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Lapin Ange獣医師の「ネットで見たんだけど・・・」 #1: イヌにチョコレートはダメ! 知ってるけど・・・。 バレンタインは危険?

2月,バレンタインの季節,お家にチョコレートが置かれる可能性が高くなります。 ワンちゃんオーナーの皆さんは,チョコレートがワンちゃんに良くないことは勿論ご存知ですね。 ネットには「ワンちゃんに絶対NGの食品5選!」のような記事が溢れ,必ずチョコレートについて書かれていますが,「ホワイトチョコなら大丈夫」という話もあるし,「ちょっとくらいなら・・」という気もしますね。 本当のところどうなのでしょうか?
ネット記事の信憑性はともかくとして,学術論文にはどう書かれているのか,一つの例として,2016年に雑誌Frontiers in Veterinary Scienceに掲載されたレビュー ”Household Food Items Toxic to Dogs and Cats”の一部を紹介します。


人間にとっては安全でも,イヌやネコの健康に深刻な脅威を与える可能性のある食品がいくつかあります。 過去 10 年間に,チョコレート,タマネギ,マカダミア ナッツ,ぶどう類(ブドウ,レーズン,サルタナ,カラントなど),キシリトール,エタノールなどの誤食・誤飲による中毒の事例が世界中で報告されています。 カンザス州立獣医診断研究所に報告された危険な暴露事故の事例のうち,食品によるものが 14.8% を占めています。 なかでもチョコレートとココアベースの製品が最も多く,キシリトール入り製品,タマネギやニンニク,ブドウやレーズン,マカダミアナッツ,エタノールがそれに続きます。 このような中毒事例は,これらの製品によって小動物に健康被害がおよぶ可能性があることについての知識が不足していることが原因となっています。 飼い主が危険に気づいていないままに,これらの製品が家庭で広く利用されていることを考えると,イヌやネコが思いがけず簡単にアクセスする可能性があります。 イヌは雑食性で何でも食べ,有害な食品を容易に摂取するため,ネコよりもはるかに多く被害を受けます。 チョコレートなどの一部の食品はイヌやネコに中毒を起こすことが古くから知られていましたが,ブドウやその他の食品は,以前は問題になる可能性は低いと考えられていたため,潜在的な懸念として浮上したのはここ数年だけです。 重大な中毒の症例も,何年もの間,誤って診断されていました。 
メチルキサンチン
カフェイン,テオブロミン,およびテオフィリンを含むメチルキサンチンは,さまざまな食品,飲料,医薬品,その他の製品に多く含まれています。 カフェインは,コーヒー,お茶,ガラナに含まれており,多くの清涼飲料の添加物としても含まれています。 テオブロミンは,カカオの種子と,それから作られたチョコレートなどに含まれています。 テオフィリンはカフェインとともにお茶に含まれています。 さらに,カフェインは覚醒を高めるために人間の薬に使用され,テオフィリンは気管支拡張剤として広く使用されています。 メチルキサンチンは,筋肉の収縮を増加させます。 その複合的な作用は,中枢神経と心臓の筋肉の両方を刺激し,気管支筋の弛緩,利尿をもたらします。 メチルキサンチン中毒の症例は,ガラナやカカオ豆の殻で作られたガーデンマルチ,カフェインタブレット,およびカフェインを含有する餌やサプリメントの摂取後に報告されていますが,ほとんどの中毒事例はチョコレートの摂取の結果として発生します。 ネコの中毒も発生する可能性がありますが,何でも食べるイヌが最も多く被害を受けます。 チョコレートは,過去数年間に報告されたイヌの中毒症の中で最も多く発生しています。 家庭にチョコレート製品が存在する可能性が高いクリスマスの頃に,中毒が多く発生します。 チョコレートには,テオブロミンだけでなくカフェインが含まれていますが,濃度ははるかに低いです。 テオブロミンとカフェインの濃度は,チョコレートの種類によって異なります。 無糖のベーキング チョコレートとココアパウダーには,通常1 gあたり 14 ㎎以上のテオブロミンが含まれています。 セミスイートダークチョコレートとミルクチョコレートには,それぞれ1 gあたり約 5 mg および2 mg のテオブロミンが含まれていますが,ホワイト チョコレートにはテオブロミンはほとんど含まれず,問題にならないと考えられます。 データによると,イヌが20 mg/kg のテオブロミンとカフェインを摂取したときの臨床症状は軽度ですが,40-50 mg/kg で重度の臨床症状が観察され,60 mg/kg で発作が起こります。 イヌでは,生まれつきこれらの物質の代謝活性が低い場合があり,中毒のリスクが高くなる可能性があります。 イヌでは,カフェインは摂取後急速に吸収されますが,テオブロミンの吸収は 10 倍遅く,血中濃度がピークになるのに約 10 時間かかります。 一般に,摂取後 2 ~ 4 時間以内に最初の臨床症状が観察され,落ち着きのなさ,多飲,尿失禁,嘔吐,および下痢が起こる可能性があります。 犬は興奮状態になり,顕著な高熱や頻脈を示すことがあります。 中毒が進行するにつれて,高血圧,不整脈,筋肉の硬直,運動失調,発作,昏睡が観察されることがあります。 不整脈や呼吸不全で死亡することもあります。 イヌが危険な量のテオブロミンを摂取した場合,催吐剤を投与して吐かせるか胃洗浄を行い,活性炭の投与,細心の注意を払った支持療法が治療の主力であるべきです。 摂取後 2 ~ 4 時間以内に効果的な除染(嘔吐,胃洗浄)が行われた場合は,予後は通常良好です。

(上記レビューより抜粋・翻訳・一部改変)

要約すると,

  • チョコレート関連でワンちゃんに有害な物質は,チョコレート以外にコーヒーやお茶にも含まれるけれども,特に有害なものはチョコレートに多く,実際に中毒事故の頻度も高い。

  • チョコレートの種類によって有害な物質の含量が異なり,ダークチョコレートにはミルクチョコレートよりも多く含まれている。 ホワイトチョコレートは問題ない。

  • ワンちゃんが中毒を起こした場合,中枢神経や心臓関連の他,色々な症状が現れる可能性があり,重篤な場合は生命の危険もある。

  • もし懸念のある量のチョコレートを食べてしまった(と思われる)場合は,直ぐに病院に行き,薬で吐かせる,胃洗浄を行うなどして,出来るだけ身体からチョコレートを除去する。

やはり常識として言われているように,ワンちゃんにとってチョコレートはかなり危険なようです。 ミルクチョコレートはダークチョコレートに比べると有毒な物質は少ないですが,たくさん食べると危険ですね。
では実際に,どんな製品をどれくらい食べたらどんな影響があるのか,私が試算した結果を下の図にお示しします。

チョコレート製品による影響は,含まれるメチルキサンチンの総量によって決まります。 横軸に体重1 kg当たりのメチルキサンチンの摂取量(mg/kg),縦軸にはそれが含まれるチョコレート製品の量(ワンちゃんの体重1 kg当たりの量:g/kg)を示しています。 例えば,興奮や嘔吐・下痢などを起こす可能性があるメチルキサンチン20 mg/kgは,ミルクチョコレート約8 g/kgに含まれていると判ります(青色の破線)。 なので,体重5 kgのワンちゃんだと8×5=40 gとなり,このワンちゃんにとって40 gのミルクチョコレートは軽い症状を起こす可能性があると考えられ,30 gくらいなら多分大丈夫と思われます。 またダークチョコレートやインスタントココアだと約3.3 g/kg(体重5 kgだと17 gくらい),ココアパウダーの場合は約0.6 g/kg(体重5 kgだと3 g)に相当すると考えられます。

この時期,チョコレート製品による事故は現実に起こり得ると思いましたので,少し煩雑な説明をしましたが,要は,チョコレート製品はしっかり管理して,万一,上の図の黄色やピンクゾーンのチョコレート製品を食べてしまった(かもしれない)場合は,直ぐに病院に行って,適切な処置を受けてください。
どうぞ,安全なバレンタインをお過ごし下さい。

(図を含む全ての内容につき無断転載を禁じます)

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