感銘を受けた漫才
寝転がって、画面に映る、お笑い芸人さんたちを眺めて笑いを零す。そんなことを毎日しているから、毎日笑いが絶えない。今回は私が見た、感銘を受けた漫才への記録。
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こんな感じで、チャンネル登録した芸人さんのチャンネルの最新動画を遡る。サムネイルの画像だけで笑っちゃうものもある。だからスクロールして眺めるだけでも楽しい。いつものように画面を眺める。気になるものをタップする。動画を見る。笑う。それを繰り返す。そしたら、その中に、目を引くものが現れた。
「不吉」
サムネイルの画像の写真いっぱいに、水色でこの文字が書いてある。写真は漫才師のマイクの前での立ち姿。
見ようと急いだ訳では無い。なのに、気づいたらそのサムネイルをタップしていた。気づいたら、画面はこの漫才を映そうとしていた。
「不吉」なんて題名だから、物騒?なネタかな...
なんて構えていたのに、それは全くの別物だった。
私の感覚で文字にすると、面白くなくなってしまうので、是非見て欲しい。
叫んだり、勢いまかせなところがひとつもない。
だが、こんなに作り込まれた展開なのに、どこか抜け感のあるふわっとした雰囲気。
この題名なのに、この漫才は、大人が可愛らしいどんぐりの背比べみたいな言い合いを繰り広げていた。それが面白くて、口角は上がりっぱなし。最後まで笑みが零れて、本当に7分か?と思うくらいの、とてつもない満足感がやってくる。この満足感に、私は地に足がつかないような感覚を覚えた。
でもこの漫才は、8年前のもの。私がお笑いに出会ううんと前。10歳の記憶なんて無いに等しいし。それに加え(解散)と書いてあるのだった。
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M-1グランプリ2021準々決勝のネタをいくつか見た。ワイルドカードで通過した滝音、Twitterで話題だったラパルフェ、現役NSC生で進出していた軍艦、それからフースーヤ、カラタチ、アントワネット、コットン、三日月ヶ浜。
コンビの三日月マンハッタンと、ピン芸人の浜村凡平太さんとのユニットトリオ。
私は3回戦のネタの動画を見てこのトリオを知った。それが凄く面白かった。だから浜村さんのチャンネルを登録していた。
もう見ることが出来ないため、見てない方には伝わらないと思うので、数字で表すと、M-1グランプリの総エントリー数は、昨年は最多の6017組だった。三日月ヶ浜が進出した準々決勝は127組しか残らなかった。ここまで上り詰める確率は0.02%。ここまで上り詰める漫才師たちが、面白くないわけが無いのだ。
そうして記憶に新しく、浜口浜村の「不吉」の漫才を見た。
この漫才にかなりの衝撃を受けた私はすぐさま経歴などを調べようとWikipediaを探す。
愛知と、同郷で親近感があった。それに加え、活動開始年は私の生まれ年と、関係ない所にも感激した。
2015年末に浜口浜村を解散し、浜村さんはピン芸人となる。2020年のR-1ぐらんぷりの決勝に行かなければ事務所を退社すると宣言したが、惜しくも準々決勝で敗退し、フリーに転換。翌年は、プロとしての年数を数えたら、10年以内だからと、新生R-1グランプリにエントリーし、1回戦通過。2回戦を控えていた時点で大会側から「規定違反だ」と失格を食らう。
ここまでついていない人がいるのかと、運があれば売れたんじゃないかなんて想像する。調べ続けると、そこにはM-1グランプリ2021についても書いてあった。それに私は衝撃を受けた。
あのネタが浜口浜村時代のもの。それを知ったとき、既に浮いていた足がより浮かぶ感覚がした。このどうしようもない、何かも分からない感覚が身体に穴を開けるように私を貫いた。
やっぱり、この面白さはもっと評価されるべきであり、本当に運が無かっただけではないか、と思ったのだ。
10年、15年という月日は、宇宙の瞬きの一瞬も一瞬にすぎない。その中でどれだけの原石が拾われるか。そんな途方もない極小の確率の中で、名も無きお笑い芸人さんたちは、もがき、足掻き、笑わせようとし続ける。その過程で名を刻み、歴史を刻み、より多くの大衆を笑わせようとする。だが、この短い期限の中で、一体どれだけの美しい原石が、見つからず、拾われず、埋もれてしまうのだろう。2021年も、たくさんの漫才師たちが、M-1グランプリの敗退後にコンビを解散していた。賞レースは、"諦めさせる指標"という役割も持つ。
14年目にしてようやくM-1グランプリ決勝に進出したランジャタイ。ランジャタイ国崎さんの連載しているコラムが、M-1グランプリ前日に更新された。そこには、浜口浜村さんの話があった。
漫才への夢を語る浜村さん。袖でスベる呪文を掛けてくる浜口さん。どこまでも漫才に向き合う2人。結果の出ないM-1グランプリ。解散のコメント。苦しそうに笑い、ランジャタイは頑張れよと言う浜村さん。
また、同じ舞台に立ち、漫才をする浜村さん。
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演劇を作る時、コメディを作るのはえらく難解だと私は思う。台本から、演技に至るまで、何もかもが難しい。だって、ウケると思って演じちゃダメなのに、面白いと信じなきゃいけないんだ。
そんな難題に、マイク一本、喋り一本で挑み、敗れ、それでも立ち上がることをやめないお笑い芸人さんたちが、この世には数え切れない原石としてそこに居る。腐っている訳では無くて、見つからない、拾われないだけなのだと思う。
この「不吉」の漫才を見て私は、やはりお笑いが好きだと思った。どこまでも面白い。
これを書き終えたら、浜村さんのピン芸も、他の浜口浜村時代の漫才も見ようと思う。私は宝石を見つけたようだ。