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本屋大賞2024ノミネート小説全作レビュー【第1位〜第3位編】

4月10日、「本屋大賞2024」受賞作が発表された。本屋大賞は2004年にはじまった文学賞。全国の書店員さんがその年に読んで面白かったと思う本を推薦し、全部で10のノミネート作の中から最も支持を集めた作品に大賞が与えられる。目利きの書店員さんが自身の読書経験を生かし、ぜひ売りたい推しの本を選ぶというのだから、読んで間違いのない作品のオンパレードになっている。

2月のノミネート作品発表以降、筆者は10作品全て読んだ。初めての経験だった。

それで実際にやった結果……想像をはるかに上回る楽しい日々を過ごすことができた! 挑戦してみて、本当に良かったと思う。全く知らない作家さんの作品もあるし、それほど得意ではないジャンルの作品だってあった。でも、目利きの読書家から勧められた本を読むほど「自分の世界を広げる」方法は他にはない。

もちろん「得意ジャンル」を軸足として持つことは大事だけれど、それがいかに狭い範囲だったかを思い知り、そして打ちのめされるという経験は、ずっと記憶に残り続けるものだろう。

それでは、これから全3回に分けて1位から順に読みどころを紹介しよう。

第1位『成瀬は天下を取りにいく』作:宮島未奈/新潮社

【ひたすらゲラゲラ笑える青春コメディ誕生!】

今回の本屋大賞ノミネート作の中で、一際異彩を放つコメディ路線の作品。読み進めるための気合いなんてものは一切必要無く、作中の至るところに仕掛けられた「ボケ」をとにかく楽しめばいい。本作が1位に輝いたのは、「笑い」というシンプルな強みが効いたからではないかと思う。

主人公の中学2年生・成瀬あかりは、いつも大真面目に斜め上をゆくキャラクターだ。彼女の人生最大の目標は、200歳まで生きること。他にも、いつか達成したいことは山ほどあって、けん玉名人、巨大シャボン玉職人、日本一のお笑い芸人、デパート経営者……などなど。しかも、日々目標達成のための努力に余念がなく、独自の理論を編み出して実践している。

本作は、そんなツッコミどころ満載な人物とどう付き合うべきか、ヒントをくれる。「奇人変人」扱いして、関わりを避けるなんてのは実にもったいない。むしろ一緒になって楽しんだ者勝ちなのだという。喩えるなら、アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズのハルヒと相棒役・キョンみたいな関係を想像すると分かりやすい。

読めば主人公に魅了され、笑わされ、元気を貰えること間違いなしの一冊だ!


第2位『水車小屋のネネ』作:津村記久子/毎日新聞出版

【ネネにMVPを贈りたい】

本作は、18歳と8歳の姉妹が育児放棄の家庭から飛び出し、見知らぬ田舎町へ移り住むというストーリー。こう紹介すると何ともハードな内容に見えるが、水車小屋を併設した山奥のお蕎麦屋さんという、実に素敵なロケーションでドラマが繰り広げられる。

主人公の姉妹は未成年なので、当然、独力で生活を成り立たせることはできない。だから2人は、元々は縁もゆかりもなかった相手から助けられながら生きてゆく。そういった人間関係の輪の温もりは、おそらくどの読者にとっても、大なり小なり感じたことがあるはずだ。

本作によると、助けてくれる相手は「人間」だとは限らない。それが水車小屋に住むヨウムのネネ。ネネこそが、本作を本屋大賞第2位へ押し上げたのだと思う。

ネネは、まるでE.T.のような聡明かつ純粋な心の持ち主で、姉妹の危機を救って大活躍する。そんな「人ならざる者」を描くことで、本作は育児放棄や貧困という深刻なテーマを扱いながら、おとぎ話みたいな優しい読み心地になっている。


第3位『存在のすべてを』作:塩田武士/朝日新聞出版

【松本清張を「師匠」と仰ぐ塩田武士の最新作】

過去作『罪の声』も読んでみると分かるのだが、塩田作品には、いわゆる「天才名探偵」は出てこない。今作、二児同時誘拐事件の謎に挑む主人公・門田は、全国各地へ飛びまわって調査する。何日も何日もかけ、泥臭く聞きこみをし、現地の図書館で資料をあさる。

実際に出向かわなければ知りえなかった事実を組み合わせ、事件の真相を浮かび上がらせていく過程そのものが面白く感じられるように描かれている。足で稼ぐタイプの探偵役を主人公に据えるのは、まさしく松本清張作品を彷彿とさせる。

また、事件自体だけでなく、なぜ事件が起こったのか、犯人の個人的動機と社会的必然性にもフォーカスする。そのあたりも「師匠」へのリスペクトがあると思われる。

本作の裏テーマは、先述した2位の『水車小屋のネネ』と同じく、育児放棄と貧困だ。実は、6位『黄色い家』(川上未映子)・8位『星を編む』(凪良ゆう)とも共通する。今、この問題を描く作品が広く読者から求められているのだと切に感じるし、本屋大賞ノミネート作品を読むこと=時代の空気を掴むことだと再認識した。


それでは、続きは【第4位〜第6位編】で。次回の記事も読んでいただけると嬉しいです!

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