の女子はみんな一度くらいは見たり聞いたり読んだりしたことがあるであろう、あの「魔法の島」だ。

そこでたまたま投稿の募集がかけられていたのが、「好きな人に渡すことができなかったラブレター」みたいなテーマのものだったのだ。(当時はコンテストだとは知らなかった)

わたしは小学生の頃から手書きのノートやWebの掲示板(某小中学生向けファッション雑誌の掲示板)で小説を書きまくっていたので、そういったことに抵抗がなかったのだと思う。(ちなみに掲示板ではちょっとした人気者だった、にっこり)

ここで当時の恋愛について少し書くと、わたしは2つ上の学年である3年生の担任をしていた先生に猛烈な憧れを抱いていた。まだ13歳にもなっていない、恋に恋をしているようなピュアピュアな乙女だった。ここから先に書くことはかなり痛いので、どうかご注意を。

その先生はたしか28歳くらいで、国語科で、野球部の顧問で、めちゃくちゃかっこよくてそして……

新婚さんだった。

ショック。中学生が付き合えるわけがないのにショック。というか、今思うと割と結婚早かったのね、先生。
しかし本音を言うと、その事実はわたしの大好物である切なさに浸るには、恰好の的だったのだ。(障害があるほうが余計に燃えるというやつ)

普段は全く接点がないので、先生を一目見たくて毎日職員室の前を通って帰ったり、先生にハンコを押してほしくて漢検の申し込みに行ったり、漢検受験の教室担当がたまたま先生だったあかつきには、わざとシャーペンを落としたこともあった。痛い。ちなみにそのシャーペンはもったいなくて引き出しの中にしまっていた。ひたすらに痛い。

まあそんな感じだったのだが、妄想がお得意のウブな13歳はそのなかなか会えない感じとか、新婚さんだとか、自分の名前すら知られていないこととか、そういう要素を全てドラマチックに脳内変換して、よく哀しみと切なさに浸っていた。それだけでじゅうぶんに恋してるような気持ちになっていたのだ。

今思えば、正直本当に恋だったのかも分からないし、その先生にきゃーきゃー言ってることが楽しくて満たされていただけなのかもしれない。でも当時のわたしにとっては、同級生の男子よりもずっとずっと大人でかっこよくて、とにかく「素敵!絶対叶わないけど好き!」という気持ちでいっぱいだった。

そんな感じで書いたのが、例のラブレターだったのだ。企画の趣旨に合わせて、嘘はつかない程度に切なさてんこもりで書いてしまったのだけど。

編集部から、いくつかの作品と一緒にあなたの文章を本に載せたい、という旨のメールが届いたとき、とにかくうれしかった。未知の世界に足を踏み入れたようで、興奮した。

しかし、書籍化には2つの巨大な壁が存在していた。それがこちら。

①未成年であるため、親の同意が必要
②書籍化する優秀作品として事前に公式HPに載っている。故に、同級生にバレる

まずひとつめ。
そう、書籍化にあたって親の同意が必要だったのだ。

想像してみてほしい。「こっそりネットで投稿したものが、しかも学校の先生への恋心をつづった文章が本になることになったのでお母さん署名してもらえますか」とお願いすることがどんなに恥ずかしくて苦痛なことか……!

10年も前の話なので、わたしも記憶がおぼろげなのだが、なかなか言い出せずにたしか一緒に入ったお風呂のなかで切り出したような気がする。(あれ、中1って母親ともうお風呂入らない?)

ケータイ小説のサイト、というので些か心配されてちょっと喧嘩したような気もするし、案外すぐに署名とハンコを押してくれたような気もする。どうやって説得したのかもあんまり覚えていないが、なんとかぎりぎりで提出することができた。第一関門突破。

そしてふたつめ。これがなかなかきつかった。
簡単にいうと、わたしが書いたことがクラスの友だちにバレた。

「昨日これ読んでたんだけどさ、もしかしてあきが書いたの?」

掃除の時間、雑巾を絞っていたら同じクラスの女の子にそのようなことを言われ、その瞬間人生終わったと思った。ジ・エンド。

「え、なにこれ知らない~」と言いながらも、本当に焦りすぎて超挙動不審だったと思う。

どう考えても逃げられる余地がなかった。だって、先生の名前も自分の部活も、学校の文化祭の名前も、他の先生の名前だって出してるんだもん!そりゃ分かるわな!!でもまさか選ばれると思ってなかったんですよ!!!!

しかも、その先生が好きであることは女友達の間ではよく話していたので、もう言い訳のしようがなかった。

でもたかだか13歳の当時のわたしには「そう、本になるの!」と自慢したい気持ちよりも、「やばい!恥ずかしい!学校で問題になったらどうしよう!」という恥ずかしさと不安の方がはるかに勝っていたので、それはもう必死に言い訳を考えた。

これは今でもなんとなく覚えているけど、「友達とふざけて好きな人にラブレターを書き合う遊びをしていて、友達がそれを勝手に投稿してしまった」というようなことを言った、たしか。く、苦しい……。そして架空の友だちよ、ごめん。

その後、急にキラキラと輝いていた書籍化の話が、一変して恐怖以外の何ものでもなくなった。クラスだけじゃなくて学校内で広まって、ほぼ挨拶しかしたことのない先生本人にも伝わってしまって、何か変なことになってしまったら本気でこの学校で生きていけない……と思って、家に帰ってすぐさま担当の方にダメ元でメールをした。

「わたしの文章の掲載を取り下げていただけませんか」

今思えば、中学1年生で、親に見てもらうこともなくよく編集部の方とメールでやりとりをしていたな、とちょっと感心してしまうのだけど、まあそれは置いておいて、このように急で不躾なお願いをした。

すると案の定、すでに契約がされているので今から掲載を取り下げることができない旨と、何か理由があるならば教えてほしい、と気遣う丁寧なメールが返ってきた。わかっていたけれど絶望だった。絶望しながらも、素直に学校でバレてしまった経緯を説明した。

その結果、実際に出版はされてしまうけれど、学校の人たちが目にする機会が多いであろう公式HP上からは投稿を削除する対応をして下さることになった。担当の方は、こんな考えなしに投稿した浅はかながきんちょ中学生の相手をよくしてくださったなあと思う。今更ですが、この場を借りて本当にごめんなさい。

その後本は出版され、本屋さんにも並んだ。結局学校で騒ぎになったかというとそうでもなくて、ただわたしがこの話題を極力避けていただけで、何となく上級生からも小さなざわざわがあったり、ちらほら噂があったりなかったり。当時のそこの記憶がすこーんと抜けているから、何か嫌な思い出があったのかもしれないけど、まあ今はほとんど覚えていないのでよしとする。

献本が自宅に送られてきたときは、もう恥ずかしすぎて、自分の部屋で唯一鍵がかけられる引き出しの奥深くにつっこんで鍵をかけた。家族だけでなく、自分自身も届かないところにしまい込むことで、一連の話をなかったことにしようとしたのだ。

この出来事は、できればあまり思い出したくない黒歴史としてわたしの人生に刻み込まれた。

◇ ◇ ◇

それから10年。こうしてまた本を開く機会があったわけだけど、開き直って読んだり当時を思い返したりすると、いろんなことが見えてきた。

編集部による本のあとがきを見ると、約1か月で5000件以上の投稿があり、総アクセス数は520万以上だったらしい。このあとがきも今になって初めて読んだけれど、10年前と考えると結構な数だと思う。

今みたいにいいね!がまだまだ浸透していなかった世の中で、誰かに評価されることを意図しないで書いたものが、共感されたり支持されて形になったのって、実はすごい光栄なことだったのかもなとはじめて思った。

それに、こうして振り返ってみるとわたしは昔から書くことが本当に好きだったのだなと思う。好きに物語を書いて、読んでくれた人とコミュニケーションをとって(知らない人とこっそり住所交換して文通とかしてた)、それが楽しくてうれしくてまた書いて……

ってなんだ、今とやってること同じじゃん!

そうやってずっと生きてきたのだなあと、思わぬところで自分の人生を顧みる機会を得たりして。

と同時に、思い出したくない黒歴史でありパンドラの匣のような暗くてもわもわとしたこの出来事が、シュルシュルと成仏していく感覚になった。こうやってちゃんと読んで、思い出して、過去のこの瞬間に向き合うことで、黒歴史を成仏させることができたのかもしれない。

それに、このときは恋に恋してひとりでじたばたしてたけど、今はネットに投稿しなくても、直接気持ちを伝えられて、一緒に分かち合える相手がいる。ちゃんと進んでる。

13歳のわたしよ、大丈夫。好きな人が自分を好きになってくれるなんて奇跡、あり得るのか?と思ってると思うけど、ありがたいことにちゃんとあるよ。妄想してたこともだいたい叶うから、楽しみにしておいて。

23歳のわたしも、これからどんどん好きに書いてそれが結果的に世の中に必要とされたらいいなと思うし、今度は「わたしが書いたんだよ!」と友達に胸を張って言えるように頑張りたい。頑張るから待ってておくれ〜〜〜!

p.s. こんなふうに、本の中には文章に合った写真が入っている。わたしの好きだった先生は白衣を着ていなかったし、そもそも授業を教わったことはなかったけれど。先生は今、どこで何をしているのだろうか。

幸せに暮らしているといいな。

手紙の全文は、墓場まで持っていくか、いつか結婚式の二次会とかでネタとして公開します!!!!!!

(おしまい)

#エッセイ #コラム #日記 #note #手紙 #恋愛

illustration:tatsumi_jinan

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