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Lapin Ange獣医師の「ネットで見たんだけど・・」 番外編: オーナーさんを惑わせる間違った迷信

#1のチョコレート#2のタマネギによる中毒の次は,ブドウについてお話しようと考えているのですが,その前に,今回は番外編として,米国の,ペットの健康管理に関する「迷信」です。 (ネット記事っぽく言うと「ワンちゃんの命にかかわる7つのウソ!」というところでしょうか)

私たちの周りにも,様々な「迷信」がありますね。 「夜に爪を切ってはいけない」のように,それなりに意味がありそうなものや,「逆さ箒に手拭いをかぶせて立てておくと来客が早く帰ってくれる」「ミミズにおしっこをかけると○○○が腫れる」といった,ちょっと面白いものから,「鯉やスッポンの生血を飲むと元気になる」「火傷にカエルの皮を貼ると治る」のような怪しげなもの(寄生虫が怖い・・)まで,枚挙にいとまがありません。

米国にも同様の話が色々あるようなのですが,ペットに関わる間違った民間療法について,前にもご紹介した米国動物虐待防止協会(ASPCA: American Society for the Prevention of Cruelty to Animals)の動物中毒管理センター(APCC: Animal Poison Control Center)が作成した「間違った迷信 Myths Debunked」のリストを見つけたので,英語を読むのが面倒な方に,簡単に説明します。

(APCC webサイトからDL)

迷信① 塩で(有毒物を)吐かせる

ワンちゃんが有毒なものを誤飲・誤食した際に,塩(水)を飲ませて吐かせる,というのは時々耳にされるかと思いますが,これはお腹の不具合に繋がる可能性があるだけでなく,電解質バランスの崩れ,心臓への悪影響,さらには震戦(ふるえ)や発作を起こすリスクがあります。

迷信② ミルクは万能治療薬

ミルクは腐食性のある物質などによる刺激の緩和に有効ですが,決して万能ではなく,お腹の不具合を来たす可能性もあります。(ヒトにもある乳糖不耐性による軟便や下痢のことかと思います)

迷信③ 焦げたトーストが毒物を吸収する

焦げたトーストが炭素を含むのは事実ですが,「活性炭」ではないので,毒物を吸着することは出来ません。

迷信④ 生卵がペットの健康に良い

生卵は腹部の不調に繋がる可能性があります。
(私はこれについては懐疑的で,わざわざ生で食べさせる必要はないとしても,特に身体に悪いとは思いません。 多分,サルモネラ感染の懸念かと思われます。 欧米人は卵のサルモネラ菌を怖れ,日本人が生卵を食べるのを見て驚きますが,暫く日本で暮らすと,喜んですきやきに卵をつけて食べるようになります。)

迷信⑤ 3%過酸化水素水で吐かせる

適切な濃度と量の過酸化水素水は,有毒物を吐かせるのに有効ですが,多過ぎると消化器に潰瘍などの重大な問題を起こします。 獣医師の指示が必須です。

迷信⑥ ニンニクがノミ除けになる

ペットにニンニクは禁物です。 赤血球を障害し溶血を起こします。
#2のタマネギ中毒の回で解説した通りです)

迷信⑦ エッセンシャルオイルでノミ除けとスキンケア

植物の果実や花,葉など種々の部分から抽出されるエッセンシャルオイルは,その種類や曝露経路(経口,吸入,皮膚塗布など)によっては嘔吐,抑うつ,筋力低下,重度の体温低下,肝不全,呼吸困難,衰弱,発作等,重篤な状態を誘発する可能性があります。

結論

ワンちゃんオーナーの皆さんも,ワンチャンのしつけや健康管理に関して,ネットや口コミで知識を得ることが少なくないと思います。 勿論,有用な情報も沢山あると思いますが,中には首を傾げるような怪しげな情報や,驚くようなウソも見られます。 どうかネットの記事や動画を鵜呑みにせず,疑問に思っていること等は,クリニックを訪れた際に,遠慮せず,理解・納得できるまで,繰り返し,獣医師に質問して下さい。 オーナーさんの質問を面倒がったり,嫌な顔をするような獣医師は一人もいないと信じたいです。

参考

日本中毒情報センターも「イヌの中毒事故を防ぐために」というリーフレットを用意していますので,ご参照ください。(日本の団体らしい真面目な堅い内容です)

追記

既にこの記事をお読みになって気付かれた方もいらっしゃるかと思い,少し追記します。 上に紹介した日本中毒情報センターのリーフレットによると,過去10年間のイヌの中毒事故のうち,家庭用品と医薬品を合わせると81%を占め,「食品・その他」は僅か4%とされています。 度々紹介しているレビューやAPCCのデータでは,食品による中毒は15%程度あり,今後紹介予定の,2017年に全米で報告された中毒事故事例の中で,各州ごとに最も多かった品目を示したデータでは,チョコレートとキシリトールが最多であった州が相当数あります。 日米間の差の理由について,正確なところは分かりませんが,生活スタイルやペットの飼育環境,身近に置かれている商品の違いなどがあるのかも知れません。 また,米国のデータはクリニックから報告された事例を研究機関などが集計したものであるのに対して,日本中毒情報センターのそれは,センターに相談された事例をまとめたものです。 もしかすると,家庭用品や医薬品の有害性や許容量は分からないため,専門の中毒情報センターに相談されるけれども,ワンちゃんに害のある食品についてはオーナーさんに知識があり,センターに相談するよりも直接クリニックに行かれる場合が多いのかもしれません。

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